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Ⅳ 停滞期
⑤
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放課後になるといつものように酒井が凛太朗に声を掛けて来た。
「凛太朗、帰ろうよ」
酒井の声に凛太朗は弱く微笑んだ。
「今日は、体育祭の参加者名簿仕上げるから、先帰って」
「あ、じゃ一緒にやる」
「いいから! あ、いいんだ。一人で出来るから」
腹の奥にくすぶる気持ちをコントロールできずに、酒井に上手く向き合えない。酒井は何も言わなかった。一呼吸おいて見上げれば、酒井は少し考えるような顔をしていた。
「今日のホームルーム、凛太朗の準備が万端なことが分かった。あの進行の紙を見たら、さすが凛太朗って思った」
酒井なりにフォローしてくれているのだけど、傷を抉られるように心がズキリとする。
酒井は全部うまくいって、みんなから感謝されているから、きっと凛太朗の気持は分からないだろう。凛太朗は大きくため息をついて、机の上を見た。
「今日は、一人で作業したいから、ごめん」
酒井は少し沈黙のまま静止していた。
しばらくして「うん、わかった」とだけ言って帰った。背中を丸めてとぼとぼ歩く姿を見れば凛太朗は泣きたくなった。助けてもらった酒井に当たる事じゃないと分かっている。分かっているのに、どうにも苦しい感情が抑えきれない。
(僕は、最低だ――)
誰もいない教室で凛太朗は自分のこぶしを握り締めた。
体育祭に向けて慌ただしさが増した。体育祭にヤル気の無かった運動部の人たちが、対抗リレーで負けたくないと盛り上がり始めた。酒井は対抗リレーメンバーに入っている。
「酒井、走る練習しねぇ?」
「あ、うん。いつ?」
「昼めし食って直ぐはキツイだろ。放課後やるか」
「オッケ」
クラスメイトと軽く話す酒井がまるで遠い存在かのように思えて、凛太朗はぼんやり見守った。
「凛太朗? 少しだけ放課後待ってて」
練習に行く前に声を掛けて来た酒井に、凛太朗は弱く首を振った。
「いや、別々に帰ろ。僕は体育祭の準備があるし」
「凛太朗……」
「ほら、対抗リレー選手に入っているんだから、頑張って」
凛太朗は出来るだけ酒井に心の落ち込みがバレないように虚勢を張った。精一杯の笑顔を顔に貼り付けて、泣きたくなるような気持ちを隠した。
クラスメイトは凛太朗に冷たい目を向ける。刺すようなその目線が苦しくなっている。
もともと彼らと会話はしないけれど、彼らは酒井に優しくして、凛太朗には価値が無いと言わんばかりの冷たい態度をする。
目の前でそんな差別的な扱いをされることに心が疲弊する。女子にも男子にも良く思われていない凛太朗と、人気者になっている酒井の、立場の違いが苦しい。
酒井が悪いわけではない。悪いのは、凛太朗だ。でも、酒井と居たくないと思う自分がいる。あまりにも自分が惨めになるから。
酒井といて学校が楽しくなっていたはずが、今は酒井といることが苦しい。
(もう、全部、嫌だ……)
そう思いながら、現状をどうすることもできず唇を噛みしめる日々が続いている。
酒井はそんな凛太朗を困ったような顔で寂しそうに見つめてくる。凛太朗はその視線に応えることが出来ず、目を背けるたびに罪悪感が積み重なる。
――学校、来たくないな。
凛太朗はそんな風に思い始めていた。
「凛太朗、帰ろうよ」
酒井の声に凛太朗は弱く微笑んだ。
「今日は、体育祭の参加者名簿仕上げるから、先帰って」
「あ、じゃ一緒にやる」
「いいから! あ、いいんだ。一人で出来るから」
腹の奥にくすぶる気持ちをコントロールできずに、酒井に上手く向き合えない。酒井は何も言わなかった。一呼吸おいて見上げれば、酒井は少し考えるような顔をしていた。
「今日のホームルーム、凛太朗の準備が万端なことが分かった。あの進行の紙を見たら、さすが凛太朗って思った」
酒井なりにフォローしてくれているのだけど、傷を抉られるように心がズキリとする。
酒井は全部うまくいって、みんなから感謝されているから、きっと凛太朗の気持は分からないだろう。凛太朗は大きくため息をついて、机の上を見た。
「今日は、一人で作業したいから、ごめん」
酒井は少し沈黙のまま静止していた。
しばらくして「うん、わかった」とだけ言って帰った。背中を丸めてとぼとぼ歩く姿を見れば凛太朗は泣きたくなった。助けてもらった酒井に当たる事じゃないと分かっている。分かっているのに、どうにも苦しい感情が抑えきれない。
(僕は、最低だ――)
誰もいない教室で凛太朗は自分のこぶしを握り締めた。
体育祭に向けて慌ただしさが増した。体育祭にヤル気の無かった運動部の人たちが、対抗リレーで負けたくないと盛り上がり始めた。酒井は対抗リレーメンバーに入っている。
「酒井、走る練習しねぇ?」
「あ、うん。いつ?」
「昼めし食って直ぐはキツイだろ。放課後やるか」
「オッケ」
クラスメイトと軽く話す酒井がまるで遠い存在かのように思えて、凛太朗はぼんやり見守った。
「凛太朗? 少しだけ放課後待ってて」
練習に行く前に声を掛けて来た酒井に、凛太朗は弱く首を振った。
「いや、別々に帰ろ。僕は体育祭の準備があるし」
「凛太朗……」
「ほら、対抗リレー選手に入っているんだから、頑張って」
凛太朗は出来るだけ酒井に心の落ち込みがバレないように虚勢を張った。精一杯の笑顔を顔に貼り付けて、泣きたくなるような気持ちを隠した。
クラスメイトは凛太朗に冷たい目を向ける。刺すようなその目線が苦しくなっている。
もともと彼らと会話はしないけれど、彼らは酒井に優しくして、凛太朗には価値が無いと言わんばかりの冷たい態度をする。
目の前でそんな差別的な扱いをされることに心が疲弊する。女子にも男子にも良く思われていない凛太朗と、人気者になっている酒井の、立場の違いが苦しい。
酒井が悪いわけではない。悪いのは、凛太朗だ。でも、酒井と居たくないと思う自分がいる。あまりにも自分が惨めになるから。
酒井といて学校が楽しくなっていたはずが、今は酒井といることが苦しい。
(もう、全部、嫌だ……)
そう思いながら、現状をどうすることもできず唇を噛みしめる日々が続いている。
酒井はそんな凛太朗を困ったような顔で寂しそうに見つめてくる。凛太朗はその視線に応えることが出来ず、目を背けるたびに罪悪感が積み重なる。
――学校、来たくないな。
凛太朗はそんな風に思い始めていた。
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