6 / 100
Ⅰ 黒のオメガ
⑤
しおりを挟む
「ディン、今日はジリスとの時間だって言っただろう?」
カザルが返事をするが、ディンは大人びた微笑みを返した。
「承知しています。ですが、あまりに楽しそうですので、お仲間に入れていただきたくなったのです」
これにはジリスが笑った。ディンは落ち着いた様子で話しているが、きっと嫉妬したのだ。
楽しそうに過ごすカザルを見守るだけでは耐えられなくなったのだろう。
「いいですよ。ディン様は兄様が気になって仕方ないのでしょう?」
すぐにディンは席についた。
「ええ。ご想像の通りです」
執着ぶりを隠さないディンの様子にカザルが真っ赤になる。
「おい、ディン! ちょっとは遠慮しろよ! 兄弟水入らず、なんだぞ」
ディンに対してはカザルが子供のようにムキになる。そんな二人の関係を見るとジリスは楽しい気持ちになる。
番って良いなぁと思える。
「カザル、ほら、お茶がこぼれるよ。いいじゃないか。私だってジリス様とは義兄弟なのだから」
優しくフォローしながら、ちゃっかりカザルの真横にディンが密着している。
身体の大きな逞しいディンが、小柄で中性的なカザルを包み込んでいるようだ。絵にかいたようなお似合いの二人だと思い、ジリスは微笑んだ。
近くに待機していた侍女たちがディンの茶を準備した。ディンに出された茶は輝く白茶だ。
「兄様とディン様は、仲がいいね。ね、ディン様に聞いても良いでしょうか?」
ジリスの問いにディンが頷く。
「はい。私に答えられる事でしたら、何でもお答えします」
「黒の国に来た時は、怖く、なかったですか? 番予定の兄様と仲良くなれなかったら、とか、考えなかったでしょうか?」
自分の中の不安を聞いて良かったのか分からず、ジリスは下を見た。少し緊張した空気が流れてジリスは困ってしまった。聞くべきでは無かったのかも、と後悔した。
「ジリス様、白に慣れた私が、黒の多い世界に不安にならないワケがありません。ですが、目の前に現れたカザルの美しさと、甘美なオメガの香りに不安は全て吹き飛びました。一瞬で私の全身をカザルに支配されたと言いましょうか。カザルになら私の全てを捧げてもいいと思えたのです」
落ち着いた声音だが、熱を含んだ言葉にカザルがガタっと椅子を鳴らす。
「おい! ディン。それ以上言うな!」
「いや、カザル。大切な事だよ。ジリス様に番という存在の大きさと、愛おしさを伝えなくてはいけないよ」
「ふざけるな。お前は惚気たいだけだろう! ジリス、いいか、これ以上は耳を塞げ。惚気出したらディンはしつこいぞ」
カザルの言葉に侍女たちがクスクス笑う。まるで『その通りです』と言っているようだ。
「いいじゃないか。ほら、カザルも惚気ていいから」
少しズレた事を言うディンは、どこまで本気なのかよく分からない。
「なんで俺がここで惚気なきゃなんだよ。俺はディンにだけ愛を囁くからいい」
言ったとたんに、『しまった』と言う顔をしてカザルが静止する。それを見てディンは満足そうに微笑んだ。
見る間にカザルが真っ赤になりプルプルと全身を震わせる。
「あははは! 兄様がお茶の席で愛を語るとは思わなかったぁ!」
耐え切れずにジリスは大声で笑った。「笑うな!」と怒るカザルも、いつの間にか笑顔になった。
清らかな黒のテラスに華やかな笑い声が満ちていた。
――懐かしい。僕は黒国で幸せだったなぁ。
思い出に浸ると涙が頬を伝う。流れる涙を拭くのが面倒で、ジリスは窓の外を眺めた。
白ばかりを見ているより外の景色の方がいい。
(どうして僕だけ、こうなんだ。番なんて、全然幸せじゃない!)
心の中で叫びを上げて、ジリスは唇を噛みしめた。
カザルが返事をするが、ディンは大人びた微笑みを返した。
「承知しています。ですが、あまりに楽しそうですので、お仲間に入れていただきたくなったのです」
これにはジリスが笑った。ディンは落ち着いた様子で話しているが、きっと嫉妬したのだ。
楽しそうに過ごすカザルを見守るだけでは耐えられなくなったのだろう。
「いいですよ。ディン様は兄様が気になって仕方ないのでしょう?」
すぐにディンは席についた。
「ええ。ご想像の通りです」
執着ぶりを隠さないディンの様子にカザルが真っ赤になる。
「おい、ディン! ちょっとは遠慮しろよ! 兄弟水入らず、なんだぞ」
ディンに対してはカザルが子供のようにムキになる。そんな二人の関係を見るとジリスは楽しい気持ちになる。
番って良いなぁと思える。
「カザル、ほら、お茶がこぼれるよ。いいじゃないか。私だってジリス様とは義兄弟なのだから」
優しくフォローしながら、ちゃっかりカザルの真横にディンが密着している。
身体の大きな逞しいディンが、小柄で中性的なカザルを包み込んでいるようだ。絵にかいたようなお似合いの二人だと思い、ジリスは微笑んだ。
近くに待機していた侍女たちがディンの茶を準備した。ディンに出された茶は輝く白茶だ。
「兄様とディン様は、仲がいいね。ね、ディン様に聞いても良いでしょうか?」
ジリスの問いにディンが頷く。
「はい。私に答えられる事でしたら、何でもお答えします」
「黒の国に来た時は、怖く、なかったですか? 番予定の兄様と仲良くなれなかったら、とか、考えなかったでしょうか?」
自分の中の不安を聞いて良かったのか分からず、ジリスは下を見た。少し緊張した空気が流れてジリスは困ってしまった。聞くべきでは無かったのかも、と後悔した。
「ジリス様、白に慣れた私が、黒の多い世界に不安にならないワケがありません。ですが、目の前に現れたカザルの美しさと、甘美なオメガの香りに不安は全て吹き飛びました。一瞬で私の全身をカザルに支配されたと言いましょうか。カザルになら私の全てを捧げてもいいと思えたのです」
落ち着いた声音だが、熱を含んだ言葉にカザルがガタっと椅子を鳴らす。
「おい! ディン。それ以上言うな!」
「いや、カザル。大切な事だよ。ジリス様に番という存在の大きさと、愛おしさを伝えなくてはいけないよ」
「ふざけるな。お前は惚気たいだけだろう! ジリス、いいか、これ以上は耳を塞げ。惚気出したらディンはしつこいぞ」
カザルの言葉に侍女たちがクスクス笑う。まるで『その通りです』と言っているようだ。
「いいじゃないか。ほら、カザルも惚気ていいから」
少しズレた事を言うディンは、どこまで本気なのかよく分からない。
「なんで俺がここで惚気なきゃなんだよ。俺はディンにだけ愛を囁くからいい」
言ったとたんに、『しまった』と言う顔をしてカザルが静止する。それを見てディンは満足そうに微笑んだ。
見る間にカザルが真っ赤になりプルプルと全身を震わせる。
「あははは! 兄様がお茶の席で愛を語るとは思わなかったぁ!」
耐え切れずにジリスは大声で笑った。「笑うな!」と怒るカザルも、いつの間にか笑顔になった。
清らかな黒のテラスに華やかな笑い声が満ちていた。
――懐かしい。僕は黒国で幸せだったなぁ。
思い出に浸ると涙が頬を伝う。流れる涙を拭くのが面倒で、ジリスは窓の外を眺めた。
白ばかりを見ているより外の景色の方がいい。
(どうして僕だけ、こうなんだ。番なんて、全然幸せじゃない!)
心の中で叫びを上げて、ジリスは唇を噛みしめた。
142
あなたにおすすめの小説
運命を知らないアルファ
riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。
運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!?
オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω
オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
【完結】王のための花は獣人騎士に初恋を捧ぐ
トオノ ホカゲ
BL
田舎の貧村で暮らすリオンは、幼い頃からオメガであることを理由に虐げられてきた。唯一の肉親である母親を三か月前に病気で亡くし、途方に暮れていたところを、突然現れたノルツブルク王国の獣人の騎士・クレイドに助けられる。クレイドは王・オースティンの命令でリオンを迎えに来たという。そのままクレイドに連れられノルツブルク王国へ向かったリオンは、優しく寄り添ってくれるクレイドに次第に惹かれていくがーーーー?
心に傷を持つ二人が心を重ね、愛を探す優しいオメガバースの物語。
(登場人物)
・リオン(受け)
心優しいオメガ。頑張り屋だが自分に自信が持てない。元女官で薬師だった母のアナに薬草の知識などを授けられたが、三か月前にその母も病死して独りになってしまう。
・クレイド(攻め)
ノルツブルク王国第一騎士団の隊長で獣人。幼いころにオースティンの遊び相手に選ばれ、ともにアナから教育を受けた。現在はオースティンの右腕となる。
・オースティン
ノルツブルク王国の国王でアルファ。
陰日向から愛を馳せるだけで
麻田
BL
あなたに、愛されたい人生だった…――
政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。
結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。
ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。
自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。
「好きになってもらいたい。」
…そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。
それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。
いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。
結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…
―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…
陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。
よかったはずなのに…
呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。
◇◇◇
片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。
二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。
セリ (18)
南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵
ローレン(24)
北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵
◇◇◇
50話で完結となります。
お付き合いありがとうございました!
♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。
おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎
また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!
大嫌いなアルファと結婚しまして
リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ
久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。
パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。
オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる