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Ⅰ 黒のオメガ
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ジリスが成人の二十歳を過ぎたら、白国王太子のもとに行くことが決められていた。
そのために白国の礼儀作法や歴史を学んだが、肝心の王太子については全く教えてもらえなかった。それがジリスは不満だった。
そんなある日、午後を一緒に過ごそうとカザルに誘われた。王妃教育で忙しい時間を過ごしていたジリスにとって、久しぶりの兄弟二人の時間だった。
中庭テラスで一休憩はジリスのお気に入りだ。今日もそこにお茶の支度をしてもらった。カザルとともに席に着く。
「ジリス、もうじき白国だよな。本当に、あっという間だった」
声を掛けてくるカザルを見つめた。
カザルはジリスの五歳年上であり、五年前にアルファ男性と番になっている。カザルが番を得てから、ジリスとの兄弟時間は減っていた。
白国から次期王妃として嫁いできたアルファのディンは、長身金髪の完璧な男性だった。
カザルとは目を合わせた瞬間に運命を感じたそうで、ディンの溺愛ぶりは五年経っても冷めることを知らない。
照れ屋なカザルと積極的なディンが一緒にいると、見ている周囲がニマニマしてしまう。
両親夫婦とカザル夫夫を見ているうちに、ジリスは白国に嫁ぐのが嫌では無くなっていた。
互いを敬愛し大切にする彼らの様子から、自分もきっと大丈夫だと思っていた。
しかし、それでも生まれ育った黒の国を離れるのは辛いものがある。
二十歳の期日が迫ると、徐々にジリスの不安が強くなった。
「兄様は自分の婚約者を事前に知りたいと思わなかったの? 兄様はディン様が来るまで、お姿さえ知らなかったんでしょ?」
黒茶の入ったカップを手で触りながらジリスは問いかけた。
「うん。知りたかったけれど無理だったんだ。これまで事前に情報を交換しないことで、国家のトラブル回避をしてきたって言われたな」
「事前に相手を知ってしまって、拒否や選り好みされたら困るって事かなぁ」
「そう。互いに知らないほうが良いって事だ。ジリス、不安はあると思うが、実際に会ってみれば大丈夫だと思う。相手は王太子として番教育を受けているから。迎え入れる王妃を何より大切にする心構えを持っているはずだ。ただ、そうだな。外見とか、フェロモンの好みは、何とも言えないな」
ワザと困った仕草を見せるカザルを見て、ジリスは吹き出した。
「何だよ、それ。そんな事言い始めたら、結局は好みの問題になるじゃんか」
「いや、実際に父様は母様のフェロモンに怖気づいたらしいぞ」
「え! 本当に?」
「そうだ。内緒だぞ。父様は母様に会った時に『怖い』ってベソかいたって」
「ブッハ! そんなことがあったの?」
立派に国王として責務を果たしている父の姿から想像が出来ず、笑いが込み上げた。
「そうさ。母様が『怖くないわよ。あらあら、子供みたいな方ね』って頭をナデナデしたらいい」
母はよく頭を撫でてくれるが、父の事も撫でていたと考えると、ジリスは堪えきれずに声を出して笑った。
「あはは。嘘みたいな話だね」
「だよな! 父様の威厳のためにこれまで秘密にしていたんだ。驚いただろう。つまりだな、どんな出会いでも幸せになれるんだ。だって神様の掟によって番になるんだから」
励ましてくれるカザルの優しさがジリスの心に染み込んだ。優しさに触れて、温かなものが込み上げる。ほろりと流れるジリスの涙をカザルがそっと手で拭った。
「俺の可愛い弟、ジリス。黒の国から、毎日お前を想うよ」
温かいカザルの言葉にジリスは微笑みを返した。
「ありがとう。じゃ、僕は兄様が黒国を傾けてしまわないように白国で願うから」
「はぁ? おい、ジリス。どういう意味だ、って、ま、お前らしくて安心だ」
カザルと笑い合ってお茶菓子を食べた。
結婚生活や番の事は知らなくても何とかなる、と言われて、幼い頃の思い出話に花を咲かせた。話していると、かけがえのない時間を過ごした黒の王城と、愛情深い家族に感謝が湧き上がった。
ジリスは黒の国が大好きだと改めて思った。
「カザル、ジリス様。大変お楽しそうですね。ご一緒してもよろしいですか?」
ジリスの後方から声がかかり振り返ると、カザルの番相手であるディンがいた。
そのために白国の礼儀作法や歴史を学んだが、肝心の王太子については全く教えてもらえなかった。それがジリスは不満だった。
そんなある日、午後を一緒に過ごそうとカザルに誘われた。王妃教育で忙しい時間を過ごしていたジリスにとって、久しぶりの兄弟二人の時間だった。
中庭テラスで一休憩はジリスのお気に入りだ。今日もそこにお茶の支度をしてもらった。カザルとともに席に着く。
「ジリス、もうじき白国だよな。本当に、あっという間だった」
声を掛けてくるカザルを見つめた。
カザルはジリスの五歳年上であり、五年前にアルファ男性と番になっている。カザルが番を得てから、ジリスとの兄弟時間は減っていた。
白国から次期王妃として嫁いできたアルファのディンは、長身金髪の完璧な男性だった。
カザルとは目を合わせた瞬間に運命を感じたそうで、ディンの溺愛ぶりは五年経っても冷めることを知らない。
照れ屋なカザルと積極的なディンが一緒にいると、見ている周囲がニマニマしてしまう。
両親夫婦とカザル夫夫を見ているうちに、ジリスは白国に嫁ぐのが嫌では無くなっていた。
互いを敬愛し大切にする彼らの様子から、自分もきっと大丈夫だと思っていた。
しかし、それでも生まれ育った黒の国を離れるのは辛いものがある。
二十歳の期日が迫ると、徐々にジリスの不安が強くなった。
「兄様は自分の婚約者を事前に知りたいと思わなかったの? 兄様はディン様が来るまで、お姿さえ知らなかったんでしょ?」
黒茶の入ったカップを手で触りながらジリスは問いかけた。
「うん。知りたかったけれど無理だったんだ。これまで事前に情報を交換しないことで、国家のトラブル回避をしてきたって言われたな」
「事前に相手を知ってしまって、拒否や選り好みされたら困るって事かなぁ」
「そう。互いに知らないほうが良いって事だ。ジリス、不安はあると思うが、実際に会ってみれば大丈夫だと思う。相手は王太子として番教育を受けているから。迎え入れる王妃を何より大切にする心構えを持っているはずだ。ただ、そうだな。外見とか、フェロモンの好みは、何とも言えないな」
ワザと困った仕草を見せるカザルを見て、ジリスは吹き出した。
「何だよ、それ。そんな事言い始めたら、結局は好みの問題になるじゃんか」
「いや、実際に父様は母様のフェロモンに怖気づいたらしいぞ」
「え! 本当に?」
「そうだ。内緒だぞ。父様は母様に会った時に『怖い』ってベソかいたって」
「ブッハ! そんなことがあったの?」
立派に国王として責務を果たしている父の姿から想像が出来ず、笑いが込み上げた。
「そうさ。母様が『怖くないわよ。あらあら、子供みたいな方ね』って頭をナデナデしたらいい」
母はよく頭を撫でてくれるが、父の事も撫でていたと考えると、ジリスは堪えきれずに声を出して笑った。
「あはは。嘘みたいな話だね」
「だよな! 父様の威厳のためにこれまで秘密にしていたんだ。驚いただろう。つまりだな、どんな出会いでも幸せになれるんだ。だって神様の掟によって番になるんだから」
励ましてくれるカザルの優しさがジリスの心に染み込んだ。優しさに触れて、温かなものが込み上げる。ほろりと流れるジリスの涙をカザルがそっと手で拭った。
「俺の可愛い弟、ジリス。黒の国から、毎日お前を想うよ」
温かいカザルの言葉にジリスは微笑みを返した。
「ありがとう。じゃ、僕は兄様が黒国を傾けてしまわないように白国で願うから」
「はぁ? おい、ジリス。どういう意味だ、って、ま、お前らしくて安心だ」
カザルと笑い合ってお茶菓子を食べた。
結婚生活や番の事は知らなくても何とかなる、と言われて、幼い頃の思い出話に花を咲かせた。話していると、かけがえのない時間を過ごした黒の王城と、愛情深い家族に感謝が湧き上がった。
ジリスは黒の国が大好きだと改めて思った。
「カザル、ジリス様。大変お楽しそうですね。ご一緒してもよろしいですか?」
ジリスの後方から声がかかり振り返ると、カザルの番相手であるディンがいた。
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