長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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主犯

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「なぜ今日、女学校を休んだのです?」

「お熱が……」

 打って変わって、寡黙になっていく百合子の態度が、娼館事件と無関係ではないと知らせていた。

「失礼を覚悟で言うけど、君、園子さんと一緒に、女学校の少女を娼館に送り込んでいたんじゃないのかい?

 違うならきっぱりと否定して欲しい。俺達はこれから、警察に行く。園子さんに呼び出された事実を、いつまでも隠しておくわけにはいかないからね」

「園子さんが呼び出したのに、どうして私が疑われなければなりませんの?」

「君が、園子さん以外の少女に興味を示し、嫉妬に狂った彼女は、罪のない子達に罰を与えるべく、娼館と連絡を取る。

そうじゃないのかい?」

 百合子はクスリと笑った。

「面白いお話ですこと。でも、その推理は無理がありますわ。

 犯罪は、人が関われば関わるほど、露見しやすくなります。つまり、園子さんを怒らせるのではなく、私が直接娼館に連絡する方が安全です。

 そんな無駄を行うほど、私は愚かだとお思いですか?」

「無駄ではないとしたら?」

 百合子が、挑戦的に隼人を見上げた

「無駄ではない。と?」

「園子さん、或いは、富山男爵家に恨みを持つ者ならば、ね。

 つまりは、園子さんを犯罪者にすることが目的だから、無駄ではない」

「私、恨みなど……」

「昨年、君の叔母上が、ご夫君と共に行方知れずになった。原因は、破産。ご夫君経営の会社が倒産し、屋敷も土地も全て失った。その原因が富山男爵だったんだね。次から次、得意先を奪ったのだと、噂で聞いた。

 幼くして母を亡くした君にとって、叔母上は唯一、心を委ねられる、大切な存在だった」

 百合子の目は大きく見開かれ、嬉しそうに笑みが象られた。

「破産の件はともかく、私が叔母を慕っていたと、どうしてご存知ですの?」

「新聞記者の友人がいてね。色々と情報を提供してくれる」

「お名前を伺っても?」

「中里という男だが」

「その方、私も存じ上げておりましてよ」

「一度、取材の協力を仰いだそうだね」

「紳士でしたわ、中里様も」

「紳士か。ちょっと印象が違うな。おちゃらけた奴だから」

「お若い殿方は、女学生をおかしな目でご覧になられるのです。

 でも、中里様はまるで、妹を見守る兄のように、温かく、誠実な様子で私達に接して下さいました」
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