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Ⅱ章「幸せを運ぶコウノトリと小さな文鳥の幸せ番」
side:加藤幸一⑧
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「こちらが先付けでございます」
お品書きと一緒にテーブルにセットされた上品で綺麗な盛り付けに見惚れてしまう。
これは、食べ物か? 徹と暮らして高級な食事は何度か経験したが、ちょっと比じゃない。
仲居さんが静かに退室するのを待って、徹に聞く。
「これ、食べていいものか? 見たことない」
向かい合わせの席で、ふふふ、と笑う徹。俺の鳥と徹の鳥は部屋の隅で、まったり羽繕いし合っている。
「もちろん。見た目にも味にもこだわっていて美味しいよ。あ、飲み物。アルコール、もう飲める? ちょっと飲む?」
「もう、二十歳になったよ。だけどアルコールは徹と一緒に飲むって決めていたから、飲んでないよ」
「そっか。なんか、いつの間にか季節が過ぎていて、浦島太郎の気分だ」
美味しい、と食べながら少し陰りのある表情。何と声をかけていいか分からず、静かに食べる徹を見つめた。
「幸一、一緒に飲もう」
穏やかな笑みを浮かべた目元で、徹がフロントに電話をする。ビールとスパークリング日本酒を頼んでいる。
「ほら、食べなって。次が来ちゃうよ」
お品書きを見ている。今、一品目。全部で、九品? お凌ぎ、椀物、向付……和紙に丁寧に筆で書かれた紙を見る。書いてある食材だけで高級感が溢れている。
俺に話しかける徹と食事。久しぶりの会話に嬉しくて、綺麗な先付の一つを口に入れる。
「うっま!」
驚いて声が出ていた。ぷはっと笑う徹。
「だろ? うっまい、よな」
あはは、と笑う。二人でお品書きを見て、これがカラスミだ、これはあん肝だ、と料理の当てっこをして食べ進める。楽しい。
「失礼します」
仲居さんがお酒と「お凌ぎ」を運んでくれる。
グラスビールと青い瓶の酒。
「幸一、二十歳おめでとう」
「……ありがとう。今日は良い日だ。徹がここに居る。今年のクリスマスにも、一緒に乾杯できるかな?」
「あぁ、もうすぐ十二月か。プレゼント考えなきゃ。誕生日分も、だね」
少し舐めてみたビールは不味かった。顔に出てしまった。
「幸一、こっちは?」
スパークリング日本酒と言っていた。
「日本酒の方が懐石料理に合うよ」
キリコグラスに泡が綺麗。少し飲むと、甘みと爽やかな後味。
「コレは旨い」
「だろ? けど、ビールより酔うからな。飲みすぎ注意」
ふふっと笑う徹が可愛い。
水菓子と甘未が出されたころには二人して赤い顔をして笑いあっていた。お腹は満たされていてフワフワいい気分。
「すごいな。酒って、キラキラする。楽しい気分だ」
「幸一、飲んだの初めて?」
「もちろん。去年のクリスマスに徹が一緒に飲もうって言ったじゃないか。だから待っていたよ。俺、徹が傍にいないと何もできない。前に進めない。徹、お願いだよ。俺から離れないで。綺麗な徹をいつも見ていたいし、俺のだって抱きしめていたいんだ」
フワフワした気分に任せて願望が口から滑り出る。
「幸一は一人でも大丈夫だよ。ダメなのは、俺だ。俺もう、疲れた」
溜息と共に吐くような一言。そのまま下を向く徹。心がむき出しになったように震える徹。
俺が、俺が守らなきゃ。確たる思いが沸き上がる。
「俺、小鳥だからって言われたくなくて必死で生きて来たけれど、何しても無駄だったのかなぁ。なんか、頑張ることも空しくなった。心が疲れ切った感じかなぁ」
肩を落としてゆっくり話す徹。たまらずに必死になって伝える。
「徹、それは違う! 徹が受けた暴力は、耐えなければいけないものじゃない。あんなの、狂った奴らが悪い。奴らがおかしいんだ。徹に嫉妬して、あいつら、奴ら、全員殺してやりたい! でも、何より許せないのは、番鳥である俺が徹を守れなかったことだ。俺が、バカでゴメン。世間知らずで、ゴメン。頼れる番じゃなくてゴメン。俺が悪い。全部、ゴメン。ゴメン」
徹に申し訳なくて謝ることを止められない。
小坂君の番鳥のオウギワシを思い出していた。小坂君を全てから守る力と威厳に満ちた姿。俺は、どうしてそうなれなれないのか。情けない自分が苦しい。泣けてきて、徹の前でワンワン泣いた。
「何だよ、お前が泣くのかよ」と笑って頭を撫でてくれる徹は、やっぱり優しかった。
泣いて徹に縋り付いて「もう俺をひとりにしないで」「徹が居ないと寂しい、俺が守るから、頑張るから俺を見ていてよ」などと言い散々泣き喚いた。「わかった、わかったよ」と俺を撫でてくれる徹。
大好きなんだ、好きだって何度も伝えてキスを繰り返して、抱きしめて眠った。
「おはよう」
ふかふかの布団。気持ちいい。俺を見つめる徹。今日も綺麗だ。徹の匂いを吸い込む。
「おはよう。めちゃくちゃ良い朝だ……夢かもしれない……」
「幸一、悪いけどトイレ行きたい」
「え? あ、ごめん」
すぐに抱きしめていた腕を解く。
徐々に昨日のことを思い出し、顔が赤くなる。苦しい思いを抱えている徹に、俺はなんてことをしてしまったんだ。申し訳なく思いながら徹を見つめる。
「おい、トイレの出待ちをするなよ」
徹に笑われる。何となくトイレまでついてきてしまっていた。そんな俺を、ポンポンと叩く徹。
「幸一は、俺が大好きなんだなぁ」
その一言に真っ赤になってしまう。
「あはは。俺も同じだからいいよ。昨日、幸一が泣き叫ぶの聞いてて良く分かったんだ。幸一には俺が必要なんだな。幸一、お茶飲んで朝風呂か散歩しようよ。二日酔いは? 頭痛くないか?」
「全然大丈夫。と言うか、あんまり飲んでないのに、酔ってゴメン」
「いや、なんか大型犬が甘えてくるみたいで可愛かった」
そのうちに酒にも強くなる、ぜひそうしてくれ、と笑いあって緑茶を飲む。温かいお茶に朝の空気に気持ちが満たされる。
朝の凛とした空気の庭。羽織を着ているけれど、長くいないほうが良い。でも、冬の冷えた澄んだ空気と朝日が気持ちいい。
「幸一、俺まだ心が不安定になることあると思う。でもさ、俺は幸一になら怖がって甘える部分を見せて大丈夫なんだって思えた。小型分身鳥の弱い部分を、幸一に支えて欲しい。俺も幸一を助けていくし、共に生きるってことが少し分かった気がする」
穏やかな徹の瞳。背筋が凛と伸びて、朝日を背負っている。
「徹、一緒に生きて行こう。さすが徹だ。やっぱりカッコいい。えっと、俺、ふつつかものですがよろしくお願いします」
おい、幸一が嫁かよ、と笑う徹。クシュンと小さなクシャミ。冷えてきて、慌てて部屋に戻る。
「冷えたね。朝風呂して、ちょうどご飯かな」
「なんか贅沢だな。非現実だ」
「あはは。旅行ってそんなもんだよ」
また来よう、と話す。
朝風呂に入った。徹には「もう自分で身体を洗う」と磨き上げるのを断られた。ちょっと寂しい。笑いながら時々は頼むよ、と言ってくれる。徹は何でもお見通しだ。
湯の中で温まりながら、クリスマスどうする? と話した。とりあえずシャンパンとかワイン飲んでみよう、オードブルは? プレゼントは一緒に買いに行く? ケーキは去年の店にしようか、と予定を立てる。にこやかに次々と考えてくれる徹。
徹がにこやかにすると心が温まる。濡れた髪が朝日で輝く。黒髪がキラキラと輝く。
俺の前を泳ぐように歩く徹を追いかけるようにして湯から上がる。俺を見る徹がクスリと笑って、そっと浴衣のあわせを直してくれる。
「あ、間違えてたか。ありがとう」
浴衣を直してくれて、俺を見上げて徹が抱きつく。俺の腕におさまる華奢な徹。
俺のコウノトリに飛び移る徹の文鳥。昨日から徹の鳥が何度か俺の鳥のもとに飛ぶ。ずっと徹から離れなかった文鳥が飛ぶ姿に、優しい気持ちが溢れる。
「いいよ。幸一を格好良くするのは俺の仕事だ」
クスリと笑う徹。そうだよ、それでこそ徹だ。懐かしいすっと伸びた背筋が愛おしくて一度ぎゅっと抱きしめる。
「ご飯にしよう。そして、帰ったらクリスマス準備にとりかかるぞ」
旅行に来てよかった。徹の両親に伝えたいことが沢山だ。
お品書きと一緒にテーブルにセットされた上品で綺麗な盛り付けに見惚れてしまう。
これは、食べ物か? 徹と暮らして高級な食事は何度か経験したが、ちょっと比じゃない。
仲居さんが静かに退室するのを待って、徹に聞く。
「これ、食べていいものか? 見たことない」
向かい合わせの席で、ふふふ、と笑う徹。俺の鳥と徹の鳥は部屋の隅で、まったり羽繕いし合っている。
「もちろん。見た目にも味にもこだわっていて美味しいよ。あ、飲み物。アルコール、もう飲める? ちょっと飲む?」
「もう、二十歳になったよ。だけどアルコールは徹と一緒に飲むって決めていたから、飲んでないよ」
「そっか。なんか、いつの間にか季節が過ぎていて、浦島太郎の気分だ」
美味しい、と食べながら少し陰りのある表情。何と声をかけていいか分からず、静かに食べる徹を見つめた。
「幸一、一緒に飲もう」
穏やかな笑みを浮かべた目元で、徹がフロントに電話をする。ビールとスパークリング日本酒を頼んでいる。
「ほら、食べなって。次が来ちゃうよ」
お品書きを見ている。今、一品目。全部で、九品? お凌ぎ、椀物、向付……和紙に丁寧に筆で書かれた紙を見る。書いてある食材だけで高級感が溢れている。
俺に話しかける徹と食事。久しぶりの会話に嬉しくて、綺麗な先付の一つを口に入れる。
「うっま!」
驚いて声が出ていた。ぷはっと笑う徹。
「だろ? うっまい、よな」
あはは、と笑う。二人でお品書きを見て、これがカラスミだ、これはあん肝だ、と料理の当てっこをして食べ進める。楽しい。
「失礼します」
仲居さんがお酒と「お凌ぎ」を運んでくれる。
グラスビールと青い瓶の酒。
「幸一、二十歳おめでとう」
「……ありがとう。今日は良い日だ。徹がここに居る。今年のクリスマスにも、一緒に乾杯できるかな?」
「あぁ、もうすぐ十二月か。プレゼント考えなきゃ。誕生日分も、だね」
少し舐めてみたビールは不味かった。顔に出てしまった。
「幸一、こっちは?」
スパークリング日本酒と言っていた。
「日本酒の方が懐石料理に合うよ」
キリコグラスに泡が綺麗。少し飲むと、甘みと爽やかな後味。
「コレは旨い」
「だろ? けど、ビールより酔うからな。飲みすぎ注意」
ふふっと笑う徹が可愛い。
水菓子と甘未が出されたころには二人して赤い顔をして笑いあっていた。お腹は満たされていてフワフワいい気分。
「すごいな。酒って、キラキラする。楽しい気分だ」
「幸一、飲んだの初めて?」
「もちろん。去年のクリスマスに徹が一緒に飲もうって言ったじゃないか。だから待っていたよ。俺、徹が傍にいないと何もできない。前に進めない。徹、お願いだよ。俺から離れないで。綺麗な徹をいつも見ていたいし、俺のだって抱きしめていたいんだ」
フワフワした気分に任せて願望が口から滑り出る。
「幸一は一人でも大丈夫だよ。ダメなのは、俺だ。俺もう、疲れた」
溜息と共に吐くような一言。そのまま下を向く徹。心がむき出しになったように震える徹。
俺が、俺が守らなきゃ。確たる思いが沸き上がる。
「俺、小鳥だからって言われたくなくて必死で生きて来たけれど、何しても無駄だったのかなぁ。なんか、頑張ることも空しくなった。心が疲れ切った感じかなぁ」
肩を落としてゆっくり話す徹。たまらずに必死になって伝える。
「徹、それは違う! 徹が受けた暴力は、耐えなければいけないものじゃない。あんなの、狂った奴らが悪い。奴らがおかしいんだ。徹に嫉妬して、あいつら、奴ら、全員殺してやりたい! でも、何より許せないのは、番鳥である俺が徹を守れなかったことだ。俺が、バカでゴメン。世間知らずで、ゴメン。頼れる番じゃなくてゴメン。俺が悪い。全部、ゴメン。ゴメン」
徹に申し訳なくて謝ることを止められない。
小坂君の番鳥のオウギワシを思い出していた。小坂君を全てから守る力と威厳に満ちた姿。俺は、どうしてそうなれなれないのか。情けない自分が苦しい。泣けてきて、徹の前でワンワン泣いた。
「何だよ、お前が泣くのかよ」と笑って頭を撫でてくれる徹は、やっぱり優しかった。
泣いて徹に縋り付いて「もう俺をひとりにしないで」「徹が居ないと寂しい、俺が守るから、頑張るから俺を見ていてよ」などと言い散々泣き喚いた。「わかった、わかったよ」と俺を撫でてくれる徹。
大好きなんだ、好きだって何度も伝えてキスを繰り返して、抱きしめて眠った。
「おはよう」
ふかふかの布団。気持ちいい。俺を見つめる徹。今日も綺麗だ。徹の匂いを吸い込む。
「おはよう。めちゃくちゃ良い朝だ……夢かもしれない……」
「幸一、悪いけどトイレ行きたい」
「え? あ、ごめん」
すぐに抱きしめていた腕を解く。
徐々に昨日のことを思い出し、顔が赤くなる。苦しい思いを抱えている徹に、俺はなんてことをしてしまったんだ。申し訳なく思いながら徹を見つめる。
「おい、トイレの出待ちをするなよ」
徹に笑われる。何となくトイレまでついてきてしまっていた。そんな俺を、ポンポンと叩く徹。
「幸一は、俺が大好きなんだなぁ」
その一言に真っ赤になってしまう。
「あはは。俺も同じだからいいよ。昨日、幸一が泣き叫ぶの聞いてて良く分かったんだ。幸一には俺が必要なんだな。幸一、お茶飲んで朝風呂か散歩しようよ。二日酔いは? 頭痛くないか?」
「全然大丈夫。と言うか、あんまり飲んでないのに、酔ってゴメン」
「いや、なんか大型犬が甘えてくるみたいで可愛かった」
そのうちに酒にも強くなる、ぜひそうしてくれ、と笑いあって緑茶を飲む。温かいお茶に朝の空気に気持ちが満たされる。
朝の凛とした空気の庭。羽織を着ているけれど、長くいないほうが良い。でも、冬の冷えた澄んだ空気と朝日が気持ちいい。
「幸一、俺まだ心が不安定になることあると思う。でもさ、俺は幸一になら怖がって甘える部分を見せて大丈夫なんだって思えた。小型分身鳥の弱い部分を、幸一に支えて欲しい。俺も幸一を助けていくし、共に生きるってことが少し分かった気がする」
穏やかな徹の瞳。背筋が凛と伸びて、朝日を背負っている。
「徹、一緒に生きて行こう。さすが徹だ。やっぱりカッコいい。えっと、俺、ふつつかものですがよろしくお願いします」
おい、幸一が嫁かよ、と笑う徹。クシュンと小さなクシャミ。冷えてきて、慌てて部屋に戻る。
「冷えたね。朝風呂して、ちょうどご飯かな」
「なんか贅沢だな。非現実だ」
「あはは。旅行ってそんなもんだよ」
また来よう、と話す。
朝風呂に入った。徹には「もう自分で身体を洗う」と磨き上げるのを断られた。ちょっと寂しい。笑いながら時々は頼むよ、と言ってくれる。徹は何でもお見通しだ。
湯の中で温まりながら、クリスマスどうする? と話した。とりあえずシャンパンとかワイン飲んでみよう、オードブルは? プレゼントは一緒に買いに行く? ケーキは去年の店にしようか、と予定を立てる。にこやかに次々と考えてくれる徹。
徹がにこやかにすると心が温まる。濡れた髪が朝日で輝く。黒髪がキラキラと輝く。
俺の前を泳ぐように歩く徹を追いかけるようにして湯から上がる。俺を見る徹がクスリと笑って、そっと浴衣のあわせを直してくれる。
「あ、間違えてたか。ありがとう」
浴衣を直してくれて、俺を見上げて徹が抱きつく。俺の腕におさまる華奢な徹。
俺のコウノトリに飛び移る徹の文鳥。昨日から徹の鳥が何度か俺の鳥のもとに飛ぶ。ずっと徹から離れなかった文鳥が飛ぶ姿に、優しい気持ちが溢れる。
「いいよ。幸一を格好良くするのは俺の仕事だ」
クスリと笑う徹。そうだよ、それでこそ徹だ。懐かしいすっと伸びた背筋が愛おしくて一度ぎゅっと抱きしめる。
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