真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉

小池 月

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Ⅲ ダイエットには運動も!

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「おい! 凛太朗! 大丈夫か⁉」
 身体を軽く揺すられた。

「どうしよう、いったん帰らなきゃ。いや、救急車!」
 慌てふためく声がする。凛太朗を強く抱きしめる腕が震えている。酒井の身体で日陰が出来て眩暈が少しひいた。

「あ、いや。大丈夫。ごめん」
 まだ目を開けられずに深く呼吸をして凛太朗は応えた。

「ちょい、このままで、いい?」
「うん。体重掛けて」
「……サンキュ」

 固い身体を直に感じた。胸に抱き留められていると酒井の心臓の音がバクバクと聞こえた。
(すごい、拍動だ……)

 酒井の生きている音が響く。温かく支えてくれる酒井に申し訳ない気持ちが生まれて凛太朗は泣きたくなった。
(酒井、ごめん)
 このまま密着していると嗚咽が漏れそうで、凛太朗はグイっと酒井の胸を押し返した。

「凛太朗?」
 怪訝そうな声に向けて、凛太朗はニカっと笑って見せた。

「悪い、酒井。ちょい眩暈。何だろうな。夏バテ、か?」
 ははは、と笑った顔が引きつっていたかもしれない。怪訝そうに酒井が見てきた。

「凛太朗、顔色が悪い。今日は帰ろう」
「あ、もう床屋がその角だ。そこで涼ませてもらいたい」
「わかった。つかまって」
 言い終わらないうちに酒井はグイっと凛太朗を横抱きにした。

「わ、わぁ! 降ろせ!」
 驚きと恐怖に足をばたつかせてしまった。

「まじ、凛太朗、おとなしくして。落とすから。ガチで」
 酒井の怖いくらい真剣な声音にビクリと震えて凛太朗は「はい」と静かにした。

 そのまま、ほんの数メートルだが酒井に抱き上げられて移動した。顔から火が出そうに恥ずかしい気持ちと、酒井の力強さに戸惑う数分間だった。
 凛太朗を抱き上げて重いだろうと酒井を見れば、歯を食いしばる懸命な顔があった。汗で前髪が分かれていた。眉間に皺を寄せ荒い息を吐く酒井が、カッコよかった。

 床屋に着くとすぐに待合の椅子に座らせてもらい、スポーツドリンクをもらった。すぐに火照りが落ち着いて、途端に申し訳なくなくなった。

「あの、すみません。ご迷惑おかけして」
「いいのよ。凛ちゃんが倒れるなんて、おばちゃん腰抜かすわよ」
 床屋の奥さんが笑いながら濡れタオルを首に巻いてくれた。

「本当にありがとうございます」
 この床屋は家族経営の穏やかな田舎店だ。少し休んで帰ろうかとも思ったが、迷惑だけかけて帰るなど失礼すぎると思い直した。調子は元に戻っている。今日は他に客が居なくて直ぐに二人カットしてもらえそうだ。

「おい、凛太朗。お前の彼氏はすげぇな。お姫抱っこか」
「おじさん、彼氏とかやめてよ」

「ははは。いいじゃないか。若いねぇ」
 床屋のご主人が様子を見に来た。ご主人は酒井を見てドンと軽く胸板を叩いた。

「お、すげぇ筋肉だ。鍛えてんね」
「はい。少しだけですが」

「そっか。凛太朗が連れと来るなんて嬉しいなぁ」
 ご主人の言葉に凛太朗は食いついた。

「そう。おじさん、今日は酒井をカッコよくしてほしいんだ。ほら、イケメンだろ?」
 凛太朗は椅子から立ちあがって酒井の前髪をグイっと手でよけた。酒井の顔の全貌を見てご主人は「おぉ」と小さく声を上げた。

「こりゃ、面白いな。兄ちゃん、切っていきなよ」
「いや、凛太朗の調子が悪いので、またにします」

「酒井、僕はもう大丈夫。ほんとふらついただけ。床屋さんに悪いし、僕も切るから、さ」
「だけど、心配なんだ」

 心配そうにする酒井にご主人が口笛を吹いた。
「おいおい、恋人みたいじゃないか」

 ご主人の言葉に凛太朗はズッコケそうになった。酒井は耳まで赤くなっていた。

 結局、凛太朗の押しが勝って、床屋で髪を切ってもらった。
「切る量が多いから、兄ちゃんからな」
 ご主人に誘導されて酒井が席に着いた。

「どんな髪型か決めてるのかい?」
「いえ、特には……」
 返事に困っている酒井に代わって凛太朗が答えた。

「酒井、僕が言っても良いかな?」
 酒井の真っすぐな瞳が凛太朗を捕らえたまま、コクリと頷きが返ってきた。

「おじさん、酒井をモデルみたいにして欲しい。ほら、その本みたいな」

 凛太朗はカット台に置かれた髪型の本を指さした。『男のベリーショート』と書かれた表紙にツーブロックの男性が載っている。

「そうか。ま、刈り上げがダメな学校もあるだろ。側面だけちょっとだな」
「酒井、それでいい?」
 ご主人と凛太朗で話を進めていたが、酒井の同意を得なくてはいけない。

「うん。凛太朗の好みに任せるよ」
 そんな返事に先ほどの不安感がくすぶる。

「酒井、嫌なら切らなくても良いけど」
 ここまで来て何を言っていると思われそうだが聞かずには居られなかった。

「いや、切るよ。こんなチャンスはないって」
 酒井の頬がニカっと上がった。それを見て、きっと大丈夫だろうと凛太朗は思った。
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