長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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二形 四

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 「突然の申し込みに関わらず、どうして我々の取材を許可してくれたのでしょう」

 勇一郎の表情は真剣であった。ひどく重い病を抱えた人が、医者に向かうように、深刻であった。

 比して一子は、更に笑みを綻ばせた。

「できうる限り、取材は受けたいと考えておりますの。

 ここにいる婦人達は、殿方の我儘の被害者ばかりです。それを世間に知らしめ、これ以上不幸な人間が増えぬよう、発信する義務が私にはあると思います。

 もちろん、どんな記事を書かれたかは、調べております。中里様は誠実で、婦人を尊敬できる殿方だと伺っております」

「どなたから」

 一子はにっこりと笑った。

「色々な方と交流がございますので」

 誰かは聞くな。という意味だろう。

 勇一郎は小さくうなづいて、静子と同じく、にこりと笑った。

「失礼いたします」

 襖の向こうで、年配の女の声がした。

 申し訳ありません。と、一子は小さくお辞儀をすると、どうぞ。と、威厳のある声で答える。

 そっと襖が開いた。現れた女はこちらを見ると、あからさまに驚きの表情を見せた。

「一子様、この……」

「お客様の前です。手短にお願いしますね」

 女は引きつったように頬をピクピクと小刻みに動かしながら、二人を見ていた。

「ご用は?」

 口を開こうとせぬ女に、一子は苛立ちも見せず、優しい声で問う。

「あ、の」

 呼吸困難を起こさないかと心配になってしまうほど荒い息を吐きながら、二人から視線を外さない。

「どうしました?」

「申し訳ありません、後程」

「はい、後で伺います」

 襖を閉める際、女は一変、ぎらぎらと燃えるような憎しみの目を向けた。

「失礼いたしました。お話しを続けましょう」

 一子の品の良い、優しい笑顔が奇妙に思え始めてきた。

 ここは、女の逃げ込み寺である。男に苦しめられた、悲しい女の園である。男である勇一郎と隼人を見て、大人も子供も不愉快そうな表情を見せた。

 無表情の、生気のない顔に、なぜお前がいるのだ。と、眼だけが語っていた。

 代表としての義務で、我慢しているのだろうか。それとも、二人を信用してくれているのだろうか。

 一子の態度は、如月会の中では異質であった。

 品の良い笑顔は、果たして本物か偽物か。あるいは信じる神への誓いなのか。何者をも憎まないとの、神への誓いなのか。

「おい、あれ」

 隼人にしか聞こえぬ声で、一子に知られぬ為だろう、姿勢を変えず囁き掛けた。

 視線は窓の外に向けられている。隼人も視線だけ、外に向ける。ひとりの少女が歩いているのが確認できた。

 青白い、不健康な肌色をした美しい少女だ。色のない唇が乾いているのが、遠目にもわかる。

「あの子」

 写真の少女であった。

 女学校から消えた、三人の内のひとり。
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