長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

Ｓ.B 二

　「俺の兄達も双子だけど、あの親だから、子供が一度に二人生まれたってんで、盆と正月が来たような騒ぎだったそうだけど、例外だね。

　双子の娘を手元で育てる富山家も、愛情豊かな家だと考えられるが、二人は差をつけられて育てられていたそうだ。

　高子さんは跡取りとして着る物、部屋、装飾品、果ては食事まで、主である男爵の次に優遇されていた」

「されていた?」

　隼人の無意識の言葉尻を捉えて、圭が口を挟む。

「そういえば先程、男爵は嫁に出すと」

「あぁ。

　二人の母親は六年前に亡くなっていて、四年前、伯爵家から後妻を迎えている。今は二歳になる男の子がいて、長男誕生と共に、姉妹の立場は対等になった」

「つまり、高子さんは跡取りではなくなり、嫁に出されることになった」

「そう。

　悪い人ではないのだけど富山男爵って人は、権威欲がとても強い。富を得てからはあちらこちらに手を回して爵位を手に入れた。

　後妻も、身分に拘って迎えた。恐らく、高子さんの相手も華族だろう」

「更なる野望の為に、末娘がお荷物になってはならぬ。と言うことですか」

「だろうね」

　でも。と、圭は小首を傾げた。

「長瀬さんが感じた、園子さんの男性に対する態度、日記に記された男性への批判。男性批判する令嬢が恋愛問題って」

「Sだろうね。

　知ってる?　男子はBか」

「BrotherとSistarですね」

　兄弟姉妹。直訳すればそれだけの意味だが、ここでは違う。

　男女七歳にして席を同じゅうせぬこの時代、異性は常に、離れた場所で育てられる。兄弟姉妹でさえ、家によっては直接言葉を交わすことさえ許されぬとか。

　恋愛を軽々しい事と教え込み、結婚は父親の決めた相手こそが相応しいと教育される。

　皆、分かっているのだ。将来は家柄の釣り合う異性と、穏やかな家庭を作る。それこそが自分たちの役割だ。と。

　しかし、少年少女の心は、浪漫を求める。恋愛を、唯一無二の恋人を求める。

　少年は、女など。と考える。女に時間を割くなど無駄だ。と。

　少女は、美しい恋がしたいと考える。美しく、甘やかな恋。そうして身近な同性を求めるのだ。

　男子校では、中性的な子が標的になっている。

　女学校では、美しい子、優秀な子、運動のできる子が、上級生からも、下級生からも人気で、お姉様と妹として、特別な関係を結んでいる。