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笑顔
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「うん、美味い。これは絶品だ」
元帥は満足そうに唸った。
目の前のトミが動揺したのが、背中越しながら隼人にもわかった。
「笑って下さい」
背後から、小さく低い声でトミに告げる。
「祝いの場に相応しい笑顔でいてください」
トミがこちらに向いた。怯えた目をしていた。
「寒天は俺達が作った物とすり替えました。誰も苦しみはしませんよ。
これから皆が話しかけて来るでしょうが、冷静を保って答えて下さい」
トミは静かに深呼吸をして、覚悟したように目を閉じた。
周りでは、珈琲寒天やカスタード・プティングを食べながら皆が、褒めそやしている。
「こんなに沢山、大変だったでしょう。ありがとうございます」
元帥が上機嫌でトミに話しかけた。
「冷静に」
背後からトミを操るかの如く隼人が囁く。トミは落ち着いた声で、答え始めた。肝は据わっているらしい。隼人がことを大きくしたくないと考えているのがわかっているのだろう。
視線を巡らせると、海軍兵学校の生徒がひとり、こちらを見ている。
腰かけていた椅子から立ち上がったところで、圭が背後から近づいているのが見えた。
隼人がトミに近付くのと同時に、圭も移動を始めた。気になる少年の元に。
元帥の感嘆の声を聞いて、トミが動揺したのが分かった。元帥はもちろん、誰ひとり苦しみ始めることなく、匙を動かしている。
トミの背後に隼人が寄り、何やら囁いているのが確認できた。驚愕しながらも、諦めの表情になるのを圭は確認した。なんとなく、ほっとしたようにも見える。
それにしても隼人は目立つ。元帥も際立って体が大きく目立ちはするが、隼人の方が丈が高く、何よりもあの紅い髪は、華やかな帽子よりもずっと人目を惹く。
元帥がトミに近寄り、何やら話しかけている。
その時、海軍兵学校の生徒が椅子から立ち上がった。視線は隼人に定めたまま。
圭は食べるつもりはないものの、差し出されるまま受け取った珈琲寒天を、左手で背後から鼻先に突き出した。
「いかがですか?」
予測していない状況に驚いたのだろう、動きが止まった。
圭は反対の手を、腰に下げた拳銃に宛がう右手を押さえるように置いた。
「貴女の力でその銃を撃つことはできませんよ、百合子さん」
口元が、きゅうと釣り上がった。
「貴方なら扱えると?」
「無理です。私が携帯しているのは、婦人の護身用の銃です」
ポケットから小型の銃を見せると、百合子は小さく笑った。
「それなら私も撃てるかしら?」
「訓練次第ですね。今は諦めて下さい」
気付いたらしく、勇一郎が足早に近付いて来た。百合子は拳銃から手を離すと、圭に向き合う。
「私はどうすればいいの?」
「とりあえずこちらへ。お部屋を一室借りています」
誰も二人を気にしていない。笑いさざめき、笑顔が溢れる会場を後にして、圭と百合子、勇一郎の三人はホテルの玄関を目指した。
元帥は満足そうに唸った。
目の前のトミが動揺したのが、背中越しながら隼人にもわかった。
「笑って下さい」
背後から、小さく低い声でトミに告げる。
「祝いの場に相応しい笑顔でいてください」
トミがこちらに向いた。怯えた目をしていた。
「寒天は俺達が作った物とすり替えました。誰も苦しみはしませんよ。
これから皆が話しかけて来るでしょうが、冷静を保って答えて下さい」
トミは静かに深呼吸をして、覚悟したように目を閉じた。
周りでは、珈琲寒天やカスタード・プティングを食べながら皆が、褒めそやしている。
「こんなに沢山、大変だったでしょう。ありがとうございます」
元帥が上機嫌でトミに話しかけた。
「冷静に」
背後からトミを操るかの如く隼人が囁く。トミは落ち着いた声で、答え始めた。肝は据わっているらしい。隼人がことを大きくしたくないと考えているのがわかっているのだろう。
視線を巡らせると、海軍兵学校の生徒がひとり、こちらを見ている。
腰かけていた椅子から立ち上がったところで、圭が背後から近づいているのが見えた。
隼人がトミに近付くのと同時に、圭も移動を始めた。気になる少年の元に。
元帥の感嘆の声を聞いて、トミが動揺したのが分かった。元帥はもちろん、誰ひとり苦しみ始めることなく、匙を動かしている。
トミの背後に隼人が寄り、何やら囁いているのが確認できた。驚愕しながらも、諦めの表情になるのを圭は確認した。なんとなく、ほっとしたようにも見える。
それにしても隼人は目立つ。元帥も際立って体が大きく目立ちはするが、隼人の方が丈が高く、何よりもあの紅い髪は、華やかな帽子よりもずっと人目を惹く。
元帥がトミに近寄り、何やら話しかけている。
その時、海軍兵学校の生徒が椅子から立ち上がった。視線は隼人に定めたまま。
圭は食べるつもりはないものの、差し出されるまま受け取った珈琲寒天を、左手で背後から鼻先に突き出した。
「いかがですか?」
予測していない状況に驚いたのだろう、動きが止まった。
圭は反対の手を、腰に下げた拳銃に宛がう右手を押さえるように置いた。
「貴女の力でその銃を撃つことはできませんよ、百合子さん」
口元が、きゅうと釣り上がった。
「貴方なら扱えると?」
「無理です。私が携帯しているのは、婦人の護身用の銃です」
ポケットから小型の銃を見せると、百合子は小さく笑った。
「それなら私も撃てるかしら?」
「訓練次第ですね。今は諦めて下さい」
気付いたらしく、勇一郎が足早に近付いて来た。百合子は拳銃から手を離すと、圭に向き合う。
「私はどうすればいいの?」
「とりあえずこちらへ。お部屋を一室借りています」
誰も二人を気にしていない。笑いさざめき、笑顔が溢れる会場を後にして、圭と百合子、勇一郎の三人はホテルの玄関を目指した。
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