【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

文字の大きさ
75 / 100
Ⅹ 白の国王と王妃

しおりを挟む
 約束の三日が過ぎた。今日の正午には白の国にアルが返事をする。

 二人で黒国の草原を眺めた。国境向こうにはアルを熱望する白国兵士が並んでいる。
 それはそうだろう。兵士たちは自分の国を守りたい者なのだから。

「黒の国は、綺麗な国だよ。黒は心が落ち着く色だ。黒の中で育った僕は、白が苦手だよ。光り輝くところは辛いだけだ。でも、その白が、アルにとっての安堵の地なんだよなぁ」

 草原を風が抜ける。夏の暑さが残る風だ。

「白は眩しいけれど、決して辛いばかりではありません」
「そうだよね。きっと育ちの違いだ。僕たちは、交わることのない対極にいるんだ。これからも、きっと」

 ジリスの頬に静かに涙が伝った。

「僕は、黒国からアルの幸せを願っているよ」
 アルは下を向いて泣いた。

「一緒に、来てはもらえませんか?」

「だめだ。そうしたら、アルは番相手を愛せない」
 アルが大きく肩を震わせた。

「俺はジリス様を、愛し続けたい」

「その想いで十分だ。僕を愛してくれて、ありがとう」
 ジリスはアルの背を押した。

「ほら、未来の白国国王! 頑張れ!」
 アルが歩みを進めた。アルは、ゆっくり、振り返らずに、白国に入った。黒の結界がけたたましく警報を鳴らした。
 アルはずっと左腕のブレスレットを握りしめていた。

 ――アル、僕のアル。僕は黒国から愛し続けるよ。
 アルの背中に、言葉に出来ない想いを贈った。

 白の国王と兵士たちに歓声で迎えられて、アルの姿は見えなくなった。白の国軍はゆっくりと白国側に戻っていく。その様子をジリスは見送った。

 ジリスは心に穴が空いたように寂しかった。もうアルは抱きしめてくれない。二度とアルの温かい腕に包まれることが無い。世界の全てから光が消えたように思えた。
 ジリスは、本当の暗闇を知った。



 アルが白国に戻ってから、ひと月が経過した。
 ジリスは一日のほとんどを自室に引きこもっている。カザルに食事に誘われれば、兄夫夫と笑顔で過ごす。周囲から声を掛けられれば微笑みを返している。

 けれど、愛するアルの影があちこちに見えて、そのたびにジリスは足を止める。ここにはいないアルの笑顔が浮かぶ。そのたびに小さく微笑むが、すぐに大きな虚無感に襲われる。心がズキズキと痛む。

 ジリスが生きる意味は、何だろう。白の国に未来の王妃として嫁いだときには、白国と黒国のために必死に耐えた。苦しさを我慢しなくてはいけないと必死だった。我慢する意味があると思って踏ん張った。

 だけど、今は、どうだろう。ジリスが背負う義務は、ない。
 ジリスはこの先、愛おしくても叶わないアルへの想いだけを抱えて生きるのだろうか。

 黒の国に初秋の風が吹く。秋の風を肌に感じると、アルが白魔術で蝶を手に止めてくれたことを思い出す。優しい思い出だ。苦しい白国の生活で、アルとの思い出はジリスの心にキラキラ輝いている。

「アル……」
 小さな声で呼んでみた。誰も答えない。当たり前だ。何をしているのか、自分が馬鹿らしくてジリスは少し笑った。笑いながら目頭が熱くなる。ただ穏やかに吹く風を感じて庭を眺めた。

 何もないのなら。ジリスの肩に乗るものが、無いのなら。背負うモノが、もう叶うことの無いアルへの想いだけなら。

 ――僕は、この先を生きていくのが、辛い。

 ジリスの頬を涙が静かに伝った。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

運命を知らないアルファ

riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。 運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!? オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。 コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

【完結】王のための花は獣人騎士に初恋を捧ぐ

トオノ ホカゲ
BL
田舎の貧村で暮らすリオンは、幼い頃からオメガであることを理由に虐げられてきた。唯一の肉親である母親を三か月前に病気で亡くし、途方に暮れていたところを、突然現れたノルツブルク王国の獣人の騎士・クレイドに助けられる。クレイドは王・オースティンの命令でリオンを迎えに来たという。そのままクレイドに連れられノルツブルク王国へ向かったリオンは、優しく寄り添ってくれるクレイドに次第に惹かれていくがーーーー?  心に傷を持つ二人が心を重ね、愛を探す優しいオメガバースの物語。 (登場人物) ・リオン(受け) 心優しいオメガ。頑張り屋だが自分に自信が持てない。元女官で薬師だった母のアナに薬草の知識などを授けられたが、三か月前にその母も病死して独りになってしまう。 ・クレイド(攻め)  ノルツブルク王国第一騎士団の隊長で獣人。幼いころにオースティンの遊び相手に選ばれ、ともにアナから教育を受けた。現在はオースティンの右腕となる。 ・オースティン  ノルツブルク王国の国王でアルファ。

大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ 久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。 パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。 オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...