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榎本 優
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怒りで、目の前が真っ赤になった。人生で初めてのコントロールできない感情。俺の大切な宝物が、告白した出来事。
何か隠しているとは思った。だけど、そういう時には深追いしないほうが良い。俺は理性が強い。感情をだいぶコントロールできる。それは、俺が男性しか恋愛対象にできなかったことに起因している。自分を守るため、身に着けた生きる術だ。また、家が資産家で、投資やら会社の経営やらしていると、帝王学の一環で感情のコントロールも学んでいく。俺は幸いそういった学習は全て完璧に習得ができた。
今の会社は、経営権を持つ株式所有をしている。一応どこか会社には入って社会経験をした方がいいので、経営権・支配権を持つ数社の中から適当に選んで入社した。上層部は俺の事を知っているけれど、面白いから一社員として過ごしている。営業はなかなかに楽しかった。同期が嫉妬の目を向けるのも、面白い。時々、息抜きでゲイバーや同性の子との楽しみを持った。入社試験にも同席した。若い男の子を見られる楽しい機会だった。そんな中で、秋人を見つけた。心が鷲掴みにされた瞬間だった。絶対に採用、と人事部に伝えた。適正試験で向いていないにも関わらず、営業部にした。俺が担当して教育しようとしたら、目の前で高橋に横取りされた。ギリギリする日々だった。
血を吐いて倒れた秋人を見て、悲鳴を上げていた。抱きかかえて、救急車を呼んで! と、取り乱した。
一緒に暮らしてからの秋人は、日々可愛かった。そっと抱きつく仕草。心臓が飛び出そうな喜び。遠慮がちにすり寄ってくる愛おしい秋人。俺の服が大きくて、鎖骨や肩が見える色っぽさ。密かに願っていた彼シャツ。素直に着てくれて、嬉しくて心でガッツポーズだった。秋人がいると、家の中が温かくて、何でもしてあげたくなる。俺の全てを捧げたいと思える存在。まさかの両想いになれるなんて! 心が興奮して、涙が抑えられないなんて初めてだった。秋人は、俺のかけがえのない存在になっていた。
そんな俺の宝物が抱えていた苦しみ。
必死で抱えていたカバンの中身。開けてみて、ぞっとした。クリアファイル。中にカラー印刷。一面肌色の中に目立つ陰毛。縛られて赤く腫れあがった陰茎に、男の指で広げられた後腔。肉壁まではっきり映っている。泣き叫んでいるだろう秋人の顔。ドロドロの液体。一瞬で、分かった。秋人は性的暴行を受けている。
中を見た俺を見て、悲鳴を上げて逃げる秋人。二階の階段から転げ落ちる。待って! カバンを閉めて、上着で覆い隠して置く。走って追いかける。抱きしめた。落ち着くまで、そっと。見てしまったことを、何度も謝った。通行人に、異常な目で見られるが、頭を下げてやり過ごす。刺激しないように、大切に部屋に運んだ。
郵便受けの中身。ご丁寧にクリアファイルに両面にカラー印刷。男根を入れられて、大きく足を広げさせられている。可哀そうなほど泣いている。悲痛な声が聞こえそうな表情。沸き上がる怒りのままに、キッチンにあったハサミでファイルごと切り裂く。玄関で丸くなり、震えて泣いている秋人を見る。怖かったよね。コンロの上に、灰皿。近くにライター。灰皿の焦げ跡。数日前の秋人の手の怪我。全て、納得がいった。きっと秋人がしたであろう焼却をする。秋人の苦しさを思うと、込み上げる涙。一人で、必死に恐怖に耐えていたのか。玄関で震える身体を、丁寧に優しく包み込む。
秋人の苦痛を聞き、俺の中で抱えきれない怒りが芽生えた。許すものか。全員、逃げられると思うなよ。
問題は、数年たって、今、この写真が出てきたことだ。何らかの方法で秋人を追いつめている奴がいる。秋人を犯した四人か、別の誰かがいるのか。慎重に調べよう。
誰であろうと、絶対に許さない。
そのまま俺のマンションに連れ帰った。タクシーも面倒で、車を呼んだ。資産管理のために、俺の会社を作ってあり、私生活面でのサポートも業務にしてもらっている。そのあたりも、落ち着いたら話していこう。
夕食に卵がゆを作った。出汁も丁寧にとった。秋人を体の中から癒せるように、願いを込めて。
「美味しい」
一口食べて小さな声を出し、微笑む。
「秋人、一度胃炎の病院に行こう。薬飲んでいなかったよね。吐いたり、胃が痛かったりしていたんじゃない?」
下を向いて、コクリと頷く。
頬を触る。痩せた頬。数日前は、ピンク色に染まっていた頬。もう少し早くに気がつけばよかった。
「すみません。でも、もし、デスクにまたって思うと、休むのは、怖いんです。それに、自宅も気になって」
「大丈夫。フリーデスク化しようかと会社で検討中。先行で、総務部に導入になったよ。どのデスクに、誰が座るか分からなければ入れようがない。自宅は、毎日俺が見に行く。不安なら、ココに引っ越ししちゃえばいいし。だから、ちゃんと治療して休養して、回復しよう」
「フリーデスク、ですか?」
「知らない? どのデスクに誰がいるって固定しないんだよ。パソコンも荷物も、デスクには置かない。鍵付きロッカーを部署に配置して、そこから出し入れ。朝来た人が、好きな場所に陣取る。コミュニケーション不足の解消と、セキュリティー改善に良いんだって」
「そうなんですね。そんな話、あったんだ」
知らなかったとつぶやく秋人。知らなくて当然。急遽、他の会社で行っているフリーデスク化を思いついた。秋人の不安を取り去るために。即導入しようと心に決めた。
あの四人の詳細調査は、俺の会社経由で信頼のできる探偵業者に依頼した。会社の管理職数名に、現状を伝えた。俺の会社の者なら信頼できる。協力者は必要だ。総務部総務課に契約職員として一名潜り込ませることになった。秋人の総務課周辺を見張らせる。また、会社内で秋人に関わる者の調査も依頼した。画像の流出や、相手の目的、調べなければ動けないことが沢山ある。秋人が気づかないように、裏で動かなくては。俺は、自分に財力や多少の力があることに心から感謝した。大切な人を守るために使える。俺が、守る。
何か隠しているとは思った。だけど、そういう時には深追いしないほうが良い。俺は理性が強い。感情をだいぶコントロールできる。それは、俺が男性しか恋愛対象にできなかったことに起因している。自分を守るため、身に着けた生きる術だ。また、家が資産家で、投資やら会社の経営やらしていると、帝王学の一環で感情のコントロールも学んでいく。俺は幸いそういった学習は全て完璧に習得ができた。
今の会社は、経営権を持つ株式所有をしている。一応どこか会社には入って社会経験をした方がいいので、経営権・支配権を持つ数社の中から適当に選んで入社した。上層部は俺の事を知っているけれど、面白いから一社員として過ごしている。営業はなかなかに楽しかった。同期が嫉妬の目を向けるのも、面白い。時々、息抜きでゲイバーや同性の子との楽しみを持った。入社試験にも同席した。若い男の子を見られる楽しい機会だった。そんな中で、秋人を見つけた。心が鷲掴みにされた瞬間だった。絶対に採用、と人事部に伝えた。適正試験で向いていないにも関わらず、営業部にした。俺が担当して教育しようとしたら、目の前で高橋に横取りされた。ギリギリする日々だった。
血を吐いて倒れた秋人を見て、悲鳴を上げていた。抱きかかえて、救急車を呼んで! と、取り乱した。
一緒に暮らしてからの秋人は、日々可愛かった。そっと抱きつく仕草。心臓が飛び出そうな喜び。遠慮がちにすり寄ってくる愛おしい秋人。俺の服が大きくて、鎖骨や肩が見える色っぽさ。密かに願っていた彼シャツ。素直に着てくれて、嬉しくて心でガッツポーズだった。秋人がいると、家の中が温かくて、何でもしてあげたくなる。俺の全てを捧げたいと思える存在。まさかの両想いになれるなんて! 心が興奮して、涙が抑えられないなんて初めてだった。秋人は、俺のかけがえのない存在になっていた。
そんな俺の宝物が抱えていた苦しみ。
必死で抱えていたカバンの中身。開けてみて、ぞっとした。クリアファイル。中にカラー印刷。一面肌色の中に目立つ陰毛。縛られて赤く腫れあがった陰茎に、男の指で広げられた後腔。肉壁まではっきり映っている。泣き叫んでいるだろう秋人の顔。ドロドロの液体。一瞬で、分かった。秋人は性的暴行を受けている。
中を見た俺を見て、悲鳴を上げて逃げる秋人。二階の階段から転げ落ちる。待って! カバンを閉めて、上着で覆い隠して置く。走って追いかける。抱きしめた。落ち着くまで、そっと。見てしまったことを、何度も謝った。通行人に、異常な目で見られるが、頭を下げてやり過ごす。刺激しないように、大切に部屋に運んだ。
郵便受けの中身。ご丁寧にクリアファイルに両面にカラー印刷。男根を入れられて、大きく足を広げさせられている。可哀そうなほど泣いている。悲痛な声が聞こえそうな表情。沸き上がる怒りのままに、キッチンにあったハサミでファイルごと切り裂く。玄関で丸くなり、震えて泣いている秋人を見る。怖かったよね。コンロの上に、灰皿。近くにライター。灰皿の焦げ跡。数日前の秋人の手の怪我。全て、納得がいった。きっと秋人がしたであろう焼却をする。秋人の苦しさを思うと、込み上げる涙。一人で、必死に恐怖に耐えていたのか。玄関で震える身体を、丁寧に優しく包み込む。
秋人の苦痛を聞き、俺の中で抱えきれない怒りが芽生えた。許すものか。全員、逃げられると思うなよ。
問題は、数年たって、今、この写真が出てきたことだ。何らかの方法で秋人を追いつめている奴がいる。秋人を犯した四人か、別の誰かがいるのか。慎重に調べよう。
誰であろうと、絶対に許さない。
そのまま俺のマンションに連れ帰った。タクシーも面倒で、車を呼んだ。資産管理のために、俺の会社を作ってあり、私生活面でのサポートも業務にしてもらっている。そのあたりも、落ち着いたら話していこう。
夕食に卵がゆを作った。出汁も丁寧にとった。秋人を体の中から癒せるように、願いを込めて。
「美味しい」
一口食べて小さな声を出し、微笑む。
「秋人、一度胃炎の病院に行こう。薬飲んでいなかったよね。吐いたり、胃が痛かったりしていたんじゃない?」
下を向いて、コクリと頷く。
頬を触る。痩せた頬。数日前は、ピンク色に染まっていた頬。もう少し早くに気がつけばよかった。
「すみません。でも、もし、デスクにまたって思うと、休むのは、怖いんです。それに、自宅も気になって」
「大丈夫。フリーデスク化しようかと会社で検討中。先行で、総務部に導入になったよ。どのデスクに、誰が座るか分からなければ入れようがない。自宅は、毎日俺が見に行く。不安なら、ココに引っ越ししちゃえばいいし。だから、ちゃんと治療して休養して、回復しよう」
「フリーデスク、ですか?」
「知らない? どのデスクに誰がいるって固定しないんだよ。パソコンも荷物も、デスクには置かない。鍵付きロッカーを部署に配置して、そこから出し入れ。朝来た人が、好きな場所に陣取る。コミュニケーション不足の解消と、セキュリティー改善に良いんだって」
「そうなんですね。そんな話、あったんだ」
知らなかったとつぶやく秋人。知らなくて当然。急遽、他の会社で行っているフリーデスク化を思いついた。秋人の不安を取り去るために。即導入しようと心に決めた。
あの四人の詳細調査は、俺の会社経由で信頼のできる探偵業者に依頼した。会社の管理職数名に、現状を伝えた。俺の会社の者なら信頼できる。協力者は必要だ。総務部総務課に契約職員として一名潜り込ませることになった。秋人の総務課周辺を見張らせる。また、会社内で秋人に関わる者の調査も依頼した。画像の流出や、相手の目的、調べなければ動けないことが沢山ある。秋人が気づかないように、裏で動かなくては。俺は、自分に財力や多少の力があることに心から感謝した。大切な人を守るために使える。俺が、守る。
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