長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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 これ以上、婚約に関して話を進めるのは酷だろうと、話題を逸らすことにした。

「どうやら学校を抜け出して来たみたいだけど、放課後まで待てなかったってことは、気になるなにかがあるって事なのだろう?

 もしかして、圭君が無くした根付けを、君が持っていたのかい?」

 圭君、と言った途端に睨まれた。圭への感情は失っていないらしい。だとすればさっきの溜息は、さぞかし傷ついただろうな。と、思わせられた。

「拾ったんだ。

 その、最後に会った時に、麻上が去って行った後、落ちてるのに気付いて」

 圭が小さく、あ。と、驚いたような声を発した。

「あの日、待っている間に、小銭入れを出しました。帰りに本を買いに行くつもりだったのに、お金を入れ忘れていて。いくら持っているかを確認したのを忘れていました」

 圭は隼人に顔を向けて、まるで他に人がいないかのように話し掛ける。

 宗一郎の苛立った様子が分かったが、圭が感情を受け入れるつもりが無い以上、それをしっかりと態度に表すのは必要かと考える。

「そうか。

 つまりは、村越君は根付けを拾ったものの、返す機会がないまま、圭君は退学してしまった。ってことだね」

「その後は、気にはなりつつも、まぁ、生活に必要な物でも無く、金銭でもないからには、慌てて返す必要も無いだろうから、なんとなく時間が過ぎて、今朝、どういうわけか新聞に根付けの事が書かれていた。と」

 不満そうな表情で、宗一郎は頷いた。

「いつか返そうと思って、いつも持ち歩いていたんだ。だから和紙に包んで、学生鞄にしまっていて」

「それを知っている人は?」

 あからさまに宗一郎が動揺した。

「元許嫁者だね」

「なぜ」

「君が動揺したからだよ」

「動揺したからって、彼女とは……」

「動揺するからには、それなりに相手に対して君が、好意的な感情、或いは、罪悪感を持っていると考えられる。

 男友達なら、さほど動揺しないだろう。圭君の物だと知りながら、勝手に持って行ったなら、君は怒りを持つと考えられる。

 両親だとすれば、こっそり盗むとは思えない。面と向かって、それをよこせと要求するはずだ。

 しかし元許嫁者であれば、君は庇いたいと思うだろう。なにしろ引け目があるからね」
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