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社交デビュー
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「リリアナ、これを。」
後ろから鏡越しにシエルが近づいてくると、私の胸元に豪華な首飾りが巻き付けられた。
「これは…。」
デザインは変えてあるが真ん中にある濃い緑の大きな石に見覚えがあった。昔、私がシエルと結婚する時に贈られた石だった。大きさも大きいのだけど、覗き込むと内包する光が独特の色合いに見える、かなり珍しいものだと聞いた。
まだ、どこかに仕舞ってあったのね。知らなかった。
ふと鏡越しにシエルを見ると、まるで私の反応を視るようにこちらをじっと見ていた。
こんな素敵な宝石は初めて見ましたといった顔で、にっこりと笑ってお礼を言う。
「お父様、ありがとうございます。わざわざ今夜の為に用意してくださったのですか?」
もちろん、この石の元の持ち主について触れるつもりはない。
「いや、以前から我が家にあったものだよ。デザインは古くなっていたから宝石商に言って新しくしてもらったけどね。」
シエルがふと目をそらして答える。
「そうなんですね。とても素敵です。こんな素敵な石が我が家にあったなんて!ねぇ、マリー、サンドラ素敵よね。」
ふっ、勝った!
「はい!そのドレスにも合っていて本当に素敵です!」
「お揃いの耳飾りもございますので、お付けしますね!」
シエルと宝石に見とれていた二人は、慌ててお揃いで作ったらしい耳飾りを私につけてくれる。
しずく形の石が垂れ下がった豪華なデザインは、アップにした髪にとても映えた。
だいたい、私の前世の持ち物なんてこの屋敷に残してあったなんて知らなかった。
前世に私たちが暮らしていた屋敷はここではなかった。
なので、亡き妻である私の持ち物は処分してしまったのかと思っていた。きっと、シエルの部屋に残してあるものもあるのかもしれない。
私たちが住んでいたのはもっと郊外の、王都からは数日は掛かる場所で、一番近くの村からも半日はある断崖絶壁の上のお城のような屋敷だった。
よくもまあこんなところにこんな屋敷がと、初めて連れていかれた時は思ったが、人嫌いの大魔法使いにとっては都合が良いのだろうと思っていた。
もちろん、結婚してからは社交界に顔を出すこともなくほとんど世間とは断絶した生活だった。
それでも、何不自由なく暮らせたのはシエルと周りの使用人たちのおかげだった。
おかげだった...。けど、あれはやっぱり監禁に近いと思う。
実家に帰らしてもらうこともなく、王都の友人たちとは結婚当初こそ手紙のやり取りはあったけど、誘われても社交の場に参加することがないため段々それも疎遠になってしまった。
それにしても、どういうつもりでこの石を持ち出してきたのかしら。今の私は、前世にシエルと出会った頃の私にどんどん似てきている。
自分の亡き妻にそっくりな拾い子に、思い出の品をプレゼントしたかったのだろうか?
まさか、生まれ代わりだとはばれていないはずだけど、顔は似ているのは分かっているはずだし。
さっきも前世の私を思い出してじっーと見ていたのかも。
「リリアナ、もう着くぞ。」
ハッとして自分が城までの馬車の中で考え込んでいたことに気が付いた。
「大丈夫か?調子が悪いなら、少し控え室で休ませてもらうか?」
シエルが心配そうに、横から顔を覗き込んでいた。
いきなりはドアップで視界に美形顔が飛び込んできてびっくりする。
「だ、大丈夫です!」焦って挙動不審になっているのが自分でも分かった。
「緊張しているのか?無理するなよ?」
本当に心配そうに眉を潜めるシエルに、疑いを持って考え込んでいたことに少し罪悪感を感じた。
はい、返事をして小さくため息をついた。
「あと、お父様と呼ぶのは禁止だ!」
「はぁ..。」
さっきまでの私の罪悪感を返して欲しい。
城の大広間は既に人で溢れていた。
なんか懐かしい。前世の社交界デビューを思い出してしまう。
もう記憶も朧気だけど、前回はお父様(本当のね。)にエスコートしてもらってドキドキしながらこの大広間に足を踏み入れた。
そして、シエルに会って後は怒涛の結婚まで持ち込まれたんだっけ...。
あ、なんかせっかくのいい思い出だと思ったのに腹が立ってきた。
思わずシエルの腕に絡めた手にぎゅっと力が入り、心配そうに顔を覗き込まれる。
何でもない振りをしてニッコリと微笑むと私が緊張していると思ったのか、自分の腕に絡めた私の手に反対の手をそっと重ねて安心しろという風にニッコリと微笑んだ。
その瞬間、周りがざわっとどよめいたのは気のせいではないと思う。
特に女性たちの悲鳴にも似た声が響き渡ったのは間違いない。
「リリアナ~。」
そんな周りの空気を消し去ってしまう、軽い軽い声が掛かる。
「リカルド!来ていたのね!」
見知った顔を見てほっとする。
「リカルド、お前は自分の上司を無視してリリアナに声を掛けるのか?」
あっという間にいつもの不愛想モードに戻ったシエルが、リカルドに不満を漏らす。
「いや~、だって大魔法使い様とは毎日会っていますから。リリアナ、早速だけど踊らない?」
「え?あ、はい。」
今日、社交界デビューする子息子女は国王夫妻に挨拶をするのが習わしだけど、お二人が登場するのはまだ先のはずなのでそれまでは社交&ダンスで世間の情報収集に勤しむのが正しい大人の貴族のあり方だ。
特に断る理由もないし、リカルドなら安心かと了承する。
「何を言っている!最初にリリアナと踊るのは私だ。」
「え~?!大魔法使い様、踊れるんですか?」
リカルドが驚愕して、貴族の子息らしからぬ大きな声を出した。
「当たり前だ。」
憮然とした表情でシエルが答える。
確かに前世では私と踊ったこともあるけど、普通に踊っていた。というか、かなり上手かったと思う。
初めて会った時にも踊ったし、結婚してからも二人きりで自宅で私の相手をしてくれたこともある。
そうか、リカルドが驚くということは人前で踊ることはほとんど無いのだろう。
「えっと、じゃあお父様じゃなくてシエルと1曲踊ってから、次はリカルドにお願いしようかなぁ~。」
リカルドがこれ以上シエルの怒りを買わないように、妥協点を提案する。
「え~、父親とファーストダンスなんて楽しくないですよ。だいたいお二人が踊ったらそのあとはひっきりなしにダンスの誘いがあるに決まってますって!」
いや、なんでよ!
リカルド!せっかく私が穏便に納めようとしているのに!
空気を読んで!
いや、この空気を読まないところが彼の強みでもあるけど!
シエルから冷気が漂っている気配がして、不味いと思った時、国王夫妻が登場する先触れの声が会場に響き渡り、人々のざわめきが広がった。
後ろから鏡越しにシエルが近づいてくると、私の胸元に豪華な首飾りが巻き付けられた。
「これは…。」
デザインは変えてあるが真ん中にある濃い緑の大きな石に見覚えがあった。昔、私がシエルと結婚する時に贈られた石だった。大きさも大きいのだけど、覗き込むと内包する光が独特の色合いに見える、かなり珍しいものだと聞いた。
まだ、どこかに仕舞ってあったのね。知らなかった。
ふと鏡越しにシエルを見ると、まるで私の反応を視るようにこちらをじっと見ていた。
こんな素敵な宝石は初めて見ましたといった顔で、にっこりと笑ってお礼を言う。
「お父様、ありがとうございます。わざわざ今夜の為に用意してくださったのですか?」
もちろん、この石の元の持ち主について触れるつもりはない。
「いや、以前から我が家にあったものだよ。デザインは古くなっていたから宝石商に言って新しくしてもらったけどね。」
シエルがふと目をそらして答える。
「そうなんですね。とても素敵です。こんな素敵な石が我が家にあったなんて!ねぇ、マリー、サンドラ素敵よね。」
ふっ、勝った!
「はい!そのドレスにも合っていて本当に素敵です!」
「お揃いの耳飾りもございますので、お付けしますね!」
シエルと宝石に見とれていた二人は、慌ててお揃いで作ったらしい耳飾りを私につけてくれる。
しずく形の石が垂れ下がった豪華なデザインは、アップにした髪にとても映えた。
だいたい、私の前世の持ち物なんてこの屋敷に残してあったなんて知らなかった。
前世に私たちが暮らしていた屋敷はここではなかった。
なので、亡き妻である私の持ち物は処分してしまったのかと思っていた。きっと、シエルの部屋に残してあるものもあるのかもしれない。
私たちが住んでいたのはもっと郊外の、王都からは数日は掛かる場所で、一番近くの村からも半日はある断崖絶壁の上のお城のような屋敷だった。
よくもまあこんなところにこんな屋敷がと、初めて連れていかれた時は思ったが、人嫌いの大魔法使いにとっては都合が良いのだろうと思っていた。
もちろん、結婚してからは社交界に顔を出すこともなくほとんど世間とは断絶した生活だった。
それでも、何不自由なく暮らせたのはシエルと周りの使用人たちのおかげだった。
おかげだった...。けど、あれはやっぱり監禁に近いと思う。
実家に帰らしてもらうこともなく、王都の友人たちとは結婚当初こそ手紙のやり取りはあったけど、誘われても社交の場に参加することがないため段々それも疎遠になってしまった。
それにしても、どういうつもりでこの石を持ち出してきたのかしら。今の私は、前世にシエルと出会った頃の私にどんどん似てきている。
自分の亡き妻にそっくりな拾い子に、思い出の品をプレゼントしたかったのだろうか?
まさか、生まれ代わりだとはばれていないはずだけど、顔は似ているのは分かっているはずだし。
さっきも前世の私を思い出してじっーと見ていたのかも。
「リリアナ、もう着くぞ。」
ハッとして自分が城までの馬車の中で考え込んでいたことに気が付いた。
「大丈夫か?調子が悪いなら、少し控え室で休ませてもらうか?」
シエルが心配そうに、横から顔を覗き込んでいた。
いきなりはドアップで視界に美形顔が飛び込んできてびっくりする。
「だ、大丈夫です!」焦って挙動不審になっているのが自分でも分かった。
「緊張しているのか?無理するなよ?」
本当に心配そうに眉を潜めるシエルに、疑いを持って考え込んでいたことに少し罪悪感を感じた。
はい、返事をして小さくため息をついた。
「あと、お父様と呼ぶのは禁止だ!」
「はぁ..。」
さっきまでの私の罪悪感を返して欲しい。
城の大広間は既に人で溢れていた。
なんか懐かしい。前世の社交界デビューを思い出してしまう。
もう記憶も朧気だけど、前回はお父様(本当のね。)にエスコートしてもらってドキドキしながらこの大広間に足を踏み入れた。
そして、シエルに会って後は怒涛の結婚まで持ち込まれたんだっけ...。
あ、なんかせっかくのいい思い出だと思ったのに腹が立ってきた。
思わずシエルの腕に絡めた手にぎゅっと力が入り、心配そうに顔を覗き込まれる。
何でもない振りをしてニッコリと微笑むと私が緊張していると思ったのか、自分の腕に絡めた私の手に反対の手をそっと重ねて安心しろという風にニッコリと微笑んだ。
その瞬間、周りがざわっとどよめいたのは気のせいではないと思う。
特に女性たちの悲鳴にも似た声が響き渡ったのは間違いない。
「リリアナ~。」
そんな周りの空気を消し去ってしまう、軽い軽い声が掛かる。
「リカルド!来ていたのね!」
見知った顔を見てほっとする。
「リカルド、お前は自分の上司を無視してリリアナに声を掛けるのか?」
あっという間にいつもの不愛想モードに戻ったシエルが、リカルドに不満を漏らす。
「いや~、だって大魔法使い様とは毎日会っていますから。リリアナ、早速だけど踊らない?」
「え?あ、はい。」
今日、社交界デビューする子息子女は国王夫妻に挨拶をするのが習わしだけど、お二人が登場するのはまだ先のはずなのでそれまでは社交&ダンスで世間の情報収集に勤しむのが正しい大人の貴族のあり方だ。
特に断る理由もないし、リカルドなら安心かと了承する。
「何を言っている!最初にリリアナと踊るのは私だ。」
「え~?!大魔法使い様、踊れるんですか?」
リカルドが驚愕して、貴族の子息らしからぬ大きな声を出した。
「当たり前だ。」
憮然とした表情でシエルが答える。
確かに前世では私と踊ったこともあるけど、普通に踊っていた。というか、かなり上手かったと思う。
初めて会った時にも踊ったし、結婚してからも二人きりで自宅で私の相手をしてくれたこともある。
そうか、リカルドが驚くということは人前で踊ることはほとんど無いのだろう。
「えっと、じゃあお父様じゃなくてシエルと1曲踊ってから、次はリカルドにお願いしようかなぁ~。」
リカルドがこれ以上シエルの怒りを買わないように、妥協点を提案する。
「え~、父親とファーストダンスなんて楽しくないですよ。だいたいお二人が踊ったらそのあとはひっきりなしにダンスの誘いがあるに決まってますって!」
いや、なんでよ!
リカルド!せっかく私が穏便に納めようとしているのに!
空気を読んで!
いや、この空気を読まないところが彼の強みでもあるけど!
シエルから冷気が漂っている気配がして、不味いと思った時、国王夫妻が登場する先触れの声が会場に響き渡り、人々のざわめきが広がった。
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