長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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女中 六

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 映子は悩み、圭は戸惑い、彬子と春は泣いている。

「ここで手首を切ったのでしょうか?」

「違うな。包帯は巻かれたままだった。

 何度も手首を切っていただろう? 度重なる出血は、心臓に負担を掛ける。もう、限界だったのだろう

 でも、なぜあんなことを」

「男なのよねぇ」

 映子は、圭を見つめながら、一人呟く。映子の奇妙な態度に驚いたのか、春は、いつの間にか涙を忘れていた。

「映子、なにをしている」

 敏を屋敷に運び込んだ後、義史は戻って来ると、映子の腕を掴んで引き摺って行った。

「ひどいわ。敏ちゃんをなんだと思ってるの?」

「私達も中に入りましょう。風邪をひいてしまうわ。

 春も早く着替えなさい」

 雨は続いており、皆の体温を着実に下げていた。

 春は、彬子の声も聞こえぬらしく、座り込んだまま、動こうとしない。彬子は、着物の袖で涙を拭うと、春を立ち上がらせた。

「着替えて、今日はもう休みなさい。いいわね、すぐに着替えるのよ」

 彬子は、騒ぎを聞きつけて姿を見せた喜代に春を任せると、義史邸から戻って来た有朋をつかまえ、隼人と圭に、着替えを貸してほしいと頼んでくれた。

「早々に追い出されてしまいました。僕はどうも、副社長に嫌われているようです」

 まずは、着替える。

 隼人は丈が高いので、裾がくるぶしにさえ届かない有様だが、この際、贅沢は言えない。

 圭は、有朋の、少年時代のお古を譲り受けた。

 落ち着いたところで、有朋の部屋を観察する。意外にも、文机を愛用しているらしい。本棚にはぎっしりと本が詰められている。

 和書と洋書が半々で、経済を専攻していたにしては、畑違いの医学書やら、民俗学専門書やらが並んでいる。

 押入れの中には、洋服と着物。几帳面そうに見えて、寝台の上の布団は、朝、起きた時のままらしく、乱れていた。

「まずくないか? これからは親戚として、力を合わせなければならないだろうに」

「義史氏に、嫌われるようなことを、なさったのでは?」

 有朋は無言で圭をまっすぐ見、圭は着物の帯を結びながら、視線を正面から受け止めた。

「映子さんになにを教えて差し上げたのでしょうか?」

「あぁ、やはりあの時の。大したことではありませんよ」

 開けっ放しの押し入れから座布団を取り出すと、二人に勧める。

「女性は、若ければ若いほど魅力的だ。と言ったのです」
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