異世界に行ったら記憶がなくなってここがどこだかわかりません。

シンカイ

文字の大きさ
7 / 16

邂逅

しおりを挟む
 目覚めよ……。

 目覚めよ、試練を受けし者よ……。

 ──なんだ?何か、声が聞こえる。

 辺りに威厳のある声が響く。閉じていた目を開く。すると、辺りは壁が存在するかどうかも定かではない純白の空間が広がっていた。
 そして俺の正面には荘厳な装飾を施された縁を金色に彩った玉座がある。

 目覚めたか……、試練を受けし者よ……。

 ──試練?何を言っているんだ?
 
 「あの、すみませんがどなたでしょうか?生憎姿を確認できないのでひたすら不気味なだけなのですが」

 ふむ…いいだろう……。だが、私は既にお前の目の前にいるのだがな……。

 ──え?

 何時から居たのだろう。いつの間にか俺の正面には厳つい顔の老人が座っていた。

 「さて、こうして私の姿も視認できたようだし、少し話をしてやる」

 「は、はなし?」

 「ふむ、やはり試練の最中では記憶は戻らぬか……。まぁ、分かっていたことではあるが……、ふぅむ」

 「すみません、先程から言っているその試練とは何の事ですか?話がさっぱり見えてこないんですが」

 「ああ、別にそちらが気にすることではない。だが……。」

 「?」

 「ふむ。お前、自分の名前は分かっているか?」

 「申し訳ないのですが、何も思い出せないんですよ。自分の名前すらも」

 「そうか……。ならば流石に己の名が分からぬと言うのは不便であろう。お前の名前を教えてやろう」

 目の前の厳つい老人は何事かを呟きこちらにゆっくりと掌を向ける。そして──

 「『解放』」

 そう唱えた瞬間、掌から小さな鍵を象った仄かに青い光が放たれ俺の頭に吸い込まれるように命中した。その瞬間俺は自分の名前を無意識のうちに呟いた。

 「み、どう、しん、いち……?」

 「そうだ、それがお前の名前だ」

 「俺の…名前…」

 今まで思い出せなかったもののうちの1つが当たり前のように脳内に存在していた。

 「掟によりこれ以上の干渉は叶わぬ。すまない…」

 「い、いえ!ありがとうございます!」

 「ふむ、では話を始めるとしよう…」

 「は、はい」

 「お主はとある理由と特例により、試練を与えられた。そしてそれはお前自身が望んだことでもある。記憶がないのもその為だ。
 そしてお前がいるのは私の管轄地ルガニアスである。お前はそこで試練を見事修めなくてはならない。見事試練を果たした暁にはお前にはとある選択肢が与えられる。どちらを選択するかは無論お前次第である。以上だ」

 ──……え?

 あまりにもつらつらと書類か何かを朗々と音読していくような口調で長々と話していたので、俺の頭は絶賛大混乱中でした。

 ──え~と?俺は今試練を受けていて?それは俺が自ら望んだことで、記憶がないのはそのせい。んで、俺がいた場所はルガニアスという地名?国の名前?まぁよくわからんがそういう名称の場所で、俺はそこで試練をクリアしないといけない……と。

 何とかそこまで内容を自分なりにまとめたところで、質問を投げかける。

 「あの、試練についてなんですけど、試練て具体的には何をすれば…?」

 「それは掟により教えることはできない…。」

 ──マジかよ。内容分からないまま試練受けたって俺ってバカだろ!超のつくさぁ!

 思わず自らの愚行の結果の己の苦労に溜め息が出た。

 「ハァ……」

 「さぁ、他に質問はないか?無いのならばもといた場所に還すだけなのだが…」

 その発言を聞いて俺は慌ててとある事を聞く。

 「あ、じゃあこの俺の腕にある紋様が何か教えてください!」

 と、自分の右腕を前に出す。すると──

 「それはこの世界にきて発現した己の能力だ。それらは全てお前の役に必ずたつ。大事にするがよい…。……む!?」

 老人は不思議なものを視たかのような反応を示した。俺は思わず背筋が竦み上がってしまった。

 「え、な、なんでしょうか?」

 取り敢えずそんな反応を示した理由が気になると言うこともあり、そう質問した。

 「すまぬ。どうやら覚醒し損ねた能力があるようなのでな。このままだとお前の生活に何かと支障をきたしてしまうやもしれぬ。少し刺激を感じるだろうが少しの間我慢してくれ」

 そういうなりあっという間にこちらに接近し、俺の左腕・・を掴む。

 「『解錠』ッ!」

 一際大きな声で唱えた。その瞬間──

 ガキッ!バヂンッ!

 「うあっ!」

 ビクッと衝撃により身体を仰け反らせる。しかし、その衝撃による痛みはなかった。

 「ふむ、終わったぞ。これがお前の能力だ、見てみるがいい…。」

 老人の手が俺の左腕から離れたあと、言われた通り見てみる。そこには──

 『肆』 『伍』 『陸』 『Ξ』

 新たに記された紋様がそこにあった。しかし、ひとつだけ、完全に意味の分からない羅列の紋様があった。

 「ふむ。なるほど、こういうことであったか」

 どうやらこの訳の分からない紋様について老人は知っているようだった。試しに聞いてみるものの──

 「…………」

 無言を貫いていた。

 「さぁ、それではそろそろ送ろう…。お前の試練が無事に成功することを祈る……」

 そういうと、また何事かを呟き両手を広げ老人がその両目をおもむろに閉じて、天を仰いだ。

 「『霊魂瞬還』」

 そう老人が唱えた瞬間、俺の周りをぐるりと一周するように光のカーテンが出現した。そのカーテンは段々光を帯び始め、俺の視界がカーテンさえも視認できなくなるほど光で埋め尽くされた頃、俺の意識は暗転した。


 「行ったか……」

 「ああ」

 「どうだった?」

 「ふむ。そうだな、どことなく面影が残っていた」

 「そうか、俺も会いたかったなぁ」

 「ふむ、気持ちは分かるが我慢せい。なにしろ掟だからのぅ」

 「っち、わーかってるよ!……まぁ試練が終わればまた会えるしなぁ」

 「ふむ、そうじゃなぁ」

 「ま、気長に待つとしますかね」

 「それがよかろう」

 2つの人影が語り合う。いつか来るであろう邂逅の時。それは果たして数十年後なのか、それとも数日後か。例えであろうと分からぬその時を想像し、二人の神は話を弾ませた。お互いに同じ思いを胸に抱いて──。


 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...