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Ⅱ
斗真と隆介のこれから
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斗真の入院生活
気が付いたら、病院だった。僕、生きている。不思議な気持ちだった。循環器科の先生が主治医になっていた。呼吸器科じゃないのかと、驚いた。心房細動とゆう発作を起こしたこと。これは、喘息患者が起こしやすいこと。色々聞いたけれど、なんだか覚える気力が無くて頷いておいた。先輩が一日一回来てくれる。ICUは面会制限があって、決まった時間内に一時間だけ。先輩の優しい声や優しい顔が、いつもより遠くに感じる。コレは、何だろう。小掠先生の声も、水の中で聞くみたい。おかしい。前に鼓膜が破れたときみたい。でも、どうでもいいか。全ての事に頷いておく。ベッドの上で、一日が流れるのをじっと見つめる。
ICUは、二日で出た。循環器科の一般病棟個室。大部屋でいいのに、個室としてくれた。個室代は高いのに。小掠先生にお礼を言わなきゃ。言わなきゃいけないのに、口から言葉が出ない。出ないものは仕方ない。まぁ、いいかと時間の流れを見つめる。
一般病棟になってから、夕方から夕食後まで先輩がいる。色々話しかけてくれる。何て言っているのかよく分からない。全ての事に頷いておく。先輩は優しいな、それだけはしっかり分かった。
特に心機能に問題はなく、今回は突発的な不整脈でしょう、と退院許可が出た。一週間の入院だった。定期的な通院と、念のため抗不整脈薬の内服が追加になった。呼吸器科より早く退院できるんだな、と思った。
先輩が退院手続きや会計をしている。ぼんやり眺めた。「先輩、大学はどうしたんですか?」「ありがとうございます」伝える言葉はあるはずなのに、全部口から言葉にならない。それも全部、まぁ、いいか、と諦めた。
小掠隆介の支配者
斗真が会話をしない。ここにいるのに、心が伴っていない。どうしたのか。
全ては、あの発作を起こした日。あの日に何かがあったんだ。だけど、それが何なのか分からない。
父さん母さんは、精神科を受診させるか考えている。だけど、その前に頼ってみたい人たちがいる。きっと、何かヒントをくれる気がする。人を見抜く力がある人たちだ。今の斗真は、心を固く閉ざしている。見ていて苦しい。きっとそうすることしか自分を守ることが出来ないんだろう。今、斗真は精一杯だ。糸が切れるギリギリにいる。俺は、その糸が切れないように、細心の注意を払って傍にいる。今度は、絶対に斗真を守る。
「おい、何だこりゃ」
怖い顔のオーナーさんが、さらに怖い顔。昨日、斗真の事について相談したいと連絡をした。「明日、来い」と言われて開店前にお邪魔している。斗真を連れて二人。
心房細動と喘息発作を併発したこと、その後から斗真が会話をしないこと。運動誘発喘息発作が原因のようだが、なぜ斗真が走ったのか分からないこと。正直に全て話した。
オーナーさんとこに行くよ、と話すとコクリと頷く斗真。指示を出せば従うけれど、自発的に行動しない。綺麗な瞳が、何を映しているのか。可愛い表情がどこに隠されてしまったのか、斗真を大切に思うからこそ俺は知りたい。
「おい、クロ? おまえ、幽体離脱でもしてんのか?」
オーナーさんの声に、一つ頷く斗真。ここのところ、すべての問いかけに頷いている。声は聞こえている様子。内容は理解していないように思う。
「こりゃ、ダメだ。おい、彼氏。俺は霊感はねーよ。あれだ、偉い坊さんなら、どうにかしてくれるだろ」
「ちょっと、ふざけないでください。真剣に相談しているんです。あなたの人を見る目はスゴイものがあります。斗真も慕っている。今、斗真はギリギリのところに居るんです。俺は斗真を助けたい。あなたなら何か突破口を見出すかと思って」
「買いかぶるなよ。俺はほんの十日しか、こいつを知らねーよ。お前にどうにも出来なきゃお手上げだろう。ここんとこ調子よかったじゃねーか。急に心閉ざしたなら、俺よりお前が思い当たることあんじゃねーか? こいつが影響受ける相手って誰だよ?」
斗真に、影響を与える人物? 真っ先に浮かぶ相手。
「斗真の、家族だ」
その単語に、斗真がビクリと震えたのが見えた。オーナーも、気づいた。そうか。あの時、斗真の帰宅が遅くなった原因。櫻井家の、斗真の生まれた家での事件を思い出す。ゾクリと背中を走る悪寒。まさか。オーナーも険しい視線を俺によこす。
「クロ、お前、家族と喧嘩でもしたか?」
オーナーの一言に、斗真の視線が揺れる。ストレートな質問に、さすがに驚く。何て人だ。
「そうか。クロ、誰と喧嘩してもいいがな、背を向ける相手を間違えるな。お前が経験した苦痛と、お前の彼氏は関係あるか?」
斗真が、目を見開いてオーナーを見ている。
「自分が辛いからと、全てにトゲを向けるな。分別のできる大人になれ。大切なものを、自分の手で包み込めるようになれ。お前が自分から手放したら、お前は本当に独りだぞ? 今のお前が大事なものを考えろ、ガキが」
オーナーをじっと見ていた斗真が、ゆっくり俺を見る。斗真の瞳に、俺が映っている。たまらずに、抱きしめた。
「隆介君、あの、僕……」
小さな声が胸の中でする。久しぶりの斗真の声だ。ギリギリの糸が、切れなかった。良かった。嬉しくて涙が浮かぶ。
「斗真、斗真」
その細い身体を大切に抱きしめる。
「おい! こっちは開店前で忙しいんだ! 乳繰り合いなら外でやれ、バカヤロウ!」
事務室から叩き出されてしまった。あまりの剣幕に、斗真と二人で顔を見合わせる。廊下で、お姉さんたちに笑われながら、手を振られる。心の底からおかしくて、嬉しくて、二人で泣き笑いしながら帰った。しっかりと斗真の手を握りしめて帰った。
あのキャバクラは、とんでもない人の集まりだ。心から、尊敬と感謝をする。
「斗真。ちゃんと、何があったか話してもらえる? 今が無理なら、今度でもいいから」
帰宅して、すぐに俺の部屋に二人でこもった。
コクリと頷く斗真。この真っすぐな綺麗な瞳が愛おしい。
「僕、先輩に言えないことが、ありました。この家に来てから、幸せなのに無性に櫻井の家が気になっていました。時々、家を見に行くのが止められなかった。あの日、母から、産まなければよかったって言われて……気が付いたら、走っていました」
「それは、辛かったね。心がひび割れる言葉だったよね……」
自分の子供に、そんな事を言ったのか。優しく斗真を撫でながら、腹の底が赤くなる。
「僕、その時に気づいたんです。僕の心の奥には、隠していた希望があったんです。最近皆優しくて、もしかして僕の家族も優しいんじゃないかなって思い始めて。どこかでささやかな期待をしちゃっていたんです。小掠先生にも、巻き込まれずに見守るように言われていたのに」
「そうだったんだね」
わずかな期待が、少しずつ膨らんでいたのか。それが、崩れてしまって心が保てなかったのか。
「斗真。決めた気持ちが揺れることもあるよ。感情が理性で押さえきれないこともある。まして、斗真は自分の家族とのことだから。我慢しなくていい。家族が恋しくなったら、次は俺に気持ちを教えてくれる? 時間をかけて一緒に乗り越えていこうよ」
「……はい」
俺を見る斗真を抱きしめる。
斗真は、たくさんの傷を負っている。弟に喘息発作を誘発され続けていた斗真の気管の壁は、肥厚している。喘息が、大人になれば落ち着くよ、という状況ではなくなっている。一生、発作と隣り合わせの生活をしていかなくてはいけない。加えて不整脈の心配も生じた。心も家族に攻撃されて、それでも人を恨まない斗真。せめて、俺が一緒に支えてあげたい。斗真がこれ以上苦しまないように。斗真の笑顔を俺がいつも見ていられるように。
膝の上に斗真を横抱きに乗せて、上を向かせてキス。俺はコレが好き。上を向く斗真の喉奥を味わうことが出来る。懸命に唾液を飲み込む舌の動き。ゾクリとする艶めかしさ。斗真の後頭部を支えて、逃げられないように、斗真を味わう。必死でキスに応える斗真。漏れ出る声の可愛らしさ。俺の舌が蛇のように長ければいいのに。喉の先に入り込んで、斗真の粘膜は全て舐めつくしてみたい。そうしたら、どんな顔をするだろう。想像するだけで身体がブルリと震える。
身体を重ねるたびに、もっと斗真が欲しくなる。ずっと抱き合っていたいと思う。繋がっている時の可愛らしさ。全身を震わせて達する時の顔。壮絶な色気と痴態。その身体の奥底まで潜り込む気持ちよさ。
斗真の心がどこかに隠されていそうで、貪りつくすことを止められない。斗真の運動量が上がらないよう、負担をかけないように注意を払って抱く。狭い斗真の中の締め付け。快感だけを追って、俺に全てを委ねる斗真。愛おしくて、意識をなくした後の身体に激しく入り込んでしまう。奥の奥が俺に絡みついてくる。斗真に負担はかけたくないから必ずスキンは着ける。
終わった後の、斗真のすぐに閉じない場所を触る。ヒクヒクと可愛らしい。粘膜の赤さが愛おしい。指を食ませて、戻ってくる形を楽しむ。こんなことして、目が覚めていたら真っ赤になって怒るかな? いや、「隆介君がしたいなら、いいよ」と恥ずかしそうに可愛く言うかな。想像して、ふふっと笑いが漏れてしまう。
斗真は、セックスは俺に支配されるみたいだと言う。俺は、それは違うと思っている。俺の心を占拠しているのは斗真だ。斗真以外にこんな気持ちになる事はないだろう。俺は、この可愛らしい支配者に、全てを捧げると決めている。
エピローグ
小掠先生から、弟の嘉人の事を聞いた。「噂くらいしか知らないけどね」と話してくれた。サッカーは辞めていた。高校の推薦はもらえず、市内の工業高校を普通受験するようだ。
「きっと、櫻井家も乗り越えるべき壁に当たっているかもね。だからといって斗真君に八つ当たりしても仕方ないだろうに。私たちは第二の家族でいいんだから、恋しくなったら櫻井の両親を遠くから見に行ってきなさい。必ず隆介を連れて行くんだよ」
小掠の家では、僕のもとの家族の話は出してはいけないと思っていた。だけど、あっさり受け入れられた。一人でモヤモヤしていたのが、馬鹿らしくなってしまった。
隆介君も、先生夫婦も、心の器の大きい人たちだと思う。キャバクラのオーナーたちも、深い優しさを備えている。僕の周りには素敵な大人が沢山いる。こんな大人になっていきたいと、心から願う。
気が付いたら、病院だった。僕、生きている。不思議な気持ちだった。循環器科の先生が主治医になっていた。呼吸器科じゃないのかと、驚いた。心房細動とゆう発作を起こしたこと。これは、喘息患者が起こしやすいこと。色々聞いたけれど、なんだか覚える気力が無くて頷いておいた。先輩が一日一回来てくれる。ICUは面会制限があって、決まった時間内に一時間だけ。先輩の優しい声や優しい顔が、いつもより遠くに感じる。コレは、何だろう。小掠先生の声も、水の中で聞くみたい。おかしい。前に鼓膜が破れたときみたい。でも、どうでもいいか。全ての事に頷いておく。ベッドの上で、一日が流れるのをじっと見つめる。
ICUは、二日で出た。循環器科の一般病棟個室。大部屋でいいのに、個室としてくれた。個室代は高いのに。小掠先生にお礼を言わなきゃ。言わなきゃいけないのに、口から言葉が出ない。出ないものは仕方ない。まぁ、いいかと時間の流れを見つめる。
一般病棟になってから、夕方から夕食後まで先輩がいる。色々話しかけてくれる。何て言っているのかよく分からない。全ての事に頷いておく。先輩は優しいな、それだけはしっかり分かった。
特に心機能に問題はなく、今回は突発的な不整脈でしょう、と退院許可が出た。一週間の入院だった。定期的な通院と、念のため抗不整脈薬の内服が追加になった。呼吸器科より早く退院できるんだな、と思った。
先輩が退院手続きや会計をしている。ぼんやり眺めた。「先輩、大学はどうしたんですか?」「ありがとうございます」伝える言葉はあるはずなのに、全部口から言葉にならない。それも全部、まぁ、いいか、と諦めた。
小掠隆介の支配者
斗真が会話をしない。ここにいるのに、心が伴っていない。どうしたのか。
全ては、あの発作を起こした日。あの日に何かがあったんだ。だけど、それが何なのか分からない。
父さん母さんは、精神科を受診させるか考えている。だけど、その前に頼ってみたい人たちがいる。きっと、何かヒントをくれる気がする。人を見抜く力がある人たちだ。今の斗真は、心を固く閉ざしている。見ていて苦しい。きっとそうすることしか自分を守ることが出来ないんだろう。今、斗真は精一杯だ。糸が切れるギリギリにいる。俺は、その糸が切れないように、細心の注意を払って傍にいる。今度は、絶対に斗真を守る。
「おい、何だこりゃ」
怖い顔のオーナーさんが、さらに怖い顔。昨日、斗真の事について相談したいと連絡をした。「明日、来い」と言われて開店前にお邪魔している。斗真を連れて二人。
心房細動と喘息発作を併発したこと、その後から斗真が会話をしないこと。運動誘発喘息発作が原因のようだが、なぜ斗真が走ったのか分からないこと。正直に全て話した。
オーナーさんとこに行くよ、と話すとコクリと頷く斗真。指示を出せば従うけれど、自発的に行動しない。綺麗な瞳が、何を映しているのか。可愛い表情がどこに隠されてしまったのか、斗真を大切に思うからこそ俺は知りたい。
「おい、クロ? おまえ、幽体離脱でもしてんのか?」
オーナーさんの声に、一つ頷く斗真。ここのところ、すべての問いかけに頷いている。声は聞こえている様子。内容は理解していないように思う。
「こりゃ、ダメだ。おい、彼氏。俺は霊感はねーよ。あれだ、偉い坊さんなら、どうにかしてくれるだろ」
「ちょっと、ふざけないでください。真剣に相談しているんです。あなたの人を見る目はスゴイものがあります。斗真も慕っている。今、斗真はギリギリのところに居るんです。俺は斗真を助けたい。あなたなら何か突破口を見出すかと思って」
「買いかぶるなよ。俺はほんの十日しか、こいつを知らねーよ。お前にどうにも出来なきゃお手上げだろう。ここんとこ調子よかったじゃねーか。急に心閉ざしたなら、俺よりお前が思い当たることあんじゃねーか? こいつが影響受ける相手って誰だよ?」
斗真に、影響を与える人物? 真っ先に浮かぶ相手。
「斗真の、家族だ」
その単語に、斗真がビクリと震えたのが見えた。オーナーも、気づいた。そうか。あの時、斗真の帰宅が遅くなった原因。櫻井家の、斗真の生まれた家での事件を思い出す。ゾクリと背中を走る悪寒。まさか。オーナーも険しい視線を俺によこす。
「クロ、お前、家族と喧嘩でもしたか?」
オーナーの一言に、斗真の視線が揺れる。ストレートな質問に、さすがに驚く。何て人だ。
「そうか。クロ、誰と喧嘩してもいいがな、背を向ける相手を間違えるな。お前が経験した苦痛と、お前の彼氏は関係あるか?」
斗真が、目を見開いてオーナーを見ている。
「自分が辛いからと、全てにトゲを向けるな。分別のできる大人になれ。大切なものを、自分の手で包み込めるようになれ。お前が自分から手放したら、お前は本当に独りだぞ? 今のお前が大事なものを考えろ、ガキが」
オーナーをじっと見ていた斗真が、ゆっくり俺を見る。斗真の瞳に、俺が映っている。たまらずに、抱きしめた。
「隆介君、あの、僕……」
小さな声が胸の中でする。久しぶりの斗真の声だ。ギリギリの糸が、切れなかった。良かった。嬉しくて涙が浮かぶ。
「斗真、斗真」
その細い身体を大切に抱きしめる。
「おい! こっちは開店前で忙しいんだ! 乳繰り合いなら外でやれ、バカヤロウ!」
事務室から叩き出されてしまった。あまりの剣幕に、斗真と二人で顔を見合わせる。廊下で、お姉さんたちに笑われながら、手を振られる。心の底からおかしくて、嬉しくて、二人で泣き笑いしながら帰った。しっかりと斗真の手を握りしめて帰った。
あのキャバクラは、とんでもない人の集まりだ。心から、尊敬と感謝をする。
「斗真。ちゃんと、何があったか話してもらえる? 今が無理なら、今度でもいいから」
帰宅して、すぐに俺の部屋に二人でこもった。
コクリと頷く斗真。この真っすぐな綺麗な瞳が愛おしい。
「僕、先輩に言えないことが、ありました。この家に来てから、幸せなのに無性に櫻井の家が気になっていました。時々、家を見に行くのが止められなかった。あの日、母から、産まなければよかったって言われて……気が付いたら、走っていました」
「それは、辛かったね。心がひび割れる言葉だったよね……」
自分の子供に、そんな事を言ったのか。優しく斗真を撫でながら、腹の底が赤くなる。
「僕、その時に気づいたんです。僕の心の奥には、隠していた希望があったんです。最近皆優しくて、もしかして僕の家族も優しいんじゃないかなって思い始めて。どこかでささやかな期待をしちゃっていたんです。小掠先生にも、巻き込まれずに見守るように言われていたのに」
「そうだったんだね」
わずかな期待が、少しずつ膨らんでいたのか。それが、崩れてしまって心が保てなかったのか。
「斗真。決めた気持ちが揺れることもあるよ。感情が理性で押さえきれないこともある。まして、斗真は自分の家族とのことだから。我慢しなくていい。家族が恋しくなったら、次は俺に気持ちを教えてくれる? 時間をかけて一緒に乗り越えていこうよ」
「……はい」
俺を見る斗真を抱きしめる。
斗真は、たくさんの傷を負っている。弟に喘息発作を誘発され続けていた斗真の気管の壁は、肥厚している。喘息が、大人になれば落ち着くよ、という状況ではなくなっている。一生、発作と隣り合わせの生活をしていかなくてはいけない。加えて不整脈の心配も生じた。心も家族に攻撃されて、それでも人を恨まない斗真。せめて、俺が一緒に支えてあげたい。斗真がこれ以上苦しまないように。斗真の笑顔を俺がいつも見ていられるように。
膝の上に斗真を横抱きに乗せて、上を向かせてキス。俺はコレが好き。上を向く斗真の喉奥を味わうことが出来る。懸命に唾液を飲み込む舌の動き。ゾクリとする艶めかしさ。斗真の後頭部を支えて、逃げられないように、斗真を味わう。必死でキスに応える斗真。漏れ出る声の可愛らしさ。俺の舌が蛇のように長ければいいのに。喉の先に入り込んで、斗真の粘膜は全て舐めつくしてみたい。そうしたら、どんな顔をするだろう。想像するだけで身体がブルリと震える。
身体を重ねるたびに、もっと斗真が欲しくなる。ずっと抱き合っていたいと思う。繋がっている時の可愛らしさ。全身を震わせて達する時の顔。壮絶な色気と痴態。その身体の奥底まで潜り込む気持ちよさ。
斗真の心がどこかに隠されていそうで、貪りつくすことを止められない。斗真の運動量が上がらないよう、負担をかけないように注意を払って抱く。狭い斗真の中の締め付け。快感だけを追って、俺に全てを委ねる斗真。愛おしくて、意識をなくした後の身体に激しく入り込んでしまう。奥の奥が俺に絡みついてくる。斗真に負担はかけたくないから必ずスキンは着ける。
終わった後の、斗真のすぐに閉じない場所を触る。ヒクヒクと可愛らしい。粘膜の赤さが愛おしい。指を食ませて、戻ってくる形を楽しむ。こんなことして、目が覚めていたら真っ赤になって怒るかな? いや、「隆介君がしたいなら、いいよ」と恥ずかしそうに可愛く言うかな。想像して、ふふっと笑いが漏れてしまう。
斗真は、セックスは俺に支配されるみたいだと言う。俺は、それは違うと思っている。俺の心を占拠しているのは斗真だ。斗真以外にこんな気持ちになる事はないだろう。俺は、この可愛らしい支配者に、全てを捧げると決めている。
エピローグ
小掠先生から、弟の嘉人の事を聞いた。「噂くらいしか知らないけどね」と話してくれた。サッカーは辞めていた。高校の推薦はもらえず、市内の工業高校を普通受験するようだ。
「きっと、櫻井家も乗り越えるべき壁に当たっているかもね。だからといって斗真君に八つ当たりしても仕方ないだろうに。私たちは第二の家族でいいんだから、恋しくなったら櫻井の両親を遠くから見に行ってきなさい。必ず隆介を連れて行くんだよ」
小掠の家では、僕のもとの家族の話は出してはいけないと思っていた。だけど、あっさり受け入れられた。一人でモヤモヤしていたのが、馬鹿らしくなってしまった。
隆介君も、先生夫婦も、心の器の大きい人たちだと思う。キャバクラのオーナーたちも、深い優しさを備えている。僕の周りには素敵な大人が沢山いる。こんな大人になっていきたいと、心から願う。
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