【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

文字の大きさ
100 / 100
番外編 ジリスが向き合うモノは

元王太子との対面⑧

しおりを挟む
 ジリスの手が震える。想像していなかった事に呼吸が速くなる。
 アルを見ていられず、ジリスは暖炉の火を見つめた。

「病死です。死因は、肺炎、とだけ記されていました。念のため収容所に問い合わせたところ、貴族であることを周囲から疎まれての、病死だったようです」

 つまり、周囲からいじめられて、弱って亡くなった、ということだ。
 ジリスの目からホロホロと涙が零れた。

「ネモスには、このことは知らせません。幽閉となっているため、情報は与えられません」
 ジリスは声を殺して泣いた。

 ミーナは、何を思っていたのだろう。

 アルが静かに数枚の紙を机に並べた。それを見れば、貴族の一家の絵姿が描かれていた。

「ミーナの育った子爵家の肖像画です。もともと裕福な子爵家でしたが、今回粛清されたネモス派の伯爵家に騙されて、財を失ったようです」

 そこには、優しそうな笑顔を浮かべるミーナがいた。ジリスが覚えている、赤い唇を吊り上げて笑う顔ではなく、穏やかに微笑む顔だ。幸せそうな一家の写真をそっと撫でて、ジリスは下を向いて泣いた。

 ミーナの墓は作れない。終身刑の罪人となると共同墓地に収容される決まりだ。

 ミーナの罪は、何だったのだろう。
 彼女は、ネモスに加担した。だが、ネモスとは愛人関係では無かったかもしれない。大きな自分の目的のためにネモスと手を組み、悪女を演じたのかもしれない。

 ジリスは、一体、何に苦しめられたのだろう。そんな疑問が心に残った。

 ミーナの生きた道を思うと、悲しくて胸が締め付けられた。




「ジリス様、ここでいいでしょうか」
 アルの声にジリスはコクリと頷いた。ジリスはアルと二人で、懐かしい思い出の小川に来ている。
 ここは、アルが落ち込むと来ると言っていた場所。貴族騎士見習い宿舎裏の小川だ。

 今日は、籠いっぱいの赤い薔薇の花びらを持ってきている。これは、王城の庭園からいただいた冬薔薇だ。

 朝からアルと二人で摘み、全ての花を手作業で花びらにした。

 午前の陽光にキラキラ光る穏やかな川に、ジリスは一掴みの花びらを撒いた。
 フワリと川面に花が咲く。アルも無言で花を撒いた。

 ミーナに何と言葉を届けたらいいのか分からない。
 けれど、ミーナの生きた道を、無駄にしたくない。ジリスとアルには国を背負う責任がある。
 ミーナのように不幸な人を増やしてはいけない。

 ジリスは籠いっぱいの花びらを丁寧に撒いた。川面の煌めきに赤の花が流れていく。
 どうか天国のミーナに届くように、願いを込めて。

 アルと二人でしばらく景色を眺めた。

「ジリス様、行きましょう」
 アルに声を掛けられてジリスはコクリと頷いた。アルが川に背を向けて、ジリスも続いた時、誰かがトンと肩を叩いた気がした。驚いて足を止めたが、ジリスの後ろには静かな景色があるだけだ。

「どうしましたか?」
 アルが振り返った。
「うん。今、肩を叩かれた気がしたんだよね」
 返事をして、ハッとした。言葉が、出た。アルが驚いたように口を開けた。

「ジリス様! 言葉が! 声が!」
「アル! うん、大丈夫だ。喋れる!」
 空になった籠を放り出して、アルがジリスを抱き締めた。

 二人で優しく流れる小川を見つめた。穏やかな日差しに煌く川面が美しい。もう赤い花びらは見えない。

「……ありがとう」
 ジリスの口から一言がこぼれ出た。

「良い国に、しましょう。俺たちで」
 アルの言葉に「うん」と返事をし、ジリスは踵を返した。
 アルと共に、前に進むために。

  <完>
しおりを挟む
感想 63

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(63件)

灰鷹
2025.12.02 灰鷹
ネタバレ含む
2025.12.02 小池 月

灰鷹先生✨

素敵なご感想ありがとうございます‼投票までいただけて、感謝と感動で泣いています( ;∀;)
本当にありがとうございます♡

なるほど、ネモスがヤンデレもありですよね☆実は、ネモスに恋愛感情を持たせるか、ものすごく悩んだんです(笑)
結果、私の力では感情を管理しきれない、となりました!

考えたストーリーを詰め込もうとすると、BLの愛の部分が希釈されてしまう、という私の癖をおさえた結果
、ストーリーとして書きたい部分は番外に持ち越す、という結果になりました💦

なので、番外まで読んで本編の印象が変わる、というマジックがおきまして💦
多分、読んでくださる方の読後感がだいぶ揺れてしまう結果になってしまったかもしれません。

あ、語りが入ってしまって申し訳ありません!

灰鷹先生にキャラのことを褒めていただけて、生き生きと描かれていたと言ってもらえて幸せです♡
素敵なお話、とまで♡
ありがとうございました‼

解除
iku
2025.11.30 iku
ネタバレ含む
2025.11.30 小池 月

ikuさま✨

まさに、今!「安心して読めないかも…」とご感想に返信したところ、でした!タイミングに「最高です!」と大喜びです(*^^*)

実は、番外編を読んで、頭からもう一度読むと、色々見え方が違ってくると言いますか💦
ネモスはやるなら徹底して、さすがアルファ、というレベルなのです。
ですが、酷いですよね~
ジリスはメチャ可哀そうでした( ;∀;)
書いていて自分でも、そう思いました💦

実は、ネモスの悪っぷり、モデルは、ワンピー〇のドフラミン〇です。
なるほど、と思っていただけるかな、と。
あ、こんなことまでイラナイですね💦小ネタをすみません!

最後までお付き合いくださり、本当に感謝です‼
ありがとうございました☆

解除
iku
2025.11.30 iku
ネタバレ含む
2025.11.30 小池 月

ikuさま✨

ご感想ありがとうございます‼iku様は読んでくださる、と勝手に信じていまして、感想をいただけて、もう、嬉しくて( ;∀;)
ikuさまは、沢山の先生方を応援されている中で、こちらも読んでくださり本当に感謝です!

アルが白国に一人戻ってしまうシーン、気に入っていただけて嬉しいです♡
アルの背を押すのはジリス、見送るのもジリス!と決めて書きましたが、書いていて泣いたシーンです。

ジリスの番の印が消えたのは、ある方の魔術です(*^^*)
設定は色々あって、詰め込み過ぎるのも…とぼやけさせたのですが、気になりますよね💦
アル視点のお話だと、そこが見えてきます。いつか出します‼

先にカザルの黒国での戦い(国を亡ぼすオメガ王子が抱く愛は)を番外で出す予定です☆
カザルの男気をお待ちいただけたら嬉しいです(*^^*)

最後まで読んでくださり、心から感謝です☆

そして、、、番外編、えっと、安心して読め、ないかもしれません💦スミマセン💦

解除

あなたにおすすめの小説

運命を知らないアルファ

riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。 運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!? オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。 コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

【完結】王のための花は獣人騎士に初恋を捧ぐ

トオノ ホカゲ
BL
田舎の貧村で暮らすリオンは、幼い頃からオメガであることを理由に虐げられてきた。唯一の肉親である母親を三か月前に病気で亡くし、途方に暮れていたところを、突然現れたノルツブルク王国の獣人の騎士・クレイドに助けられる。クレイドは王・オースティンの命令でリオンを迎えに来たという。そのままクレイドに連れられノルツブルク王国へ向かったリオンは、優しく寄り添ってくれるクレイドに次第に惹かれていくがーーーー?  心に傷を持つ二人が心を重ね、愛を探す優しいオメガバースの物語。 (登場人物) ・リオン(受け) 心優しいオメガ。頑張り屋だが自分に自信が持てない。元女官で薬師だった母のアナに薬草の知識などを授けられたが、三か月前にその母も病死して独りになってしまう。 ・クレイド(攻め)  ノルツブルク王国第一騎士団の隊長で獣人。幼いころにオースティンの遊び相手に選ばれ、ともにアナから教育を受けた。現在はオースティンの右腕となる。 ・オースティン  ノルツブルク王国の国王でアルファ。

大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ 久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。 パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。 オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。