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闖入者
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ぐらりと俺の身体が前傾する。そして俺の身体は特に抵抗するでもなく地面へと倒れ伏した。
「おい!大丈夫か!」
遠くから剣戟と共にダールの気遣う声が微かに聞こえる。
──いてぇ、ちくしょう、いてぇよ!
疲労と傷を負ったせいか、身体が動かない。だが感覚が過敏になっているらしく、ひたすらに止まない痛みが無抵抗の俺を襲う。
「おい!しっかりしろ!」
いつの間にか近くに駆け寄ってきていたダールが再び俺に声をかける、が──
──聞こえねぇ。
あらゆる感覚がもう殆どが機能していないのだろう。おぼろげに見えるダールらしき人物が必死に口を動かしているのが見える。傍らにはいつの間にそうしていたのだろうか、女性が俺の手を己の胸の前でしっかりと握りしめ、潤んだ藍色の瞳でこちらを見ている。
──おれ、もしかして死ぬんかな……
一瞬そんな考えが頭をよぎる。ダールの言った通り、確かに状況が揃ってさえしまえば本当に死んでしまうんだと今更ながらこんな状況に陥ったことでようやく理解できた。
そんなことを考えていたらなんだかスッキリした。もう痛みを感じることはなかった。その代わりに抗い難い眠気が俺を襲う。
俺は特に抵抗するでもなく瞼を下ろそうとした。しかし──
「!!」
僅かに見えた俺の心配をしている二人の背後に今にも襲いかからんとしている化け物共が映った。そして二人は背後に迫る化け物に全く気付いていない!
──くそっ!
俺は心の中で地団駄を踏んだ。目の前には危機が迫っていると言うのに俺の身体は動かない。言葉をかけようとしても俺の口は接着したかのように閉口している。歯痒いことに俺には背後の化け物を止める術はなかった。
そして今まさに背後に迫る凶器が二人に当たろうかというときにそれは起きた!
ドズゥン…!
地面が激しく鳴動した。それに反応しきれなかった化け物共はバランスを崩して尻餅をついていた。
ガシャンッ
「!うらぁ!」
背後から聞こえる何かを落としたらしい音に反応してダールは傍らに置いていた鋼の塊を力任せに背後に向けて横薙ぎに振るう。
「ギァッ!」
「グギャ!」
振るった鋼に見事にぶち当たり、緑の奴は骨が砕ける音と共にその体を宙に浮かせた。そのまま重力に任せて下降し強かに打ち付けると物言わぬ骸となった。
ズズズゥン…!
また先程と似たような音と共に地面が鳴動する。
ゴォンッ!
立て続けに何かを粉砕するような音が聞こえた。
ゴォンッ!!
その音はまた幾つか続き、聞こえるにつれその音がどんどん接近してきているのが分かる。
そしてついに──
バガァンッ!!!
奥にある壁が突然爆ぜた。
ガラガラと派手な音をたてながら分厚い壁が崩壊していく。瓦礫が崩れた衝撃で砂煙が巻き上がる。
「ゲホッ、ゴホッ!うーわちっとやり過ぎたなぁ…、ゴッホゴホッ」
そんな独り言ともとれるような声が聞こえた。どうやらその声の主は砂煙の奥にいるようだ。微かに人影のような影がモゾモゾ動く。
化け物共も含め、皆が唖然としているなかそいつは姿を現した。
「よし、おまたせ!」
ひょいと身軽にその身を砂煙の外へと踊らせる。そして出てきたのは、漆黒の装備でその身を固めた男だった。
「ナンダキサマハ?」
突然の乱入者に緑の化け物の親玉が牙を剥く。それに呼応するかのように生き残りの緑の化け物共は男に対して武器を構える。
「俺か?俺は俺だよ」
男は飄々と言葉を交わす。それに気を悪くしたのだろう。緑の奴の親玉は己の武器を男に向け、
「ヤレェ!」
鋭い声で他の者に命令を飛ばす。その命令を忠実にこなすために緑の奴らが男に襲いかかる。
だが、それでも男は飄々とした態度を崩さず佇んでいる。
しかし、ふと男は笑みを浮かべた。その瞬間男の右手にはいつの間にか己の身長程もある大剣が握られていた。そして手にした大剣を化け物の群れに向けて大きく振り抜いた。恐らくその剣閃が見えたのはこの場では親玉のみだろう。
それほどこの男の技量は高かったのだ。
勿論化け物の群れの中には誰一人として反応できたものはいなかった。化け物共が突然訪れた自らの死を実感できたのは己の下半身が棒立ちになっているのを目撃してからだった。
驚愕に目を見開き死んでいくものと不思議そうな顔をして息絶えているものの死体が溢れかえる。それを冷徹な目で見つめる親玉の姿があった。
親玉はゆっくりと瞬きをひとつすると──
「ヤルナ」
一言呟いた。
「そりゃどーも」
男が軽い口調でそう返した。
──すげぇ。
俺は自分が重傷を負っているにも関わらず目の前で繰り広げられた刹那の出来事に開いた口が塞がらずにいた。傍らで佇むダールと女性もその光景に目を奪われていた。
「じゃ、次はお前な」
そう言って親玉に向けて持っていた大剣を不敵な笑みと共に突きつける。
「イイダロウ」
親玉もニヤリと笑い得物を持って男の前に出る。
「さーって、じゃあ始めますか!」
そう言って男は駆ける。その速さは最早尋常ではない速さに達していたが、親玉もそれに劣らぬ体格からは想像できないような速さで男へと迫る。
そして両者ともに己の武器を振り上げ──
「おらあぁぁあああぁあ!!」
「ゴアアァァアアァアア!!」
ガキィン!
両者の渾身の一撃を衝突させ火花を大きく散らせる。今ここで、親玉──いや緑の親玉と一人の闖入者の戦いの火蓋が切って落とされた。
「おい!大丈夫か!」
遠くから剣戟と共にダールの気遣う声が微かに聞こえる。
──いてぇ、ちくしょう、いてぇよ!
疲労と傷を負ったせいか、身体が動かない。だが感覚が過敏になっているらしく、ひたすらに止まない痛みが無抵抗の俺を襲う。
「おい!しっかりしろ!」
いつの間にか近くに駆け寄ってきていたダールが再び俺に声をかける、が──
──聞こえねぇ。
あらゆる感覚がもう殆どが機能していないのだろう。おぼろげに見えるダールらしき人物が必死に口を動かしているのが見える。傍らにはいつの間にそうしていたのだろうか、女性が俺の手を己の胸の前でしっかりと握りしめ、潤んだ藍色の瞳でこちらを見ている。
──おれ、もしかして死ぬんかな……
一瞬そんな考えが頭をよぎる。ダールの言った通り、確かに状況が揃ってさえしまえば本当に死んでしまうんだと今更ながらこんな状況に陥ったことでようやく理解できた。
そんなことを考えていたらなんだかスッキリした。もう痛みを感じることはなかった。その代わりに抗い難い眠気が俺を襲う。
俺は特に抵抗するでもなく瞼を下ろそうとした。しかし──
「!!」
僅かに見えた俺の心配をしている二人の背後に今にも襲いかからんとしている化け物共が映った。そして二人は背後に迫る化け物に全く気付いていない!
──くそっ!
俺は心の中で地団駄を踏んだ。目の前には危機が迫っていると言うのに俺の身体は動かない。言葉をかけようとしても俺の口は接着したかのように閉口している。歯痒いことに俺には背後の化け物を止める術はなかった。
そして今まさに背後に迫る凶器が二人に当たろうかというときにそれは起きた!
ドズゥン…!
地面が激しく鳴動した。それに反応しきれなかった化け物共はバランスを崩して尻餅をついていた。
ガシャンッ
「!うらぁ!」
背後から聞こえる何かを落としたらしい音に反応してダールは傍らに置いていた鋼の塊を力任せに背後に向けて横薙ぎに振るう。
「ギァッ!」
「グギャ!」
振るった鋼に見事にぶち当たり、緑の奴は骨が砕ける音と共にその体を宙に浮かせた。そのまま重力に任せて下降し強かに打ち付けると物言わぬ骸となった。
ズズズゥン…!
また先程と似たような音と共に地面が鳴動する。
ゴォンッ!
立て続けに何かを粉砕するような音が聞こえた。
ゴォンッ!!
その音はまた幾つか続き、聞こえるにつれその音がどんどん接近してきているのが分かる。
そしてついに──
バガァンッ!!!
奥にある壁が突然爆ぜた。
ガラガラと派手な音をたてながら分厚い壁が崩壊していく。瓦礫が崩れた衝撃で砂煙が巻き上がる。
「ゲホッ、ゴホッ!うーわちっとやり過ぎたなぁ…、ゴッホゴホッ」
そんな独り言ともとれるような声が聞こえた。どうやらその声の主は砂煙の奥にいるようだ。微かに人影のような影がモゾモゾ動く。
化け物共も含め、皆が唖然としているなかそいつは姿を現した。
「よし、おまたせ!」
ひょいと身軽にその身を砂煙の外へと踊らせる。そして出てきたのは、漆黒の装備でその身を固めた男だった。
「ナンダキサマハ?」
突然の乱入者に緑の化け物の親玉が牙を剥く。それに呼応するかのように生き残りの緑の化け物共は男に対して武器を構える。
「俺か?俺は俺だよ」
男は飄々と言葉を交わす。それに気を悪くしたのだろう。緑の奴の親玉は己の武器を男に向け、
「ヤレェ!」
鋭い声で他の者に命令を飛ばす。その命令を忠実にこなすために緑の奴らが男に襲いかかる。
だが、それでも男は飄々とした態度を崩さず佇んでいる。
しかし、ふと男は笑みを浮かべた。その瞬間男の右手にはいつの間にか己の身長程もある大剣が握られていた。そして手にした大剣を化け物の群れに向けて大きく振り抜いた。恐らくその剣閃が見えたのはこの場では親玉のみだろう。
それほどこの男の技量は高かったのだ。
勿論化け物の群れの中には誰一人として反応できたものはいなかった。化け物共が突然訪れた自らの死を実感できたのは己の下半身が棒立ちになっているのを目撃してからだった。
驚愕に目を見開き死んでいくものと不思議そうな顔をして息絶えているものの死体が溢れかえる。それを冷徹な目で見つめる親玉の姿があった。
親玉はゆっくりと瞬きをひとつすると──
「ヤルナ」
一言呟いた。
「そりゃどーも」
男が軽い口調でそう返した。
──すげぇ。
俺は自分が重傷を負っているにも関わらず目の前で繰り広げられた刹那の出来事に開いた口が塞がらずにいた。傍らで佇むダールと女性もその光景に目を奪われていた。
「じゃ、次はお前な」
そう言って親玉に向けて持っていた大剣を不敵な笑みと共に突きつける。
「イイダロウ」
親玉もニヤリと笑い得物を持って男の前に出る。
「さーって、じゃあ始めますか!」
そう言って男は駆ける。その速さは最早尋常ではない速さに達していたが、親玉もそれに劣らぬ体格からは想像できないような速さで男へと迫る。
そして両者ともに己の武器を振り上げ──
「おらあぁぁあああぁあ!!」
「ゴアアァァアアァアア!!」
ガキィン!
両者の渾身の一撃を衝突させ火花を大きく散らせる。今ここで、親玉──いや緑の親玉と一人の闖入者の戦いの火蓋が切って落とされた。
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