39 / 100
Ⅴ 黒魔術
⑥
しおりを挟む
「音楽を止めよ! 皆、オレの番を紹介する」
ネモスがパンパンと手を叩いた。途端に会場が静かになり、視線が集まった。
「歓迎の儀式では見かけているだろうが、改めてオレの番のオメガだ」
ジリスはこちらを向く顔をじっくり見渡した。特に近くにいる貴族はネモス派の重鎮のはず。つまり、ネモスの愚行を許している者たちであり、ジリスにとって味方になるとは思えない貴族たち。
白の国に入国したときには緊張していたが、元来ジリスは物怖じしないほうだ。この程度の夜会でビクつくことはない。それに今はアルという味方がいる。
前列の貴族は小馬鹿にする表情でジリスを見ている。ジリスの想像通りだ。
その後ろは、興味本位で見てくる貴族と、少し憐れみが混じる目線。
それから、一定の距離を持つ者たち。百名の中でも、派閥は三等分だ。
ネモスと同意見派、どちらかと言えばネモス派、仕方が無く服従している派、か。意思の統率がとれていない。
(こんな百名程の集まりでもバラバラじゃんか。ダメじゃん。ネモス殿下の人間の小ささが浮き彫りになってんじゃん)
心の中で毒づいてジリスはニコリと微笑んだ。
「ジリス・イーリーです。よろしく」
ネモスの番だと名乗りたくなくて、簡単に名前だけ口にした。ジリスが怖じ気づくのを期待していたのか、ネモスと前列の貴族は不快な顔をした。
しかし、すぐにネモスが口を開いた。
「皆、乾杯だ。オレが番を得たからには、オレが王になることは決まった! 次期王はオレだ! グラスを持て!」
これには場内の皆が一丸となり、杯を掲げた。ジリスとアルにも侍女からワイングラスが手渡された。
「オレの王としての未来に、乾杯!」
乾杯、と人々の声が響き、ガヤガヤと賑やかさが戻った。皆が笑顔になる。ジリスはため息をついて、杯を掲げた。
(馬鹿馬鹿しい。つまり、自分が王だって見せつけたくて僕を呼んだってことか。すぐに帰ろう)
ジリスは礼儀程度にワインに口を付けた。アルコールは好きじゃない。ペロリと舐めてグラスをアルに渡した。
「さて、黒オメガよ。せっかくだから、黒魔術について聞かせてくれ。黒魔術とは、すごいんだろう?」
会場の端に行こうとしたジリスはネモスに呼び止められた。急な引き留めに心臓がザワザワする。ネモスは何を考えているのだろう。
「黒魔術の何を、知りたいのでしょう」
「スゴさだよ。白とはちがうんだろ? ここに集まった者たちは、ぜひ、その黒魔術が見たいって者たちだ」
ハッとしてネモスを見る。黒魔術は見世物で使う者ではない。そんなことは神の怒りに触れる。
「お見せできません。黒魔術は、世ため、人のために使う術であり、いたずらに使うことは許されません」
「なんだ。できないのか。オレの番は無能か。出来の悪い番など、オレが恥をかくだろう」
ネモスの言葉に周囲から笑いが生じた。ジリスは怒りがわき上がった。それでも、ネモスのペースに巻き込まれたら負けだ。アルを見上げれば、心配そうな青い瞳が見えた。その瞳を見て、ジリスは深呼吸した。
(落ち着け、ジリス。怒るな。ここは敵地だ。ネモスが支配している場だ。ここで僕がミスすれば、エスコートしてきたアルの管理不足になる。ここに味方がいないであろうアルは粛正される。アルのために、ここを乗り切るんだ!)
少し考えたが、ジリスは丁寧に膝を折った。頭を低くして、ネモスに礼をした。
「ネモス殿下、黒魔術をお見せできず、申し訳ありません」
丁寧にはっきりとお断りをした。
番相手の次期王妃であるジリスが頭を下げたとあれば、引かない訳にはいかないはずだ。
それでも、ネモスに頭を下げるという現実が悔しくて、ジリスは拳を握りしめた。
ネモスがパンパンと手を叩いた。途端に会場が静かになり、視線が集まった。
「歓迎の儀式では見かけているだろうが、改めてオレの番のオメガだ」
ジリスはこちらを向く顔をじっくり見渡した。特に近くにいる貴族はネモス派の重鎮のはず。つまり、ネモスの愚行を許している者たちであり、ジリスにとって味方になるとは思えない貴族たち。
白の国に入国したときには緊張していたが、元来ジリスは物怖じしないほうだ。この程度の夜会でビクつくことはない。それに今はアルという味方がいる。
前列の貴族は小馬鹿にする表情でジリスを見ている。ジリスの想像通りだ。
その後ろは、興味本位で見てくる貴族と、少し憐れみが混じる目線。
それから、一定の距離を持つ者たち。百名の中でも、派閥は三等分だ。
ネモスと同意見派、どちらかと言えばネモス派、仕方が無く服従している派、か。意思の統率がとれていない。
(こんな百名程の集まりでもバラバラじゃんか。ダメじゃん。ネモス殿下の人間の小ささが浮き彫りになってんじゃん)
心の中で毒づいてジリスはニコリと微笑んだ。
「ジリス・イーリーです。よろしく」
ネモスの番だと名乗りたくなくて、簡単に名前だけ口にした。ジリスが怖じ気づくのを期待していたのか、ネモスと前列の貴族は不快な顔をした。
しかし、すぐにネモスが口を開いた。
「皆、乾杯だ。オレが番を得たからには、オレが王になることは決まった! 次期王はオレだ! グラスを持て!」
これには場内の皆が一丸となり、杯を掲げた。ジリスとアルにも侍女からワイングラスが手渡された。
「オレの王としての未来に、乾杯!」
乾杯、と人々の声が響き、ガヤガヤと賑やかさが戻った。皆が笑顔になる。ジリスはため息をついて、杯を掲げた。
(馬鹿馬鹿しい。つまり、自分が王だって見せつけたくて僕を呼んだってことか。すぐに帰ろう)
ジリスは礼儀程度にワインに口を付けた。アルコールは好きじゃない。ペロリと舐めてグラスをアルに渡した。
「さて、黒オメガよ。せっかくだから、黒魔術について聞かせてくれ。黒魔術とは、すごいんだろう?」
会場の端に行こうとしたジリスはネモスに呼び止められた。急な引き留めに心臓がザワザワする。ネモスは何を考えているのだろう。
「黒魔術の何を、知りたいのでしょう」
「スゴさだよ。白とはちがうんだろ? ここに集まった者たちは、ぜひ、その黒魔術が見たいって者たちだ」
ハッとしてネモスを見る。黒魔術は見世物で使う者ではない。そんなことは神の怒りに触れる。
「お見せできません。黒魔術は、世ため、人のために使う術であり、いたずらに使うことは許されません」
「なんだ。できないのか。オレの番は無能か。出来の悪い番など、オレが恥をかくだろう」
ネモスの言葉に周囲から笑いが生じた。ジリスは怒りがわき上がった。それでも、ネモスのペースに巻き込まれたら負けだ。アルを見上げれば、心配そうな青い瞳が見えた。その瞳を見て、ジリスは深呼吸した。
(落ち着け、ジリス。怒るな。ここは敵地だ。ネモスが支配している場だ。ここで僕がミスすれば、エスコートしてきたアルの管理不足になる。ここに味方がいないであろうアルは粛正される。アルのために、ここを乗り切るんだ!)
少し考えたが、ジリスは丁寧に膝を折った。頭を低くして、ネモスに礼をした。
「ネモス殿下、黒魔術をお見せできず、申し訳ありません」
丁寧にはっきりとお断りをした。
番相手の次期王妃であるジリスが頭を下げたとあれば、引かない訳にはいかないはずだ。
それでも、ネモスに頭を下げるという現実が悔しくて、ジリスは拳を握りしめた。
108
あなたにおすすめの小説
運命を知らないアルファ
riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。
運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!?
オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω
オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
陰日向から愛を馳せるだけで
麻田
BL
あなたに、愛されたい人生だった…――
政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。
結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。
ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。
自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。
「好きになってもらいたい。」
…そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。
それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。
いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。
結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…
―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…
陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。
よかったはずなのに…
呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。
◇◇◇
片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。
二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。
セリ (18)
南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵
ローレン(24)
北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵
◇◇◇
50話で完結となります。
お付き合いありがとうございました!
♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。
おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎
また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!
【完結】王のための花は獣人騎士に初恋を捧ぐ
トオノ ホカゲ
BL
田舎の貧村で暮らすリオンは、幼い頃からオメガであることを理由に虐げられてきた。唯一の肉親である母親を三か月前に病気で亡くし、途方に暮れていたところを、突然現れたノルツブルク王国の獣人の騎士・クレイドに助けられる。クレイドは王・オースティンの命令でリオンを迎えに来たという。そのままクレイドに連れられノルツブルク王国へ向かったリオンは、優しく寄り添ってくれるクレイドに次第に惹かれていくがーーーー?
心に傷を持つ二人が心を重ね、愛を探す優しいオメガバースの物語。
(登場人物)
・リオン(受け)
心優しいオメガ。頑張り屋だが自分に自信が持てない。元女官で薬師だった母のアナに薬草の知識などを授けられたが、三か月前にその母も病死して独りになってしまう。
・クレイド(攻め)
ノルツブルク王国第一騎士団の隊長で獣人。幼いころにオースティンの遊び相手に選ばれ、ともにアナから教育を受けた。現在はオースティンの右腕となる。
・オースティン
ノルツブルク王国の国王でアルファ。
大嫌いなアルファと結婚しまして
リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ
久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。
パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。
オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる