長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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下町

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 翌朝、高林邸に着くと、背広姿の有朋が、黒い革鞄を提げて玄関に出て来たのに出くわした。出勤するのだと言う。暫く義礼は出られないだろうから、義史について行動するのだと。

 圭が落ち着きなく周りを見渡す。映子がいないかを確認しているのだろう。

 気付いたらしく、有朋が、映子は女学校時代の友達と出かけたのだ。と言った後、体調はどうかと問うた。

「昨日に比べれば良いのだが、まだ本調子ではないらしく、かといってひとりで家においておくのは心配でね。こちらで預かって貰えないかと思っていたのだけど」

 隼人の申し出に、一度有朋は屋敷の中に戻り、彬子を伴って戻って来た。

「相馬から話は伺いました。どうぞ、ごゆっくりなさって下さい」

 以前の冷たさはどこへやら、彬子は淑やかに言った。

「横になった方が楽なら、客間に寝台がありますし」

 まるで主人でもあるかのように、有朋は言う。高林家の一番の権力者だとの映子の言葉は、強ち間違いでも無いらしい。

 有朋と彬子が並んでいると、夫婦のように見えた。彬子は、映子や咲江に比較すると容貌の点では劣るが、知性と気品は大きく上回っている。

ただ、以前も思ったが、年齢を考えると、着物が地味過ぎる。どうやら、お下がりであるらしい。大金持ちの奥方らしからぬ堅実さは、好感が持てた。

 圭を残して、屋敷を出る。

 有朋と並んで歩きながら、今日は役所に行き、君の本籍を調べる予定だ。と伝えると、それには及ばない。と、答えが帰って来た。

「思い出したのですよ。僕が住んでいたのは、富岡八幡宮の近くです。境内で遊んだのを思い出しました」

 手間が省けて助かるが、本当に思い出したのだろうか? との疑問が浮かんだ。本当は憶えていたのではないのだろうか?

「どうして僕の依頼を優先するのでしょう。社長を殺そうとした犯人を探してくれているのではないのですか?」

 非難じみた声とは裏腹に、目は好奇心に満ちていた。

「そっちは警察が探しているだろう?俺が迂闊に動くと、この見てくれだからね、邪魔にならないとも限らない。

 警察の調べたことは、君が教えてくれるし、どうせなら、二ついっぺんに進めようと思って」

 それなら良いのですが。と、明るい響きの声で答えた。
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