【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

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Ⅹ 白の国王と王妃

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 準備されたジリスの席には温石暖房が稼働していた。さすがに時期が早いだろうと思ったが、少し風邪が冷えるからそのままにした。

 白の国ではあんなに雑に扱われたのに、黒国では過保護すぎるほどだ。

「ジリス様、お膝掛を。肩掛けもご用意しております」
 さらに毛布で巻かれそうになり、さすがに膝掛だけ侍女から受け取った。優しさはくすぐったい。

「兄様、大丈夫だよ。僕はもっと酷い発情期を過ごしていたんだ。これくらい平気」
 ジリスの言葉にカザルとディンが固まった。

「……やっぱり、アル新国王にネモスの極刑を要望しよう」
「はい。心から同意いたします」

 カザルとディンが真剣な顔で頷き合うから慌てた。この二人は本気で死刑を要望しそうだから。

「それはアルに任せてるから良いんだって。それよりさ、秋栗だよ。僕はそれが楽しみなんだ」

 テーブルの上を見れば、煌びやかなスイーツが並んでいる。侍女はニコニコしながら温かい黒茶を注いでくれた。それを横目に、ジリスは大きな焼き栗をポイっと口に放り込んだ。

「わ! 温かい! 美味しい!」
「だろ! 今年は栗が大粒で甘いんだ。これはスイーツ好きのジリスに味わってほしくて」

 カザルも焼き栗を口に頬張る。二人でもごもごして、美味しさを分かち合った。

 ふと目に入るカザルの左手は薄茶色に変色している。ジリスの茶黒い色よりはマシだが、それを見るとジリスの胸は痛む。

「兄様、左腕の痛みはない? 動かしにくさは?」
「ん? これか。少し皮膚が引きつれるな。けど、アルとディンの白魔術のおかげだ。後遺症がジリスより少ないし、多分痛みも楽だったはずだ」

 カザルは優しい顔をした。

「兄様、ごめん、ね。巻き込んで。ディン様も、ごめんなさい。兄様の髪も腕も、代償にさせてしまって」

「ジリス、バカだなぁ。お前が一番巻き込まれて被害に会ったんじゃん」

「そうですよ、ジリス様。私はカザルの短い髪も腕も愛しているのです。次期王として護るべきものを守った証です。誇れる事です。今のカザルは、誰よりも美しく気高いのです」

 カザルが「ヤメロ、ジリス聞くな!」と顔を赤くするのを見ながら、ジリスはお茶を飲んだ。

 しばらくカザルとディンの漫才を見守った。この二人は仲良しで微笑ましい。
 マロンタルトを一口食べれば、栗のコクと甘みが口に広がる。これは美味しい。

 お茶のカップを手にすれば、黒茶から優しい湯気が立っている。温かさが手から伝わる。

 ふと中庭を見れば、秋薔薇が咲いていた。薄ピンクと濃い黄色が混在している。幼い頃は、花が咲けば兄と競って母に見せた。懐かしく思い、庭を眺めた。

「小さい頃はさ、兄様も、僕も、幸せになれるって思っていたよね。何であんなに疑うことも無く幸せになれるって思えたんだろう。僕は、僕には、幸せが遠い」

 ポツリと溢した一言にカザルとディンが静止する。

「ジリス……」
 テラス席に、薔薇の香りをまとった風が抜ける。

「ジリス様、アル様は結構すごい男ですよ」
 ジリスはディンを見つめた。

「アル様なら、不可能を可能にすると思います。アル様は、あなただけを愛すはずです。アル様とジリス様は、神の決めた運命ですから。見ていれば分かります」
「ディン様……」

「ジリス、俺もディンに同感だ。お前は苦しい思いをしているかもしれない。けれど、くじけるな。諦めるな。アルが白国で足掻いている以上、ジリスも足掻くんだ」
 カザルの言葉が理解できない。

「足掻くって、なに?」
「ジリスには申し訳ないと思ったが、アルが国王として立つ以上、番のオメガが居ないと白国は神の罰を受ける。黒国の庶民オメガを番にするか、先日、白国にたずねた」

「え? アルに、オメガを勧めたの?」
 悔しさでジリスは唇を噛みしめた。

「ああ。国としての対応だ。だが、アルはきっぱり断って来た。自分の番はジリスだけだ、と。そのせいで国が潰れるのなら、それで構わない、とさ」
「は、はぁ?」
 あの国民思いのアルの発言とは思えなくて、ジリスは息を飲んだ。

「俺はアルの意志を尊重した。アルの婚約者はジリスだそうだ」
「ぼ、僕?」

「ああ。正式に、ジリスは、次期白国王妃だ」
「はぁぁ?」

「アルは足掻いて、考えて、何とかしようと尽力しているのだろうな。それだけ頑張っているアルに、ジリスは応えてやらなきゃ、な!」

 信じられない事にジリスの身体が震えた。アルは何とか一緒に生きることを探すだけでなく、ジリスを白国王妃にしようとしている。番の上書きは出来なかったのに。
 それでもあきらめずにジリスだけを見ている。

 白国に向かうアルの背中を思い出す。まっすぐに前を向き、意を決した表情をしていた。アルは、あの時には、ジリスを婚約者にすると決めていたのだろう。

「だから、ジリス。腐るな。前を向け。アルの婚約者として、胸を張って白国に嫁ぐ事だけ考えろ。俺が保証する。アルは、ジリスを番にするぞ」

 カザルの言葉が胸を打つ。ジリスは泣きそうになりながら、カザルに頭を下げた。

「兄様、ありがとう。ありがとう」
 言い尽くせない感謝が湧き上がる。

 アルの番相手としてジリスが白国に行くには難題が多すぎる。けれど、その全てを何とかしようとアルが必死になっている。それを応援してくれているカザルたちがいる。

 ジリスはいつも温かさで包まれている。

 テラスにコムラサキ蝶がフワリと迷い込んだ。ジリスはハッとして蝶を見た。
 白国で見たアルの白魔術を思い出して、そっと手を伸ばしてみた。止まってくれるわけがない。奇跡でも起きなければ無理だ。そう思い、手を引き戻そうとしたが。

 ジリスの手に蝶が止まった。息が止まるような瞬間だった。

 ――奇跡が、起きるかもしれない。
 そんな気持ちになった。
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