長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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溜息

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 「彼です」

 圭が怯えたように言った。

 確かに、女には見えない。体格も良いし、太い眉の凜々しい顔は、緊張しているのか、険しく見えた。

 気付いたからには放っておくわけにもいかず、隼人は男に向かった。隼人よりは二寸ほど丈は低いが、一般的には長身の部類に入るだろう。

「どうぞ」

 扉を開いて、事務所に招き入れる。が、圭には近づけぬよう、間に立つ。

「ご用件は?」

「麻上と話がしたい」

 言いたいことは分かっていた。依頼客だと思っていたなら、椅子を勧めて、茶を出してから話し出すのが当然だ。

「圭君、君は?」

「あんたは関係無いだろう」

「関係無いわけないだろう?

 俺は彼の保護者だからね。話があるのなら、俺の前でお願いするよ。駄目だと言うなら、そこまでだ」

 男は隼人を睨み付けた。

 圭から聞いた様子では、規律を守る真面目な性格に思われたが、どうにも反抗的でやりにくい。

「なんの権限があって……」

「二人だけなら、私はお断りします」

 圭が、毅然とした態度で言うと、男は表情を強ばらせ、気まずそうな雰囲気をまとわせた。

「突然、今日現れたって事は、根付けの件じゃないのかい? 新聞を読んだんだろう?」

 圭の態度に傷ついたのか、驚くほど素直に頷いた。

 大人しくなったところで、椅子を勧めた。二人の間に隼人が座り、それでは。と、司会よろしく仕切り始める。

「君の話を聞こうか。

 あぁ、名前を聞かないと。俺は長瀬隼人」

 男は拗ねたような目で隼人を見上げると、村越宗一郎むらこしそういちろうと答えた。

「では、村越君に質問だけど、彼がここにいると、どうして知ったの?」 

 宗一郎は、なにを言っているのだ? と言わんばかりの表情を見せた。

「麻上の母親の事件が、解決したって新聞で読んだ。その時、紅い髪の男の所で仕事してるって知って」

 なるほど。と言うしかない。紅い髪の男など、東京広しといえど、そうはおるまい。

 勇一郎の記事は、長瀬萬請負。と、はっきり名称を出していたから、探すのに骨が折れることは無かったはずだ。

「気にはなっていたけど、訪ねる勇気は無くて……でも、根付けが遊女の殺害現場に落ちてたって知って……」

「今更だけど君、あんな新聞読んでるのかい?」
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