【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

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Ⅹ 白の国王と王妃

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 そうして、ひと月が経った。善行は十分だと思う。

 ジリスはアル宛の手紙に白魔術をかけた。上手くいくように必死で願ったが、やはりすぐには成功しなかった。

 何回かトライして、やっとジリスの手が光ったときには飛び上がりたい喜びだった。手紙はフワリと風に乗って舞っていった。きっと、アルに届く。そう思うと嬉しくてたまらなかった。

 手紙には『アルを信じてる。大好き。ジリス』とだけ書いた。

 本当は沢山書きたいことがあったけれど、字が多いと白魔術の成功率が低いと分かったから我慢した。ジリスの想いがアルに伝わるように願った。

 翌日、ジリスの元に数枚の衣服が届いた。その匂いにハッとした。これは、ネモスの服だ。そろそろ発情期だから、きっとアルが気を利かせたのだ。

「こんなもの! いるもんか!」
 悔しさに服を叩きつけた。ダンダンと足で踏みつけて、その中に一着だけ見知った服があることに気がついた。

 そっと取り出すと、白と赤の白国王室護衛の正装だった。アルの服だ。左袖には、黒の葉牡丹の刺繍がされている。

「アル、アルだぁ」
 その服を抱きしめてジリスは泣いた。

 その日は床にネモスの服を散らかして、アルの服だけを抱きしめて眠った。身体が火照って、その晩にでも発情期がくると思った。大嫌いで憎らしいネモスの服が気になって仕方なかった。

 翌日。
 発情期が来た。抑制剤のおかげで、自制ができる熱だった。自分で慰めて、アルの服を抱きしめながら、ネモスの服の匂いを嗅いだ。

 アルだけで良い、と思いながらもネモスの匂いを求める自分が辛かった。

 ネモスの衣類を何度床に落として踏みつけても、いつの間にか無意識にオメガの巣作りをする自分が苦しかった。

(ネモスの匂いなど! あんなやつなど!)
 そう思うのに、ネモスの衣服を捨てることが出来ない。

 悔しくてアルを呼んだ。側にいて、と泣いた。大きなアルの服を着ると、まるでアルに抱きしめられているように感じた。

「アル、会いたい、よぉ」
 泣き言を呟いて、寂しさを噛みしめた。


 発情期が明けると、カザルからお茶のお誘いが来た。


 中庭が見えるテラスで秋栗のスイーツを食べよう、と誘われた。
 きっとジリスが一人きりで発情期を過ごしたことを気に病んでいるのだ。抑制剤のおかげでこれくらいなら耐えられるけれど。

 愛する番がいるカザルからしたら、ジリスは哀れに見えるのだろう。カザルの優しさにジリスはクスッと笑った。

 久しぶりに部屋から出て、一階のテラスに向かった。数日間を自室にこもりきりだったから、すれ違う侍女や侍従が喜んでくれた。

「掃除は我々がしております。ご安心ください」
 そう声を掛けてもらえて嬉しかった。頬を染めて話しかけてくれる皆から元気をもらえた。黒国の皆はジリスに甘いと思う。

「ジリス、もう体調は大丈夫なのか?」
 テラスに近づくとカザルが走り寄ってきた。カザルは相変わらずだ。

「兄様、次期国王様が子供のように駆けていいの?」
 プハっと笑うとカザルは照れ笑いをした。

「いや、いつもはしないぞ。こう、威厳を出してだな」
 カザルがふんぞり返るから二人で声を上げて笑った。

「さ、カザルとジリス様。スイーツは城のパティシエが気合を入れて準備しておりましたよ。こちらにどうぞ」
 ディンが優しく着座を促してくれる。今日も白い上着に黒のツタ模様が映えている。ジリスの目線に気が付いたのか、ディンは嬉しそうに服の裾に触れた。

(相変わらずのアツアツだ)
 仲の良いカザルとディンを見ると心がホワリとした。
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