長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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開始 六

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 「書斎で、何か音がしませんでしたか?」

「いいえ。間に夫の寝室を挟んでいますせいか、書斎の音は聞こえません。

 例え音がしても、腹の立つ事でもあったのだろうとしか思いませんわ。腹立たしい事があると、物を壊す癖がありますので」

 彬子の言葉に、有朋が眉を顰めた。

「物を壊す癖ですか。

 念の為に伺いますが、奥様や使用人に手を挙げる様な事は?」

「一度もございません。外面は良い人ですから。

 それに、私の事など、伯爵家の家紋としてしか見ていないでしょうから」

 冷ややかな声と口調は、夫婦の隙間の広さをも物語っていた。

 伯爵家。同じ華族同士、圭と面識はあるまいか?

 いや、互いに豊かな家ではなかったらしいし、彬子は、金の為に嫁いだも同然の我が身を恥、社交界とは縁遠くなっていると聞いた。嫁いだ頃、圭は三才。少なくとも、圭は知るまい。

 質問が終わると、彬子はさっさと部屋を出て行った。協力はするが、夫を殺そうとした下手人など、見つかろうが見つかるまいがどうでもいい。と、はっきり態度に表していた。

 有朋に春を呼んで貰って問うた結果、彬子の証言に嘘は無いことが分かった。

 残念なことに、書斎の前は通ったが、中は覗いていなかった。彬子の証言に嘘が無いとは言え、やっていないと言い切れないのは、昨日調べた男達と同じだ。

 寧ろ、同じ家に住み、義礼の部屋に入っても咎められない分、不利かも知れない。

 なにぶん、犯行時刻と見做される時間が長すぎる。同じ家に住み、何時でも書斎に入る事のできる有朋も、同時に容疑者となり得る。

「ところで長瀬さん、そちらの方は?」

 春が出て直ぐ、有朋は興味津々で問うた。圭は丁寧にお辞儀をすると名乗り、有朋もそれに答えた。

 不思議な気持ちにさせられる。昨日まで、隼人は圭を知らなかった。なのに今、こうして一緒にいる。原因を作ったのは、有朋である。無意識とはいえ、圭を救ったのだ。縁とは奇なるものである。

「ところで、山科と高林さんは以前、親しかったと聞いたが」

 圭が手洗いに立った隙を突く。

「そうらしいですね。この屋敷にも何度か見えてます」

「どうして仲違いしたか知ってる?」

「さぁ」

 当時、有朋は十四五歳。大人の事情に深く関わり合える年ではない。義礼も態々、有朋に伝えはしなかっただろう。
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