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Ⅲ ダイエットには運動も!
⑪
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ぱちりと目が覚めて、凛太朗はガバっと起き上がった。途端に背中に腕が添えられる。
凛太朗は腕の主を見上げた。
「は? 今何時?」
完全に熟睡してしまい慌てた。
「おはよう。夕方の四時」
酒井の顔を見るとドキリとする。まだ短い髪に慣れない。
「酒井、いてくれたのか。放置でゴメン」
「いいって。それより、熱が引いてよかった」
言われて頭が痛くない事に気が付いた。
「はぁ。夏バテかな」
「麦茶持ってくるよ」
背中に添えた腕をそっと離して、酒井が動く。勝手知ったる様子で冷蔵庫に向かう姿に頬が緩む。
凛太朗は体力が無いせいか時々微熱が出る。そんな時は、いつものことだから一人で寝て過ごしている。喉が乾けばフラついても自分で歩いてキッチンに行くしかなかった。
それが今日は、酒井がいて水分を持ってきてくれる。そんな小さなことが嬉しくて心がホカホカする。
「はい」
コップに入った麦茶を渡されて「サンキュ」と受け取った。コクコクと飲むと冷えた液体が身体の中を通過して、気持ち良さが満ちる。
「はぁ、おいし」
ニカっと酒井に笑いかければ、酒井もニカっと笑い返してくれる。
「凛太朗、熱出やすいのか?」
「うん。時々ね。体力ないから」
「そっか。あんまし、無理するなよ」
心配そうに凛太朗を見てから、酒井の大きな手が頭に伸びた。何かと構える凛太朗の頭をナデナデして大きな手が離れた。
いつもは凛太朗が大きな酒井をナデナデしているのに。撫でられる小さな恥ずかしさと大きなドキドキに戸惑う。
「凛太朗、頑張り屋だからな」
優しい言葉に顔から火が出そうなほど照れくさくなった。
そんな風に言ってくれる人などいなかった。凛太朗の身体の芯がホカホカと温まる。
鼻の奥がジンとして涙がこみあげてくる。堪えようとしたけれど、涙が溢れるほうが早かった。ほろりと零れた涙を見られたくなくて顔を背けたら、酒井が無言で抱き締めて来た。
大きな腕に包まれて、逞しい胸板に顔を埋めると、何とも言えない幸福感で満たされた。じわじわ滲む涙が酒井の胸に吸い込まれていった。
互いに何も言わない不思議な時間だった。
「じゃ、また明日」
「ん。遅くまで、ゴメン」
結局のんびりしてしまって酒井が帰るのが十七時になってしまった。もうすぐ母が帰って来る。
母親に会うのが緊張すると言う酒井の意見を尊重して、いつも十七時前には酒井が帰るのに。酒井には申し訳ないけれど、凛太朗は帰って欲しくなくて、拗ねたくなるような気分だった。
どこまでも引き留めてしまいそうな自分に喝を入れて、酒井に笑顔を見せた。
「また明日な!」
そんな凛太朗を見下ろしている酒井が、大きな手で凛太朗の頬に触れた。そっと頬を撫でて、酒井の顔が近づいた。
一瞬ドキリとしたが、キスされそうだと勘違いした昼間を思い出し、もう期待しないぞと自分を戒めた。凛太郎は酒井が何をするのだろうと思いながら、じっと待った。
酒井の顔が、そっと凛太朗に触れた。
正確には、凛太朗の額に唇が触れた。油断していた凛太朗の身体に稲妻が走った。驚きすぎて全身が固くなった凛太朗の頭を、大きな手がナデナデした。
「熱、下がったな。明日も俺が付いてるから」
お邪魔しました、と去っていく酒井を見送った。凛太朗は静かになった部屋にへたり込んだ。
(なんだよ! え? あれ、額に、チューした? えええ?)
よく理解できない混乱に、熱がまた上りそうだと思った。
しかし、もう熱が上ることは無く翌日から凛太朗の体調は整った。
穏やかな酒井はいつもの通りで、額にキスしたのは凛太朗の勘違いなのかもしれないと思うほどだ。
ただ、翌日から酒井は「熱の確認」と言って凛太朗の肌によく触るようになった。額を大きな手で触れたり、首筋を撫でたりする。
酒井に迷惑をかけた経緯があるから仕方ないと思っているが、接触が増えたと思う。だけど、嫌じゃない。
凛太朗に触れる酒井は大きな優しさに満ちていて、安心する。凛太朗を大切にしてくれているのがわかり、満足感が満ちてくる。
それに、凛太朗の体力を心配した酒井が毎日筋トレ十五分と、スイッチの『全員でスポーツ』を三十分一緒にやるプランを立てて来た。食事管理は凛太朗がして、運動管理は酒井だな、と笑い合った。
夏休み終了までで、酒井は計十四キロ減量した。スゴイと思った。
そして、さらにイケメンになった。本気でマッチョ系韓国アイドルになれると思える風貌だ。そんな酒井と十キロ減量ご褒美の映画デートをして、買い物をして、楽しすぎる時間を過ごした。
夏休みがいつまでも続けばいい、と思った。
凛太朗は腕の主を見上げた。
「は? 今何時?」
完全に熟睡してしまい慌てた。
「おはよう。夕方の四時」
酒井の顔を見るとドキリとする。まだ短い髪に慣れない。
「酒井、いてくれたのか。放置でゴメン」
「いいって。それより、熱が引いてよかった」
言われて頭が痛くない事に気が付いた。
「はぁ。夏バテかな」
「麦茶持ってくるよ」
背中に添えた腕をそっと離して、酒井が動く。勝手知ったる様子で冷蔵庫に向かう姿に頬が緩む。
凛太朗は体力が無いせいか時々微熱が出る。そんな時は、いつものことだから一人で寝て過ごしている。喉が乾けばフラついても自分で歩いてキッチンに行くしかなかった。
それが今日は、酒井がいて水分を持ってきてくれる。そんな小さなことが嬉しくて心がホカホカする。
「はい」
コップに入った麦茶を渡されて「サンキュ」と受け取った。コクコクと飲むと冷えた液体が身体の中を通過して、気持ち良さが満ちる。
「はぁ、おいし」
ニカっと酒井に笑いかければ、酒井もニカっと笑い返してくれる。
「凛太朗、熱出やすいのか?」
「うん。時々ね。体力ないから」
「そっか。あんまし、無理するなよ」
心配そうに凛太朗を見てから、酒井の大きな手が頭に伸びた。何かと構える凛太朗の頭をナデナデして大きな手が離れた。
いつもは凛太朗が大きな酒井をナデナデしているのに。撫でられる小さな恥ずかしさと大きなドキドキに戸惑う。
「凛太朗、頑張り屋だからな」
優しい言葉に顔から火が出そうなほど照れくさくなった。
そんな風に言ってくれる人などいなかった。凛太朗の身体の芯がホカホカと温まる。
鼻の奥がジンとして涙がこみあげてくる。堪えようとしたけれど、涙が溢れるほうが早かった。ほろりと零れた涙を見られたくなくて顔を背けたら、酒井が無言で抱き締めて来た。
大きな腕に包まれて、逞しい胸板に顔を埋めると、何とも言えない幸福感で満たされた。じわじわ滲む涙が酒井の胸に吸い込まれていった。
互いに何も言わない不思議な時間だった。
「じゃ、また明日」
「ん。遅くまで、ゴメン」
結局のんびりしてしまって酒井が帰るのが十七時になってしまった。もうすぐ母が帰って来る。
母親に会うのが緊張すると言う酒井の意見を尊重して、いつも十七時前には酒井が帰るのに。酒井には申し訳ないけれど、凛太朗は帰って欲しくなくて、拗ねたくなるような気分だった。
どこまでも引き留めてしまいそうな自分に喝を入れて、酒井に笑顔を見せた。
「また明日な!」
そんな凛太朗を見下ろしている酒井が、大きな手で凛太朗の頬に触れた。そっと頬を撫でて、酒井の顔が近づいた。
一瞬ドキリとしたが、キスされそうだと勘違いした昼間を思い出し、もう期待しないぞと自分を戒めた。凛太郎は酒井が何をするのだろうと思いながら、じっと待った。
酒井の顔が、そっと凛太朗に触れた。
正確には、凛太朗の額に唇が触れた。油断していた凛太朗の身体に稲妻が走った。驚きすぎて全身が固くなった凛太朗の頭を、大きな手がナデナデした。
「熱、下がったな。明日も俺が付いてるから」
お邪魔しました、と去っていく酒井を見送った。凛太朗は静かになった部屋にへたり込んだ。
(なんだよ! え? あれ、額に、チューした? えええ?)
よく理解できない混乱に、熱がまた上りそうだと思った。
しかし、もう熱が上ることは無く翌日から凛太朗の体調は整った。
穏やかな酒井はいつもの通りで、額にキスしたのは凛太朗の勘違いなのかもしれないと思うほどだ。
ただ、翌日から酒井は「熱の確認」と言って凛太朗の肌によく触るようになった。額を大きな手で触れたり、首筋を撫でたりする。
酒井に迷惑をかけた経緯があるから仕方ないと思っているが、接触が増えたと思う。だけど、嫌じゃない。
凛太朗に触れる酒井は大きな優しさに満ちていて、安心する。凛太朗を大切にしてくれているのがわかり、満足感が満ちてくる。
それに、凛太朗の体力を心配した酒井が毎日筋トレ十五分と、スイッチの『全員でスポーツ』を三十分一緒にやるプランを立てて来た。食事管理は凛太朗がして、運動管理は酒井だな、と笑い合った。
夏休み終了までで、酒井は計十四キロ減量した。スゴイと思った。
そして、さらにイケメンになった。本気でマッチョ系韓国アイドルになれると思える風貌だ。そんな酒井と十キロ減量ご褒美の映画デートをして、買い物をして、楽しすぎる時間を過ごした。
夏休みがいつまでも続けばいい、と思った。
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