長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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S.B 三

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 元々は可愛らしい関係であった。彼こそは、彼女こそは自分だけのものだと満足するばかりの。今では、本物の恋人のように、際どい関係に変化しているという。

 教師にとっても、父兄にとっても頭の痛い問題になっている。

「君も、言い寄られたんじゃないの?」

「嫌な事を仰らないで下さい。

 それにしても、女学生の間でもそんなことが流行っているのですね、嘆かわしい」

 圭らしからぬ語気の荒さに面食らいつつ、様子を確認すると、唇を噛み締め、更に表情を堅くした。

「学生の本分は勉学でしょうに、恋愛ごっこに浮かれるなど、愚かしい」

「仕方ないよ、人間、恋愛に憧れるようにできているんだ。特に少女にとっては、綺麗な夢なんだよ」

「同性で愛も恋もないでしょうに。

 いえ、私は決して、偏見を持って申し上げているのではありません。同性に対して、真の愛情を向かわせる人もいるでしょう。本物の愛情であれば、美しいだろうと、私にだって分かります。

 しかし、Bとは、女に触れるのは青春の消耗だ、堕落だと言いながら、捌け口を身近な同性に向けているだけではありませんか。そんなものは愛でも恋でもありません」

「えらく具体的だね」

 圭は万年筆を持ち上げると、蓋を閉じようとして、一度失敗した。

「君らしくなく、感情的だな、珍しく」

 圭は上目遣いに隼人を睨んだ。

「理由はお気づきでしょう?」

「恐らくね」

 美しく、華奢な圭を狙わずに、他の誰を狙うのか。さぞかしもてたであろうことは、考えるまでも無い。

「だからもう、学校には通いたくはないのです」

 隼人も大学まで行っているから、圭の境遇を想像するのは難しくなかった。

 学校という組織は、先輩の意見は絶対とされている。例え間違った意見であろうと、間違っている。とは正面切って言えないのである。

 隼人もまだ小柄で幼顔だった頃、幾人かに言い寄られた過去がある。

 幸い、最上級生だった兄のお陰で難は逃れたのであるが、それがなければ、どんな目に遭っていたかとは、考えたくも無い。

 翌年には丈が伸びて、学校一ののっぽになってからは、言い寄って来る者はいなくなったのである。

「気持ちは分かった。勉強は協力する。もし、学校に通いたいと思ったなら、遠慮せずに言って欲しい」

 圭は複雑そうな表情を見せたまま、それでも小さく頷いた。
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