異世界に行ったら記憶がなくなってここがどこだかわかりません。

シンカイ

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油断、そして待ち伏せ

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 俺達はダールを先頭にしてひたすらに出口を目指す。全体の士気が高いからなのか、速度が一向に衰える事はない。時々緑の奴に出くわすこともあったが全て小規模で、大きな障害になることもなかった。

 どのくらいの距離を走ってきたのだろう。詳しい時間は分からないが、相当な時間走ったはずだ。その証拠に通路には灯りがポツポツと点在するようになってきている。
 不安を感じる暗闇からの脱出は俺達の気分を大いに高揚させた。

 「皆、もう少しだ!頑張ってくれ!」

 ダールが激励の言葉を発する。

 「ああ!」

 「ええ!」

 「はい!」

 その言葉に俺達は力強い声で答える。確かに俺達の目の前には段々と見慣れた造りの粗い木製の扉が、柔らかい光に照らされてその存在を主張している。
 ようやくゴールが確認できた俺は、微かにだが足取りが軽くなっていた。

 ──皆はどんな顔をしているんだろうか?

 辺りを見回す。すると、確かに皆の顔はホッとしたような、それでいて急に疲れが感じ始めたような、とにかく色々な顔をしていた。だが、やはり多いのは思わず笑顔に変わってしまったような顔だった。それを見て俺も自然と顔が綻ぶ。ダールも似たような顔をしている。だが、急にキリッと顔を引き締め──

 「嬉しいのはわかるが、まだまだ安心はできない!皆、気を引き締めるんだ!」

 と、皆を叱咤した。

 ──確かにそうだ。まだ外に脱出して安全な場所にいる訳じゃないんだ、喜ぶのは無事に助かってからだな。

 叱咤を聞いて再び俺は気を引き締め直した。だが──

 「いやでもダールさん、出口はもう目前ですよ?ここまで来たら流石にもう大丈夫じゃないんですか?」

 一人の青年が軽い口調で発言する。

 「そう、それだ!その最後の気の緩みが簡単に死に繋がってしまうんだ。命は状況が揃ってしまえばいとも簡単に失ってしまう。助かりたいのなら、死にたくないのなら!もっと気を引き締めて、最後まで油断はしないことだ!」

 ダールの言葉を聞いて少し癇に触ったのだろう。ムッとした顔をして──

 「それはダールさんの考えすぎじゃないですか?第一もうゴブリンのゴの字すら見当たりませんよ?流石にこの状況で助からないなんてありえな─」

 「トデモオモッテイルノカァ!」

 突如として狭い通路の壁が乱雑に崩壊していく。その崩壊した壁からはぞろぞろと醜悪な化け物共が姿を現していく。

 「う、うわああぁっ!」

 先程まで余裕綽々の顔をしていた青年の顔が一気に絶望の表情へと塗り固められた。

 「ガッガッガ!ヨウヤクタドリツイタカ、ノロマナニンゲンドモガァ!」

 大地を震わすような大きな声で俺達の鼓膜を激しく打つ。中には思わず耳に手を当ててしまうものもいた。先程の青年もその一人だ。しかし、青年の前には緑の奴らがいた。そんな状況で耳を押さえてしまった彼の命運は決まってしまったようなものだ!
 緑の奴らは心の底から狂喜をその全身に宿らせながら、青年へと得物を振りかぶる。そしてその得物が振り下ろされた瞬間──!!

 「う、うわあああぁぁぁぁぁ!!!」

 「『防守ガード』!」

 ガキンッ!

 「ギッ!?」

 緑の奴らの振り下ろした得物は半透明の大きな盾によって大きく弾かれた。

 「ホゥ?」

 「くっ、大丈夫か!」

 攻撃を防いだ正体──ダールは青年に声をかける。

 「ひっ!は、はい、大丈夫です!すみません!」

 「礼はいい!早く武器を構えろ!もう絶対に油断はするな!いいな!?」

 「は、はい!」

 そう青年は返答すると、持っていた武器─槍状の鋼を構えた。
 緑のやつらの数はどんどん増え、数十体ものの数になった。しかもそいつらは全員が殆どが全身装備を身に付けている。

 「な─バカな!?全て上位種だと!?」

 ──上位種?一体なんだ?

 この言葉の意味は分からない。だが、切羽詰まったダールの声色でそれが相当異常なことであることが察知できる。他の者も、先程対峙した緑の奴らと戦ったときより士気が低い。中には既に戦闘を放棄して武器を投げ出してしまうものもいた。
 だが、戦場の真っ只中で己を守るための手段を捨ててしまうということは当然──

 「ギャッ」

 「た、助け──グェ」

 「イヤだ!死にたくな─」

 背後から追い縋ってきた緑の奴らに襲われて地に伏せる。あとからは噎せるような血の臭いが充満する。

 「キャアッ!」

 女性の悲鳴が聞こえた。すぐさまそちらを向けば何かに躓いて転んだのだろう。懸命に立とうとするが背後には既に武器を構えて突進してくる化け物がいる。

 ──助けなきゃ!

 そう思った俺は手に持つ両刃の武器を持って背後から接近し、今にも女性の柔肌に己の武器を突き立てようとしている化け物を右下段から左上段へと一気に振りきる!

 「グギャァッ!」

 余程当たり所が良かったのだろう。クリティカルとでも言うのだろうか。俺の攻撃は一撃で化け物の命を刈り取った。化け物の装備すら引き裂いて。

 「ッフゥ…」

 小さく息を吐く。目の前の化け物の骸からはドクドクと体液が流れている。それを呆然と見つめていた俺に──

 「あ、ありがとうございます!」

 女性が声をかけてきた。その声に俺はハッと我に返り、

 「ああ、いや気にしないで!」

 と短く告げ戦いに集中しはじめる。
 敵の数はおおよそ見当もつかないが恐らく50体はいるはずだ。皆の活躍により少しは数は減らしたものの、それを越える数でこちらの人数が減っていた。
 ここに辿り着いたとき、20名ほどいたにも関わらずいつの間にか殆ど半分の数になっていた。

 ──くそッ!埒があかないぞ!?

 思わず歯噛みする。だがそんなことをしても戦況が覆る訳でもない。俺は気を取り直すと化け物めがけて一気に迫る。そして持っている武器を横凪ぎに振るった。

 「ガァッ!?」

 短く悲鳴をあげ、胴体をきれいに半分にされた化け物はそのまま地面に倒れ伏す。
 それを脇目で確認して次なる獲物へと接近し、化け物の肩から袈裟斬りする。辺りには化け物特有の色をした体液が吹き出し、何滴かが俺の顔に勢いよく飛び散った。
 勢いに任せて俺はがむしゃらにその刃を化け物の体のどこかに時には刺突を繰り出し、また時には斬撃を浴びせた。
 どのくらいの敵を倒したのだろう。俺の攻撃は疲労によるものなのか、はたまた油断によるものなのか判らないが、動きが単調になり、集中力も薄れていった。だからこそ、俺は背後に迫る凶刃に気付くことができなかった。

 「危ない!」

 さっきの女性が俺に注意を促す。

 ──え?

 反応した瞬間、腹部に強烈な痛みが走った。

 
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