長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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女中 九

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 「いいえ、副社長が、咲江夫人を見初めたのです。

 親戚筋には、長男が先だと叱られたのですが、社長のとりなしで、世帯を持ったのだそうです」

「世間一般から考えれば、そうだろうね」

「それはご自分が結婚しないのは、末っ子だからと言い訳していると、考えてもいいのでしょうか?」

 余計なことは言わなくていい。と、たしなめる。

「周りが気を揉むのを気にもせず、社長は長い間独り身でした。口さがのない者は、僕が傍にいるから、婦人が嫌がって近寄らないのだと。

 自己弁護ではありませんけれど、社長にはなにか、心に仕舞い込んでいる秘密があったのだと思います。ふと、時間にわずかでも空白があると、思い悩む様子を見せていたのです」

「見せていた? つまり、今は見せていない?」

「そうです。そして、悩まなくなった途端に、結婚を考え始めたのです。

 周りは、伯爵家の娘だから。と思っているようですが、真実は単に、結婚を決心した時に来た話だからに過ぎません。誰でも良かったのです。早く身を固めろと、言われるのにうんざりしていましたから」

 冷たい声で話す。軽蔑にも感じられる。

 有朋には珍しい態度ではないが、義礼は対象ではないと思っていたので、意外に思えた。

「彬子夫人が嫁していらしたのは、十一年前だったね」

「はい。お互いの意向もあり、結婚式は行われませんでした」

「相馬さんは、咲江夫人との、色っぽいお話はないのですか?」

 意地悪では無いのだろうが、圭の声はやや挑発的だった。

「ありえませんね。僕は社長側の人間です。咲江夫人からしてみれば、気に食わぬ相手に違いありません。

 ご存知ないでしょうが、外に、お付合いしている相手がいるようですし」

 衝撃的な事実だったかもしれないが、どの事件にも関しても、咲江夫人と愛人は関係ないので、どうでもいい情報か。

「随分と事情に詳しいのですね。

 婦人ならばお話好きな方が多いので、あれこれご存知でしょうけれど、男性の、しかも人に興味を示さぬ、と言われる相馬さんが、意外ですね」

「誤解しないで下さい。噂話を探し回っているのではありませんよ。ただ、隠すのが下手な人が多いので。

 目や耳に入ると、無視していられるほど、僕は真面目ではありませんよ」
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