長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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少女 二

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 「勉強は、大丈夫だよ。女学校は裁縫、料理、礼儀なんかが主だから。

 もしかして、知らなかった?」

 頭は良いくせに世間知らずの圭はどうやら、女学校も中学校も同じ時間割だと思っていたらしい。

「大丈夫?」

「はい、大丈夫、です」

 弱々しい声は、自信の無さを表していた。

 全く、圭の不器用さは徹底したもので、一緒に住み始めた頃、気を遣ってあれこれ手伝ってくれたのだが、食器を洗っては割り、手を切り、包丁を持てば足下に落とし、隼人が頼み込んで、台所では何もしないでいてもらうことになったのである。

 そんな圭が針や鋏を持つなど、恐ろしいの一言である。

「気を付けますので、心配なさらないで下さい」

 特別扱いを頼むわけにはいかない以上、気を付けて。と、返すしかない。

 富山が気が利くのか、相談に乗っている気の利く人間がいるのか、筆入れ、帳面、果ては、勉強しろと言う意味なのか、少女向けの雑誌「少女の友」が二冊入っていた。大きな瞳の華奢な少女が描かれた表紙を開いて、圭は真剣な表情で頁を捲る。

 姉妹も従姉妹もいない圭は、未知の言葉、女学生言葉の体得に忙しいらしく、少女小説を読みながら、唇を動かしている。

隼人も、残った一冊を手にし、捲る。花、レース、アクセサリー。

 美しい物に溢れる誌面は、少女そのものである。明るく、華やかで、可愛らしい。

 令嬢紹介の頁もあった。家柄子爵の美しい令嬢は、白いブラウスと青いスカート、長い髪を三つ編みで纏まとめ、毛先にスカートと同じ色のリボンを結んでいた。

 シュー・ア・ラ・クレームを手に、『女学校がお休みの日は午後からコックにお料理を教わっております。最近はお菓子も教わっていて大分上達致しました。お父様も美味しいと褒めて下さいましたのよ』

 明るい笑顔。大層愛されて育っているのだろうと思わせられる。

「シュー・ア・ラ・クレーム」

 隼人にとってそのお菓子には、苦い思い出があった。

 甘くて美味しかったけれど、苦い苦い思い出。


 俯き加減の、美しい横顔。


「お好きなのですか?」

「え?」

「シュー・ア・ラ・クレーム」

「どうして?」

「今、仰いました」

 見ていた頁を圭に示して、笑って誤魔化す。

「凄いですね。こんなに立派なお菓子を作るだなんて」

「最近の女学校は、洋食は勿論、西洋菓子も教えているそうだからね」

「お菓子作りは経験ありませんが、もしかしたら……」

 前向きに考えているらしく、表情は明るい。

 時間は八時前。女学生に対する知識を得る為に、読書に専念したいと言う圭を先に風呂に入らせ、互いの部屋に戻った。
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