【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

文字の大きさ
5 / 100
Ⅰ 黒のオメガ

しおりを挟む
 ジリスが成人の二十歳を過ぎたら、白国王太子のもとに行くことが決められていた。

 そのために白国の礼儀作法や歴史を学んだが、肝心の王太子については全く教えてもらえなかった。それがジリスは不満だった。

 そんなある日、午後を一緒に過ごそうとカザルに誘われた。王妃教育で忙しい時間を過ごしていたジリスにとって、久しぶりの兄弟二人の時間だった。

 中庭テラスで一休憩はジリスのお気に入りだ。今日もそこにお茶の支度をしてもらった。カザルとともに席に着く。

「ジリス、もうじき白国だよな。本当に、あっという間だった」

 声を掛けてくるカザルを見つめた。
 カザルはジリスの五歳年上であり、五年前にアルファ男性と番になっている。カザルが番を得てから、ジリスとの兄弟時間は減っていた。

 白国から次期王妃として嫁いできたアルファのディンは、長身金髪の完璧な男性だった。

 カザルとは目を合わせた瞬間に運命を感じたそうで、ディンの溺愛ぶりは五年経っても冷めることを知らない。

 照れ屋なカザルと積極的なディンが一緒にいると、見ている周囲がニマニマしてしまう。

 両親夫婦とカザル夫夫を見ているうちに、ジリスは白国に嫁ぐのが嫌では無くなっていた。

 互いを敬愛し大切にする彼らの様子から、自分もきっと大丈夫だと思っていた。

 しかし、それでも生まれ育った黒の国を離れるのは辛いものがある。
 二十歳の期日が迫ると、徐々にジリスの不安が強くなった。

「兄様は自分の婚約者を事前に知りたいと思わなかったの? 兄様はディン様が来るまで、お姿さえ知らなかったんでしょ?」

 黒茶の入ったカップを手で触りながらジリスは問いかけた。

「うん。知りたかったけれど無理だったんだ。これまで事前に情報を交換しないことで、国家のトラブル回避をしてきたって言われたな」

「事前に相手を知ってしまって、拒否や選り好みされたら困るって事かなぁ」

「そう。互いに知らないほうが良いって事だ。ジリス、不安はあると思うが、実際に会ってみれば大丈夫だと思う。相手は王太子として番教育を受けているから。迎え入れる王妃を何より大切にする心構えを持っているはずだ。ただ、そうだな。外見とか、フェロモンの好みは、何とも言えないな」

 ワザと困った仕草を見せるカザルを見て、ジリスは吹き出した。

「何だよ、それ。そんな事言い始めたら、結局は好みの問題になるじゃんか」

「いや、実際に父様は母様のフェロモンに怖気づいたらしいぞ」

「え! 本当に?」

「そうだ。内緒だぞ。父様は母様に会った時に『怖い』ってベソかいたって」

「ブッハ! そんなことがあったの?」

 立派に国王として責務を果たしている父の姿から想像が出来ず、笑いが込み上げた。

「そうさ。母様が『怖くないわよ。あらあら、子供みたいな方ね』って頭をナデナデしたらいい」

 母はよく頭を撫でてくれるが、父の事も撫でていたと考えると、ジリスは堪えきれずに声を出して笑った。

「あはは。嘘みたいな話だね」

「だよな! 父様の威厳のためにこれまで秘密にしていたんだ。驚いただろう。つまりだな、どんな出会いでも幸せになれるんだ。だって神様の掟によって番になるんだから」

 励ましてくれるカザルの優しさがジリスの心に染み込んだ。優しさに触れて、温かなものが込み上げる。ほろりと流れるジリスの涙をカザルがそっと手で拭った。

「俺の可愛い弟、ジリス。黒の国から、毎日お前を想うよ」

 温かいカザルの言葉にジリスは微笑みを返した。

「ありがとう。じゃ、僕は兄様が黒国を傾けてしまわないように白国で願うから」

「はぁ? おい、ジリス。どういう意味だ、って、ま、お前らしくて安心だ」

 カザルと笑い合ってお茶菓子を食べた。

 結婚生活や番の事は知らなくても何とかなる、と言われて、幼い頃の思い出話に花を咲かせた。話していると、かけがえのない時間を過ごした黒の王城と、愛情深い家族に感謝が湧き上がった。

 ジリスは黒の国が大好きだと改めて思った。

「カザル、ジリス様。大変お楽しそうですね。ご一緒してもよろしいですか?」

 ジリスの後方から声がかかり振り返ると、カザルの番相手であるディンがいた。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

運命を知らないアルファ

riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。 運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!? オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。 コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

【完結】王のための花は獣人騎士に初恋を捧ぐ

トオノ ホカゲ
BL
田舎の貧村で暮らすリオンは、幼い頃からオメガであることを理由に虐げられてきた。唯一の肉親である母親を三か月前に病気で亡くし、途方に暮れていたところを、突然現れたノルツブルク王国の獣人の騎士・クレイドに助けられる。クレイドは王・オースティンの命令でリオンを迎えに来たという。そのままクレイドに連れられノルツブルク王国へ向かったリオンは、優しく寄り添ってくれるクレイドに次第に惹かれていくがーーーー?  心に傷を持つ二人が心を重ね、愛を探す優しいオメガバースの物語。 (登場人物) ・リオン(受け) 心優しいオメガ。頑張り屋だが自分に自信が持てない。元女官で薬師だった母のアナに薬草の知識などを授けられたが、三か月前にその母も病死して独りになってしまう。 ・クレイド(攻め)  ノルツブルク王国第一騎士団の隊長で獣人。幼いころにオースティンの遊び相手に選ばれ、ともにアナから教育を受けた。現在はオースティンの右腕となる。 ・オースティン  ノルツブルク王国の国王でアルファ。

大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ 久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。 パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。 オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...