長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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女中 五

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 「申し訳無い。すぐに連れて帰ります」

 言いながら、義史の視線は有朋に向いていた。思った以上に有朋は、義史の怒りを買っているらしい。

 中庭から今度は、春の悲鳴が聞こえた。

 恐怖とも、驚きとも取れる声に、隼人は誰よりも早く反応し、食堂を横切ると、裏庭に飛び出した。

「敏ちゃんが」

 敏が仰向けで倒れていた。口を薄っすらと開き、目を見開いた状態で。生きていないのは、明白だった。

 隼人は敏に駆け寄って、手をとったが、確認するまでもなく、命を感じさせるものは何もなかった。人としては随分低く、死人にしては、高い体温を持ってはいたけれど。

「医者を呼ぶんだ!」

 非常時ではあるが、この機を逃すまいと、左手を掴み、包帯を解く。

「医者は必要ない!」

 背後から義史の怒鳴り声が鼓膜に届く。隼人は反論の暇もなく、包帯の下に隠された傷を確認した。

 カミソリの傷があった。一つではない。幾筋もの痕が無数に、細い手首に走っている。いずれも大した時間は経っていない。ごく短い間に、幾筋も傷付けられたのだと分かるほど、生々しい。

 背後で、圭の短い悲鳴が聞こえた。

「相馬君、敏を運んでくれ」

 隼人の手から、敏の手が奪われた。見上げると、義史が憎々しげな顔で、隼人を見下ろしていた。

「自死など、迷惑な」

「医者は」

「もう死んでいる。必要ない」

「では、警察を」

「関係ない者が、口を出さないでくれ! 早く運ぶんだ」

 いつになく居丈高な態度の義史に、やれやれと言わんばかりの態度で、有朋は敏の体を抱き上げた。

「映子さん、敏さんからの遺言を私は預かっております。

 約束をお願いします。と」

「約束? なんだったかしら。思い出してみるわ。

 それより貴方、姉か妹はいないの?」

 命を懸けた敏の遺言が、そんなことの一言で片付けられた。

「おりません」

「いないの。そう、残念だわ」

「貴女は、敏さんの死を、なんとも思わないのですか?」

「あら、困ってるわ。だから、代わりを誰にするか悩んでいるんじゃないの。

 貴方に姉か妹がいれば」

 隼人と圭は顔を見合わせた。映子は自分の発する言葉を理解しているのだろうか? 傍目には奇妙としか見えないが、映子は真剣らしい。

 映子がまた、圭に視線を向けた。

「どうしましょう」
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