ゲームオーバー

Act 5. 理由のない雨は

【笑顔】

　静かな田舎街の海沿いにあるコンビニは
まるで大きな事件の渦中にあるかのように
雨の中、喧騒と人混みで溢れていた。

店の周囲には禍々まがまがしくロープが張られ
立ち入り禁止となっている

そこに野次馬たちが傘を広げて
好奇心の塊のように周辺に群がる。

「はいはい！もう帰って帰って！」

人の群れを追い返しながら
警察官数人がコンビニの駐車場で
大破した乗用車の中を調べ始めた。


「かわいそうに、こりゃ即死だな」

「それにしてはこの男性、随分と幸せそうな顔してるな」

「しっかりとスマホを握りしめて…何か見てたんだろうか？」

「気の毒だけどこればかりは仕方ないよなぁ」

「そうだな、停車してるとこにトラックが突っ込んできたらひとたまりもないよ…」


ー ヒトミには何も起きていなかった、
よかった…悪い前触れじゃなかったんだ…


いや、ちょっと待て？

私はどこにいて何を見てるんだ？

何故、何故、自分の車を調べている警察の姿を
宙に浮かんで見ているんだ…？

そうか！何かあったのは……私の方だったのか！


「あ！また聴こえてきた！」


　手にしたままのスマホからは
また"あの曲"が流れ始めた、
それはヒトミから届くメールの通知。

「早くメール…開かなきゃ」

そんな私の独り言はもう誰にも届かない、
そしてヒトミの歌うパートが流れ始めた

"理由のない雨は…やみそうにない"、と。

今日もあのか細い歌声が聞こえる、
だが私はもうこの場所にいることは出来ない

自然と体が浮かび上がり
少しずつ地上が遠くなっている…


ゲームオーバー…！
何処かでそんな声が聞こえた。


翌日の新聞にこう記載されていた、

深夜、コンビニの駐車場で停車している普通車に
大型トラックが正面から追突して

運転席に乗っていた男性が死亡、と。

そう私はあの夜、既に…

ならばあの現象たちは…
私が走馬灯として見たものだったのか…

219…

そうだ、誰かの誕生日が2月19日だったんだ…
誰だったかな…？

もう思い出せないけど…
ヒトミは大丈夫だったんだな、

ヒトミの身に何も起きなかったのなら
私の死に顔はきっと笑顔だったはずだ・・・