【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

文字の大きさ
96 / 100
番外編 ジリスが向き合うモノは

元王太子との対面④※

しおりを挟む
 ジリスがネモスの本心を知ったところで、してしまった事は消えないのだ。

 ネモスは主犯であり恩赦は無理であろう。もしかしたら、前国王はネモスの本心に気がついていたのかもしれない。ネモスを廃位としたときの悲しそうな顔がジリスの脳裏に過った。

 ネモスには、少しでも信頼のおける者たちが付いてくれているのは、救いになるはずだ。謝罪を繰り返し泣き崩れる女性を残し、護衛に肩を借りて王城に戻った。

 ジリスとアルは、ネモスに泳がされたのかもしれない。ジリスが苦しかった日々は、ネモスにとってどんな思いの日々だったのだろう。ミーナは、今、どうしているのだろう。

 ジリスは胸がチクチクと痛んだ。

 王城に到着して、馬車の扉がガチャリと開いた。

 足の痛みがあり、護衛騎士の手を借りようと、ドアを開けた人を見た、が。ジリスは声が出せずに固まった。
 そこには、怒った顔のアルが、いた。

「あ、アル……」
 ゾクリと背に薄ら寒いモノが走る。ジリスの呼びかけに無言のまま、アルが車内に入り込んだ。こんなアルは見たことが無くてジリスの額に冷や汗が出る。

「怪我は、足だけですか?」
 ジリスの前にアルが膝をつき、冷やしている足首を丁寧に確認する。

 手つきは優しい。けれど、腫れた足は痛みを呼ぶ。声を上げてはいけない気がして、「痛い」と言いたい言葉を飲み込んだ。

「あなたを、閉じ込めて、縛ってしまいましょうか」
 アルの低い声が耳元に響く。きっとネモスに会いに行ったことがバレている。

「アル、ゴメン。あの……」
 番のアルファの怒りに、腹の底から冷えるような震えが身体に走る。
 怒りの炎を込めた青い瞳が、ジリスを射るように見た。それだけで呼吸が苦しい。ハクハクと胸をあえがせて呼吸をすれば、アルにグイッと抱き上げられた。

「こんな足で歩かせるわけには行きません」
 ジリスは何も言うことが出来ず、そのままアルに運ばれた。付き添いの侍女や護衛騎士は顔を青くしていた。

「アル、ごめん。僕の独断だから、付き添いの皆は悪くないんだ」
 必死で声にすると、アルがピタッと歩みを止めた。

「では、悪いのは、ジリス様お一人でしょうか。ジリス様を守れないのは、怠慢ではないでしょうか」
 静かに言葉が発せられたが。

「何のための護衛だ! 主人に怪我を負わせて! 処罰は追って伝える! 本日の同行者全員に謹慎を命じる!」

 急に大声でアルが怒鳴った。

 ジリスだけで無く、その場の全員が震え上がるアルファの圧だった。初めてアルから怒りの圧をぶつけられ、ジリスは怖くて、泣くことしか出来なかった。

 大股でドカドカと歩くアルに誰もが驚愕し、即座に頭を下げた。アルの全身から怒りが発せられていた。

 バンっとドアを蹴破る勢いでアルが居室に入り、侍女に「退室せよ!」と命じた。侍女は恐れおののいて走るように部屋を後にした。

 ジリスは寝室のベッドにドサリと降ろされた。その振動に足が痛む。ジリスは、「痛っ」と小さく声を上げた。ガチャリと閉まるドアに身体がビクッと反応してしまった。

「アル、ごめんなさい、あの……」
 言いかけた言葉は、続きを声に出せなかった。アルの大きな手がジリスの口を塞いだから。

「ネモスと、密会ですか」
 ジリスの口を覆う手に力が入る。息が苦しい。小さな悲鳴が喉に消えた。

「なんで! ネモスなんかと!」
 顔が痛い。なんとか口の手をどかそうと足掻くと、ジリスの両腕は紐で縛り上げられた。

 口が解放されて、必死に「話を聞いて!」と懇願した。だが、怖い顔のアルにそれが届くことは無く、直ぐに口に布が詰められた。
 足はズキズキ痛んでいる。そんな状態で、前で縛られた両腕をアルに捕らわれれば、ジリスは身動き一つ出来なかった。

「二度と、変な気が起きないように、お仕置きが必要ですね」
 冷たい怒りを滲ませるアルに、ジリスは抗えなかった。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

運命を知らないアルファ

riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。 運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!? オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。 コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

【完結】王のための花は獣人騎士に初恋を捧ぐ

トオノ ホカゲ
BL
田舎の貧村で暮らすリオンは、幼い頃からオメガであることを理由に虐げられてきた。唯一の肉親である母親を三か月前に病気で亡くし、途方に暮れていたところを、突然現れたノルツブルク王国の獣人の騎士・クレイドに助けられる。クレイドは王・オースティンの命令でリオンを迎えに来たという。そのままクレイドに連れられノルツブルク王国へ向かったリオンは、優しく寄り添ってくれるクレイドに次第に惹かれていくがーーーー?  心に傷を持つ二人が心を重ね、愛を探す優しいオメガバースの物語。 (登場人物) ・リオン(受け) 心優しいオメガ。頑張り屋だが自分に自信が持てない。元女官で薬師だった母のアナに薬草の知識などを授けられたが、三か月前にその母も病死して独りになってしまう。 ・クレイド(攻め)  ノルツブルク王国第一騎士団の隊長で獣人。幼いころにオースティンの遊び相手に選ばれ、ともにアナから教育を受けた。現在はオースティンの右腕となる。 ・オースティン  ノルツブルク王国の国王でアルファ。

大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ 久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。 パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。 オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...