異世界に行ったら記憶がなくなってここがどこだかわかりません。

シンカイ

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衝撃

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 私の名はダール。冒険者をしている。いや、正確には今は、していた、か。
 私はCランクの冒険者で、そのランクとしてはそこそこ名の売れた冒険者だ。恵まれた大きな体躯を活かして己を盾とする大盾士ガードナーとして活躍し、『全防のダール』等と呼ばれていた。その名が示す通り私は主に護衛関係の仕事を生業としていた。
 だがある日私は、気まぐれで野良のパーティーに加入し、己の鍛練を目的として囮役を引き受けていた。クエストの討伐目標の踊る妖樹ダンシングツリー目敏めざとく発見、討伐を繰り返していた。私達の狩りは順調に進んでいるかのように見えた。しかし──
 いつの間にか周囲が闇に包まれていることに気づく。

 ──おかしい。幾らなんでも日没まではまだ幾らか時間があるはず。

 「皆、気を付けてくれ。なんだか回りの様子がおかしい。」

 ──?

 変だ。私の呼び掛けに誰も反応をしない。

 「おい、聞こえているか!聞こえているなら返事をくれ!」

 こう呼び掛けるもののやはり誰も反応をしないどころか、微動だにしない。訝しみつつメンバーに近付いてみる。そして私が見たものは──


 「ハッ!?」

 狭い牢の中に私の声が木霊する。どうやら私は眠っていたらしい。恐らく安心による睡魔だろう。私は自らを殴り付ける。
 
 ゴスッ

 「な、何をしているんですか?ダールさん」

 「私はあの少年を身代わりにしたことで安心感を持ってしまった。戦士にとってそれは恥ずべき事だ。だから己を戒めるために殴ったのだ、驚かせてしまってすまない」

 そう、ここはゴブリン共の根城にある幾つものうちの1つの牢の中だ。先ほどの少年が連れていかれなかったのならば、おそらく次かその次に私が連れていかれたのだろう。私は己が助かった安堵のために睡魔が訪れたのだろう。
 頭を軽く振り、眠気を振り払う。そして私は改めて自らが置かれている状況を再確認する。
 私は現状このゴブリンの砦の牢に囚われている。理由は簡単だ。私の力が及ばないほどの強敵の出現にある。
 ある日の狩りで私はゴブリンの大群に襲われた。通常ならば、Fランクのゴブリンなど私の敵ではない。だが、その時のゴブリン共は恐ろしく統率がとれていた。その為、いつの間にか私一人だけとなっていた私には決定打が無かったこともあり、為す術なく私はゴブリン共に捕らえられた。

──今思えばあの時の統率はゴブリンチーフの上位の存在、ゴブリンジェネラルの存在があった為だろう。

 本来ならば私は逃げるべきだった。手近なゴブリンを蹴散らして早々に逃げ出すべきだった。だが、それをしなかったのは己の慢心が原因となっていた。ゴブリンの群は何度も何度も潰した経験があった。故に今回も「簡単に片が着くだろう。」そう思ってしまった。そして蹴散らそうとした結果が、数に負けて今に至ると云うわけだ。我ながら情けないと思う。だがそれと同時に

 ──仲間がいたなら

 と、自らのミスを認めない私もいた。だが結局は己の行動が今の私の末路であるのに変わりはない。
 

 そこまでの回想を終えてふぅ、と軽く息を吐く。と、そこで何やら同じ牢に入れられた人々が何かしら話しているのに気付く。

 「おい、何を話している?」

 「あ、ダールさん、いや、何か少年の連れていかれた方角から何やら騒がしい喧騒が聞こえてくるんですよ」

 「なに?」

 私は少年の連れていかれた方角へと耳を澄ます。

 「──────!────!」

 「────!────────!────…!」

 確かに何やら騒がしい。

 ──これは、口論しているのか?

 所々で人ではない何かの笑い声が聞こえる。だが、やがてそれも聞こえなくなってきた。だが次の瞬間──!

 ドォン!

 真っ直ぐに私の身体目掛けて貫くような重い音が飛んできた。皆も聞いたのだろう。中には思わず身体をビクッと震わせる者もいた。それほどの音だった。
 だが、驚くのはまだ早かった。何故なら──

 ドガァン!ガラガラガラ…!

 激しく壁に何かが叩きつけられる音と共に牢を囲った土壁が音を激しくたてながら崩れた。
 私達は唖然としていた。それもそうだろう。いつの間にか脱出するのに障害になる壁が一瞬にして無くなったのだから。
 私達が目の前の光景を見て何をするかなど想像にかたくなかった。

 「に、逃げろー!!!」

 咆哮ともとれるその叫びを誰かがあげたのを発端に次々と自由を求めて出口を求めて人々は駆け出した。勿論私もこんなもう一度あるかないか分からないチャンスをふいにするわけもなく、足早に脱出した。その時ふと、思い出したかのように音がした方へと視線を向けた。そこには──

 ──迷える案内人だと!?

 私の眼前でぼろ雑巾のように瓦礫に紛れて横たわるそれは、Bランクのモンスターであり、その肉体があるのに物理攻撃が一切通らない特異な身体には、明らかに打撃痕だと分かる傷があった。

 ──バカな!一体どうやったんだ!?

 そう思い、迷える案内人が飛来してきたであろう方へと目を向ける。そこには──。
 おそらく気絶しているのであろう先程の連れていかれた少年がうつ伏せに倒れていた。
 そして私は悟った。あの少年がやったのだと。そう結論付けた私の行動は早かった。何故か動きが鈍くなっているゴブリンを素手で殴り飛ばし、素早く少年を肩に担ぎ、出口へと急ぐ。幸い今の時間帯、ゴブリン共は食事と娯楽を楽しむために一匹残らず出払っていた。

 ──占めたぞ!

 思わず小さくガッツポーズをした。だが、出口の前で人だかりができていることに気付く。

 「どうしたんだ」

 「いや、それが部屋の外にゴブリン共がかなりの数待機していまして、何とか出来ないものかと考えているんです」

 「なんだと!ならば一体どうすれば──…」

 ──いや、そうだ!あいつらの武器を使えば──!

 「強行突破をしよう」

 「は!?何を言ってるんですか!そんなことをしても返り討ちにあうだけです!大体武器もないのにどうやって──」

 「武器ならある!ゴブリンの武器を使うんだ!この少年を連れていったゴブリン共がいただろう、そのゴブリン共が武器を幾つかもっていた!それを使ってゴブリン共を蹴散らすんだ!」

 「ご、ゴブリンの武器って、精々棍棒位でしょう?」

 「いや、それがなかなか優秀な武器なんだ。少なくとも棍棒よりか遥かに威力は高いはずだ!」

 と、そこまで訴えかけたところ漸く渋々と皆で武器を取りに行くことになった。

 「休む暇なんて無いぞ!急いで武器をてに入れるんだ!看守のゴブリン共もいつ戻ってくるかも知れないんだ!」

 そう渇を入れると皆素早く駆け出していった。私もそれについていく。
 軽く駆け足で戻ったところ、不幸中の幸いなのかゴブリン共は未だに気絶していた。
 散らばったゴブリン共の武器の中から盾になりそうな武器を探す。そして目についたのは、幅広の最早鉄の塊と言った方がしっくり来るバスターソードだった。

 ──ゆっくりしている時間などない。これにしよう!

 そう思い、バスターソードを掴み、力任せに振り上げてみる。少々思いが問題はないだろう。

 「武器は持ったか!?急いで戻るぞ!」

 早口にそう述べ、走り出す。周りの皆も思い思いの武器を手に取り走り出す。
 そう時間も経たずに再び出口に戻ってきた。そして──

 「いいか!ここを出ていったらもう後戻りはできないぞ!私たちに残された道は2つ!生きて家に帰るか死んで骸になるかだ!だが、私達の答えはもう決まっているだろう!?さぁ行くぞ!生きてここから脱出するんだ!」

 『オオォォォー!!!』

 力強く武器を天に掲げ閧の声をあげる。これだけ騒いだのだ、部屋の向こうの連中には既に気付かれているはず。だが、それでいい!私達の中には勝って勝利を掴もうとしているものしかいない。ならば静かにしているよりも己の鼓舞をするために騒いだ方が遥かに効果的だろう。
 
 「私が敵を引き付ける!さぁ、行くぞ!」

 掲げたバスターソードで扉を一閃する。

 ザンッ!ズルズルズルゥ……ガタンッ

 斜めに斬られた扉の上方がスライドしていく。そして最後までスライドして扉が倒れたと同時に私は駆け出した。正面の敵を凝視しつつ、振りかぶったバスターソードを力任せに振り下ろす。その瞬間私達の命がけの脱出劇が幕をあげた。
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