手に入らないモノと満たされる愛

小池 月

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小掠隆介

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小掠隆介
 「様子はどうでしょう?」
「喘息発作と、不整脈を併発しています。気管支拡張剤を使用していると起きやすくなる心房細動ですね。心室の拍出量が十分保てず血圧が低下し、意識も保てなかったようです。本人は苦しかったでしょうね。かなり汗もかいていて、きっかけは運動誘発喘息発作かと思いますが。運動はセーブしていたんですよね? 本人もそれを自覚していました?」
「斗真君には、心拍の上がる運動はしないように伝えていました。本人がどこまで危険性を自覚していたかは分かりませんが。理解力のある子です。何か事情があったと思います」
「まぁ、とにかく抗不整脈薬の投与と昇圧剤で血圧コントロールしながら、喘息発作の治療を並行して行っていきます。次にまた心房細動を起こすなら、この不整脈の根本治療になる心臓カテーテルアブレーション術を行うことになります。現在点滴輸液ポンプも使っていますし、今回は個人院では対応できないレベルになりますので、入院をお勧めします。この機会に心機能の検査をしておきましょう」
父さんと救急の医師が話しているのを、ただ聞いていた。青白い顔でベッドに横たわる斗真。酸素投与を受けて、心電図モニターや点滴につながれて。何があった? これまで、きちんと自己管理していたはずだ。
今日はたまたま大学のサークルを早く切り上げて良かった。帰宅すると斗真が帰っていなかった。今日は十六時には帰宅しているはずなのに。寄り道しているにしても、遅いかな。ちょっと様子見ようと外に出た。家から数メートル先。フラフラ歩く、斗真。名を呼んで駆け付ける前に、歩道に倒れ込む。直ぐに抱き起す。呼吸の狭窄音。すごい汗。意識がない。これは、まずい。脈を確認するが脈圧が弱い。
 父さんに、いや、コレは救急車だ。初めての百十九番。声が震えた。救急車が到着するまでの間に、父さんに電話。状況を伝えた。もう診察はほぼ終了していたから、救急車に俺と父さんで同乗した。救急隊に酸素投与や心電図装着を指示し、点滴ルートの確保とテキパキと動く父。俺は怖くて、斗真が死んでしまうんじゃないかと震えて涙が止まらなかった。救急車の隅で、不安と恐怖に震える事しかできなかった。

 「隆介。誰でもそんなものだよ。お前は良く判断して動いた。斗真君を救ったのは、隆介だよ」
救命救急のベッドの傍。父さんに声をかけられる。情けないけれど、父さんの優しさに涙が止まらなかった。俺は、斗真を守ると決めたのに。どうして? 何があった? 小さな斗真の手を、そっと握った。

 斗真は、そのままICU入院となった。
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