長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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草履

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 傘をさしていても、横なぐりの風のせいで濡れる一方である。着物姿に靴。と言う少々奇妙な足元は泥まみれで、袖も雨を含んで重い。ほうほうの体で、自宅に辿り着いた頃にはすっかり、体は冷え切っていた。

 湯で温めたかったが、湯沸かし窯は水浸しで、使い物にならない。仕方なく鍋で湯を沸かし、たらいに移して、体を拭いた。

 最近入り浸っている勇一郎は、台風の被害を確認する為に、入れ替わりに飛び出した。いつものことであるから心配する気もなく、寝間着に着替えた隼人は、余りご飯でおじやを作る。

 圭は寝間着の上に、季節外れの綿入れ半纏を羽織っていた。顔色が芳しくない。

「あれでは浮かばれません」

 食後、圭が暗い声で呟いた。今にも泣き出しそうな顔をしている。

「どんな約束なのでしょうね」 

「映子さんはすっかり忘れ込んでいるみたいだな。どうせ、適当に相槌を打っていたんだろう」

「そうでしょうね。あの人はそういう人です。

 でも、敏さんは信じていた」

 手を伸ばして、圭の額に触れる。案の定、体温が普段より高い。

「忘れよう」

「でも」

「今は忘れるんだ。体が本調子になってから、考えよう。どうせ今は外に出られない。何も考えずに寝るんだ」

 反論をしたそうではあったが堪えたのは、心配かけまいとしてから、体調の悪さ故か。わかりました。と答えると、素直に自室に戻って行った。

 その後、何度か様子を見に行ったが、寝息は安定しており、隼人は安心して、有朋から借りた本を読んでいた。

 民俗学と、医学系。まずは、民俗学。

 電線が風で断ち切られたらしく、突然暗くなった。仕方なく、用意しておいた洋燈らんぷに火を灯し、読書を続ける。電灯に慣れた目には暗いが、慣れるまでの我慢だろう。

 満遍まんべんなく濡れそぼった、妖怪じみた勇一郎が戻って来たのは、夜と言っても良い時間だった。

 圭は調子が悪くて寝ているから、静かにしろよ。と言うと、丁度良い。と、非常識な答え。

「実は圭ちゃんにあまり聞かせたくないことがあってな、いつ言おうかと、機会を狙っていたんだ」

 腹を満たして、すっかり寛いだ様子の勇一郎は、食卓を指の腹で叩く。

「なにか分かったのか?」

「圭ちゃんと高林の関係」

 隼人は眉を顰めた。高林と圭に、どう言う関係があるのか。
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