長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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開始 三

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 誰もいないこの家に、圭を一人で置いておくのは安全とは言いかねる。暫くは、連れて歩く方が良かろう。

「どうしたんだ? 今までこの手の話にゃ興味を示さなかった癖に。何かあったのか?」

 隼人は口元に人差し指を立てて、黙るよう指示した。いつの間に起きたのか、圭が廊下を歩いている様子が窺えたからである。本人が隠したいのなら、知らぬふりをするのが、思い遣りと言うものだろう。

 勇一郎も、廊下の方向に視線を向けた。

「おはようございます」

 着替えて、顔も洗い、髪を整えた圭は、挨拶をすると、勇一郎を見た。

「昨日話しただろう? 新聞記者の中里勇一郎」

 初めまして。と、丁寧に頭を下げる。

「麻上圭君だ。

 今日から俺の助手をしてもらう」

 圭は微かに、笑みを見せた。

 勇一郎はと言うと、目の前に迫った現実を見ずにはいられないらしい。

「で、俺の寝床はこの子の物になっちまったのか?」

「この家のどこに、お前の寝床がある?」

 パンは食べられる? と問うと、食べたことは無いとの返事。

 國が西洋化を進めていた明治時代から、滋養と日持ちの面で優れているパンは、推奨品だった筈だ。それを華族であったであろう圭が食べた事がないとは。家の中に昔気質の者がいたのだろうか。

 幸い、興味はあると言う。

 隼人は野菜を切って茹で、卵を焼く。続いて、パンをきつね色に焼くと、バタを塗った。

 勇一郎と話しをしていた圭が近づいて来て、それらを食卓に運ぶ。大人には珈琲を、圭には、少々の珈琲に牛乳を注いであげる。
 
 食卓を見ると、勇一郎は既に、パンを千切りにかかっていた。体は食べ物と睡眠を欲しているらしく、ひっきりなしに欠伸をしている。

 隼人も席に着き、おざなりながら、いただきます。と、手を併せる。圭は、二人とは比べ物にならないほど丁寧に、手を併せた。

 眠気を一時追い出して、勇一郎は、初めてパンを口にした感想を聞き逃すまいと、横目で圭を見ている。圭は圭で、生真面目な顔でパンを齧ると、慎重に噛んだ。

「お饅頭の様な物だと思っていましたけど、違いますね」

「饅頭に似ているのは、あんぱんだろう」
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