【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

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Ⅰ 黒のオメガ

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「ディン、今日はジリスとの時間だって言っただろう?」

 カザルが返事をするが、ディンは大人びた微笑みを返した。

「承知しています。ですが、あまりに楽しそうですので、お仲間に入れていただきたくなったのです」

 これにはジリスが笑った。ディンは落ち着いた様子で話しているが、きっと嫉妬したのだ。
 楽しそうに過ごすカザルを見守るだけでは耐えられなくなったのだろう。

「いいですよ。ディン様は兄様が気になって仕方ないのでしょう?」
 すぐにディンは席についた。

「ええ。ご想像の通りです」
 執着ぶりを隠さないディンの様子にカザルが真っ赤になる。

「おい、ディン! ちょっとは遠慮しろよ! 兄弟水入らず、なんだぞ」

 ディンに対してはカザルが子供のようにムキになる。そんな二人の関係を見るとジリスは楽しい気持ちになる。
 番って良いなぁと思える。

「カザル、ほら、お茶がこぼれるよ。いいじゃないか。私だってジリス様とは義兄弟なのだから」

 優しくフォローしながら、ちゃっかりカザルの真横にディンが密着している。

 身体の大きな逞しいディンが、小柄で中性的なカザルを包み込んでいるようだ。絵にかいたようなお似合いの二人だと思い、ジリスは微笑んだ。

 近くに待機していた侍女たちがディンの茶を準備した。ディンに出された茶は輝く白茶だ。

「兄様とディン様は、仲がいいね。ね、ディン様に聞いても良いでしょうか?」

 ジリスの問いにディンが頷く。

「はい。私に答えられる事でしたら、何でもお答えします」

「黒の国に来た時は、怖く、なかったですか? 番予定の兄様と仲良くなれなかったら、とか、考えなかったでしょうか?」

 自分の中の不安を聞いて良かったのか分からず、ジリスは下を見た。少し緊張した空気が流れてジリスは困ってしまった。聞くべきでは無かったのかも、と後悔した。

「ジリス様、白に慣れた私が、黒の多い世界に不安にならないワケがありません。ですが、目の前に現れたカザルの美しさと、甘美なオメガの香りに不安は全て吹き飛びました。一瞬で私の全身をカザルに支配されたと言いましょうか。カザルになら私の全てを捧げてもいいと思えたのです」

 落ち着いた声音だが、熱を含んだ言葉にカザルがガタっと椅子を鳴らす。

「おい! ディン。それ以上言うな!」

「いや、カザル。大切な事だよ。ジリス様に番という存在の大きさと、愛おしさを伝えなくてはいけないよ」

「ふざけるな。お前は惚気たいだけだろう! ジリス、いいか、これ以上は耳を塞げ。惚気出したらディンはしつこいぞ」

 カザルの言葉に侍女たちがクスクス笑う。まるで『その通りです』と言っているようだ。

「いいじゃないか。ほら、カザルも惚気ていいから」
 少しズレた事を言うディンは、どこまで本気なのかよく分からない。

「なんで俺がここで惚気なきゃなんだよ。俺はディンにだけ愛を囁くからいい」

 言ったとたんに、『しまった』と言う顔をしてカザルが静止する。それを見てディンは満足そうに微笑んだ。
 見る間にカザルが真っ赤になりプルプルと全身を震わせる。

「あははは! 兄様がお茶の席で愛を語るとは思わなかったぁ!」

 耐え切れずにジリスは大声で笑った。「笑うな!」と怒るカザルも、いつの間にか笑顔になった。

 清らかな黒のテラスに華やかな笑い声が満ちていた。



 ――懐かしい。僕は黒国で幸せだったなぁ。

 思い出に浸ると涙が頬を伝う。流れる涙を拭くのが面倒で、ジリスは窓の外を眺めた。
 白ばかりを見ているより外の景色の方がいい。

(どうして僕だけ、こうなんだ。番なんて、全然幸せじゃない!)

 心の中で叫びを上げて、ジリスは唇を噛みしめた。
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