【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

文字の大きさ
91 / 100
番外編 ジリスが向き合うモノは

王妃として①

しおりを挟む
 アルが国王就任スピーチをして半年が経過した。あっという間にアルが国王として認知された。

 国政はアルを中心に動いている。これまで貴族の中で孤立していたアルに、上流貴族たちがすり寄っているようだ。権力の流れは人の態度を変えるらしい。

「じゃ、ジリス様、公務に行ってきます。ジリス様はゆっくり過ごしてください」
「うん。いってらっしゃい」
 朝食を食べてすぐにアルは居室を後にする。国王は忙しい身だ。

 アルは国内の経済安定化に尽力している。ネモスに加担した貴族から没収した財産で、国内インフラの整備、公益事業の拡充を図るそうだ。没収財産を王の財としないところがアルだなぁと感心した。

 そしてジリスは、王妃として特に仕事がない。自由なのだが、正直、暇だ。

 王妃らしいことと言えば、貴族との社交の場に顔を出している事。そのほとんどが、王妃と信頼関係を持ちたい貴族のお茶会、親睦会ばかり。
 アルが厳選しているとはいえ、当たり障りなく過ごすのが疲れる。どうも貴族の付き合いはジリスには向いていない。

 アルが政務の日中。少し出かけたい衝動にかられた。茶会や買い物ではなく、ただブラブラしたい。
「ね、ちょっと出かけたいけど、いいのかな? アルに許可もらったほうがいい?」
 侍女に声を掛ければ、ニコリと微笑んで「王妃様の望むように、と言われております」と外出の準備をしてくれた。
 アルの事だから、ジリスの要望に応える準備をしているのだろう。そんな万全さに笑いが込み上げる。

 王城の侍従をしている中年男性が案内をしてくれることになった。白国王都をどう行けば良いのかジリスには分からないから助かる。いつもはアルに任せきりだ。

「ジリス王妃殿下、お出かけのお供をしますルルドと申します。王都のご案内もいたします。何でも申し付け下さい」
 礼儀正しい四十代と思われる男性は、時々室内に出入りしてくれている。知っている顔にジリスはホッとした。

「うん。よろしく頼みます。気分転換に外の景色を見てみたくて。買物とかじゃないんだ。えっと、わかるかな?」
「はい。では、秋の景色はいかがでしょう? 今ですと、郊外では果実の収穫もしているかと。そのような自然の風景をご覧になりませんか?」
「それは、ぜひお願いしたい!」

 ジリスの要望をよく理解してくれるルルドに安堵感を覚えた。さすがアルが厳選した侍従だ。
「はい。では、膝掛など用意いたします」
 穏やかに微笑むルルドとともに、王家の獣馬車に乗った。王都の近くならいいけれど、郊外まで足を伸ばすには馬車では時間がかかる。獣馬車で行く方が楽だ。

「夕方までに戻りたいから、すぐに行こう」
「かしこまりました」
 ルルドはニッコリ微笑んでくれて、二十分後には出発となった。護衛の準備の速さにも驚いた。皆、嫌な顔一つせず動いてくれて、白国の人たちも良い人たちだと思った。ネモスの侍女侍従と比べたら雲泥の差だ。

 アルがいないと寂しいけれど、一人の行動は特別感があってドキドキする。ちょっとした冒険気分だ。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

運命を知らないアルファ

riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。 運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!? オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。 コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。

【完結】王のための花は獣人騎士に初恋を捧ぐ

トオノ ホカゲ
BL
田舎の貧村で暮らすリオンは、幼い頃からオメガであることを理由に虐げられてきた。唯一の肉親である母親を三か月前に病気で亡くし、途方に暮れていたところを、突然現れたノルツブルク王国の獣人の騎士・クレイドに助けられる。クレイドは王・オースティンの命令でリオンを迎えに来たという。そのままクレイドに連れられノルツブルク王国へ向かったリオンは、優しく寄り添ってくれるクレイドに次第に惹かれていくがーーーー?  心に傷を持つ二人が心を重ね、愛を探す優しいオメガバースの物語。 (登場人物) ・リオン(受け) 心優しいオメガ。頑張り屋だが自分に自信が持てない。元女官で薬師だった母のアナに薬草の知識などを授けられたが、三か月前にその母も病死して独りになってしまう。 ・クレイド(攻め)  ノルツブルク王国第一騎士団の隊長で獣人。幼いころにオースティンの遊び相手に選ばれ、ともにアナから教育を受けた。現在はオースティンの右腕となる。 ・オースティン  ノルツブルク王国の国王でアルファ。

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ 久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。 パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。 オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...