長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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開始 二

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 「先代が亡くなったのは、今年の二月。船の事故だった」

「夫人は殺されたのだったか」

「そうだ。病弱で、先代が亡くなってからずっと臥せっていたらしい。

 盆過ぎ、男爵が学校から戻って、死体を発見した。胸を一突きだ。

 夫妻共恨まれるような人間じゃない。物取りにしても、元々金のある家じゃなかったから、不自然だ」

「男爵って、学生だったんだな?」

「あぁ。麻上圭一って言って、おつむと容姿の良さで有名だぜ」

 どうやら、年齢だけでなく、名前も偽っていたようだ。年の近い兄がいなければ。であるが。

「母親の治療費やら薬代がかかったらしいが、家屋敷を売って借金は精算できたらしい。

 が、華族の体面は保てないってんで、爵位を返上した。

 男爵だった圭一はその後、どこかに奉公には出るだろうとは聞いたけど」

 家が没落すれば、子供は否応なしに働きに出て行かざるを得なくなる。しかし、子供の稼ぎなど高がしれている。

 とはいえ、不幸中の幸いか、借金は無かったようであるから、住み込みで働けば、贅沢はできずとも、生きることは可能なはずだ。

圭の性格であれば、どんな仕事でも真面目にこなすであろう。

 真っ当な仕事であれば。

 住み込みの奉公人を探しているんですよ。ちゃんとしたお宅なので、身元のしっかりした人でなければ雇えないと言う。

 どうでしょうね? 

 などと、信頼している人間から言われたなら、渡りに船。と思うのではなかろうか。

 結果は騙されたわけであるが、圭が愚かだったとは言えまい。頭は良くても所詮は子供。人を疑う気持ちは、大人の半分以下だろう。

 隼人が何故興味を示すのか、勇一郎は気になるようだったが、無視して、温くなりかけた珈琲を口に運ぶ。

「母親が殺されたのは、八月十九日だった」

 年齢を偽ったのは、見栄を張ったのかと思っていたが、圭は、自分の身元を隠そうとしたのかも知れない。あまり上手い偽名ではなかったが。

 今日は高林家に行って、義礼の様子を見て来なければならない。山科と義礼の関係をもっと詳しく調べる必要もあるだろう。

 単なるお稚児趣味で、知人が可愛がっている子供に手を出そうとしたり、没落したとはいえ、元男爵を監禁したり、まともな神経ではできまい。
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