性欲と恐怖と愛情と、君

小池 月

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解決と愛

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 消化器科を受診した。内服薬を守らなかったことを怒られた。胃炎が悪化して、二週間の自宅療養。消化器科の医師に、睡眠剤は必要か、心療内科にかかってみないか、安定剤を使ってみないか、と勧められた。どれも断った。心が病んでいると思われたんだろうか。いや、僕はもう精神的に病んでいるのかな? よく分からなくなっていた。

今の目標は、体重を少し増やすこと。一人で抱えて苦しかったときより、だいぶ気持ちが楽だ。不安になると、どこまでも怖い思いが付きまとうから、深く考えない。
優さんが、「体重を三キロ増やしてごらん。それが今の目標だね」と決めてくれた。数字があると分かりやすい。しばらく食べてなくて、胃になかなか食べ物が入らない。それでも、少しずつ食べられるようになってきた。胃が痛むときは、吐いてしまうから要注意。吐いたら太れない。ダイエットの方法は書いてあるけれど、太り方って難しい。胃が受け付けないから、食べたいものが少し。そうか、やっぱり胃を治すことが先なんだな、やっとそう思えた。

主任は会社に出勤している。朝見送って、僕は出来るだけ身体を休める。時々ストレッチなんかして、のんびりしている。残業なしで帰宅する主任の夕ご飯を作り、形だけでも一緒に食べる。今日の体調を話し、会社の様子を聞く。写真のことと、僕が告白した件については一切話題に上がらない。まるで無かったことのように、穏やかな時間。主任が映画をいくつか用意してくれて一緒に食後に鑑賞して、早めにベッドに入って寝る。優さんに抱きしめられて、柔らかな感情に包まれると、僕はしんどかったんだ、と感じる。辛い中にいると、頑張るしかなくて自分が限界を超えているのか分からなくなる。いや、分かっていても走り続けてしまう。そこから少し抜けだすと、やっと客観的に把握できる。主任の腕で、救い上げてもらえたと思う。主任に、優さんに出会えてよかった。今日も優しさに満たされて瞼を閉じる。
二週間。ゆっくり過ごした。体重は毎日測るけれど増えなくて、減っているとガッカリな日々。体重計と格闘していて、気持ちが楽だった。余計なことは忘れていられた。消化器内科でも治癒が順調な事を告げられた。仕事もいいでしょう、と許可が出た。職場がどうなっているのか、写真の心配が本当にないのか確認したかった。主任にはそのまま辞めてもいいと言われたけれど、社会人としてそうは行かない。

「おはようございます。長らくお休みをいただき申し訳ありません」
課長と職場のみなさんにお菓子を配り挨拶に回る。今日から復帰。主任にはすごく止められたけど、僕の責任は果たしたい。僕の職場だ。皆、僕の心配をしてくれてありがたかった。あと、新しい人がいた。契約社員の杉本さん。無理しないでください、と優しい年上男性。僕の仕事を担当してくれていた。全回復になるまでは一緒にやらせてください、と優しい言葉をスッと言える大人の人。僕なんかより正社員のようだ。大人の落ち着きに見惚れてしまった。申し訳なさと恥ずかしさ。下を向いてやりすごす。
 職場はデスクの入れ替えがされていた。大きな一枚板のデスクがドーンと二列。引き出しもない。デスクと椅子だけ。壁に鍵付きロッカーがあり、私物はそこに収納。毎日そこからノートPCを出して好きな位置に着く。例の写真を入れられる心配も無かった。心から安堵した。

相変わらず総務カウンターに立ち寄り、
「下村君、領収書お願いします」
と榎本主任が来る。呼ばれると笑いが漏れてしまう。笑みを噛みしめカウンターに行くと、「かわいい」と周りに聞こえないように囁く主任。僕の顔が熱を持つから、平気になるまで席に戻れず主任の対応。
「もう、僕の顔、大丈夫ですか?」
「あ、まだ駄目だね」
この繰り返しを何度かする。以前のように秘書課の人が寄ってこない。皆、カウンターの対応を気にせず仕事をしているから、ちょっと長くなっても気にならなくなった。

 残業もなく、同じく残業なしで迎えに来る主任と帰る日々。総務課では、僕と主任が一緒に暮らしているのを、皆知っていた。義兄弟らしい、なんて噂もある。主任からは、そこは聞かれても曖昧に濁しておけばいいと言われている。

 穏やかな日々だ。仕事量も多くない。杉本さんが出来る人で助かっている。能力の高い人で、なぜ正職員でないのか不思議。他の人との会話で、他にやりたいことがあると言っていた。すごい人だとぼんやり思った。
良かった。きっと全部終わったんだ。安定した日々に不安が薄れて、胃の調子も良くなった。食べることが楽になった。体重が二キロ増えた。目標の三キロ増やすまで、あと少し。自分の体調にゆっくり向き合える日が続いた。

 ある日、職場の廊下で高橋先輩に呼び止められた。トイレで吐血してから総務に高橋先輩が来ることは無かった。あれから会っていなかったのに。びっくりして頭を下げる。
「下村君、大きな声じゃ言えないけど、営業に君宛の郵便が来た。君が不在で中を確認させてもらった」
小声で話された内容に、心臓がドクリと鳴った。中を、見たの? 驚きと恐怖で腕が震える。知られてしまった? 
「俺の言いたいこと、分かる?」
心臓の音が、大きく聞こえる。身動きが出来ない。
「写真、すごいね」
悲鳴を上げそうになり、自分の口を手で押さえる。
「周りに知られたくなければ、午後二時に三階の資料室に」
震える事しかできず、コクコクと頷く。
「一人で来るんだ。榎本に知らせたら写真を全社員に一斉メールするから。そうしたら、君と仲がいい榎本も変態扱い、かな?」
返事も出来ず、口を押えて震える。僕の顔を覗き込む高橋先輩の顔は、にやりと笑っていた。怖い。この表情は、知っている。大学の頃の、友人が豹変したときの顔。倒れそうになる身体を、壁を支えに持ち直す。楽しそうに去っていく高橋先輩。
しばらくそこから動けなかった。心臓がバクバクと恐怖の音を鳴らしている。優さんに、相談したい。でも、高橋先輩が一斉メールしちゃったら、どうしよう。怖い。どうしたらいい? 
「どうかしました?」
急に声がかかり、身体がビクっと大きく震えた。振り返ると、杉本さん。さっきまでの震えが引かず、すぐに反応が出来ない。
「調子、悪いですかね?」
「あ、あの、そう。ちょっと、眩暈です。大丈夫です。すみません」
「医務室に行きますか?」
「いえ、本当に、大丈夫です。すみません」
手を握りしめ、身体の震えを隠す。下を向いてデスクに戻り、午後の予定を確認する。今日は何もない。良かった。
「課長、午後少し抜けます。営業の先輩に呼ばれています」
「引継ぎ忘れかな? わかりました」
すんなり許可が出て良かった。詳しく聞かれたらどうしようかと心臓が音を響かせていた。
ほっとして席に着くと、横に座る杉本さんと目が合った。軽くお辞儀をして、自分のパソコンに向き合う。不安で仕事は全く進まなかった。

 午後一時五十分。三階の資料室。法的保存期間のある契約書類や会議録、社員の個人情報から社報など、各部署の捨てるには困るけれどすぐに使わない資料を置いてある。出入りには社員証のICチップと暗証番号が必要。部署ごとのカギ付き棚と、資料閲覧用に広いテーブルが真ん中にある。十人ほどで小会議も出来るようなデスク。椅子に座って待つこともできず、ソワソワと出入口付近で高橋さんを待つ。
二時を過ぎて、ガチャリと入ってくる人。ゆっくり入ってくる人を、ただ見つめた。

「ちゃんと一人だな。榎本に言ってないか?」
「……はい」
怖くて、身構える。目の前のデスクに、バサッと広げられた書類。いや、書類じゃない。全部、僕の、あの写真。反射的に、デスクに覆いかぶさるようにしてかき集めた。
「必死だな。そりゃそうか。こんなスッゴイ写真、ばらまかれたくないよな。下村君、見かけによらず大胆だな。俺、無修正って初めて見るよ。こんな大人のオモチャくわえ込んじゃって」
目の前にほぼ肌色の写真が見せつけられる。心臓が鳴り響いて、怖くて、涙が止まらない。
「俺さ、今どこにいると思う? 営業部から外されて情報システム部だよ。これだけ営業に献身してきた俺が、下村君への高圧的指導が問題だって左遷だよ。出来の悪いお前のせいで左遷されたんだよ!」
パンっと音がした。涙が飛んだ。目が揺れる。よろけてデスクにしがみつく。かき集めた紙が散らばる。頬がジンと熱い。床に膝をつくと、そのまま足で蹴られて、転がる。怖い。怖い。心臓が張り裂けそうなほど鳴り響いている。高橋先輩から、目が離せない。荒くなる呼吸と止まらない涙。近づく高橋先輩から、床を這って逃げようとする。首元を掴まれて、引きずり起される。そのままテーブルに叩きつけられて、ドンっと大きな音。
「い~!」
堪えようとしてけれど、唸るような声が漏れてしまった。
「声上げたら誰か助けに来るかもよ? ただ、この写真は全部見られちゃうかもなぁ!」
デスクに押さえつけて、上から楽しそうに笑っている。震えが止まらない。息が苦しくなる。怖い記憶も蘇る。
「俺、男なんて興味なかったけど、下村君の変態写真見たら興味湧いたよ。面白そうだ。ここで写真の実演、してみせろよ」
いやだ、いやだ! 首をぶんぶん横に振り、拒絶の意思を伝える。恐怖で言葉にならない。デスクに押さえつけられたまま、今度はグーで顔を殴られた。目の前に星が飛ぶ。耳でビーンと変な音が響いている。痛みで全身の力が抜けた。ビリっと音がして、服が裂かれているのが分かった。頭が揺れていて、抵抗できない。
 ガチャリ、と音がする。
「何しているんだ!」
「秋人!」
優さんだ。優さんの声だ。恐怖の涙が、安堵の涙に変わる。駆け寄る主任に、しがみついて泣いた。すぐに上着をかけてくれる。大きな上着に隠すように包み込まれた。写真を集めてくれる主任を見ていた。ふと高橋先輩を見ると、杉本さんに押さえられている。杉本さんと主任が何か話しているのを、ただ茫然と見ていた。何も頭に入ってこなかった。

 どうやって帰宅したのか、分からなかった。温かい飲み物を渡されて、手に染みこむ温かさに、やっとここが会社じゃないと気が付いた。顔を上げると、優さんが僕を見ている。
「あ……」
主任の家だ。いつものソファー。目線を上げた拍子に、マグカップの温かい液体がこぼれる。
「あつっ」
「大丈夫?」
すぐにコップを受け取り、火傷してない? とタオルで拭いてくれる。実際は、それほど熱くはなかった。ぬるいくらいの温度。
「大丈夫、です」
一言を発して、顔に違和感。触ってみると殴られた頬に冷却シートを貼ってある。全然気づかなかった。
「秋人。もう全部、終わったよ。大丈夫だ」
優しい顔を、見つめる。
「怖かったね。もう心配いらないよ。大学の元友人たちから写真を買収したのは高橋だ。高橋は俺への嫉妬が強かった。勘が鋭くて、俺が秋人を気に入ったのもすぐに分かったようだ。結局、秋人を追いつめていたのは俺の責任かもしれない。本当にごめん」
意味が分からなくて、ただ聞いていた。
「俺、人より恵まれていることを面白がっていたところがある。でも、それが懸命に頑張る人の癪に障ることになったんだ。その嫉妬心が、結果として俺の大切な人への攻撃に変わった。高橋は、営業努力の高い出来る男だったんだ」
辛そうな顔をする優さん。
「秋人、許してくれ」
「あの、よく分かりません。優さんに謝ってもらうことは、ないと思います。僕は沢山助けてもらっているから」
そっと僕を抱き締める優さんが辛そうで、僕も抱きしめた。
「……肩が、痛い、です」
抱き締められて、痛みがあることに気が付いた。手でかばう様に押さえる。
「え? どこ?」
ボタンの外れたシャツをめくると、左鎖骨下が、赤黒く腫れている。
「ゴメン! 気づかなかった! 他には?」
「顔とここだけ、です」
病院に行こう、と言う優さんに、とりあえず休みたい、と伝えた。
 抱き上げられて、一緒にシャワーを浴びる。何かあったら怖い、と優さんが傍に付きっ切り。もう写真で全部見られているし、いいかと思ったけど恥ずかしい。僕が思うほど性的な目で見ていないようで、全身くまなく怪我がないか、打撲がないか確認していた。背中にも青あざがあるみたいだけど、顔と鎖骨の下が一番ひどいようだった。熱を持ったら腫れるから、と入浴はしない。泡で包み込まれるように洗われた。優さんもさっと自分を洗い、一緒にシャワーで流して出る。
性的な態度を見せない優さんの陰茎が、勃起していた。

 翌日は、整形外科。念のため暴行の証拠に診断書がいる、と連れていかれた。骨に異常はなく、打撲で済んだ。車の運転を契約社員の杉本さんがしてくれた。意味が分からなくて、ただ見つめた。
「色々と、あとで話すね」
主任にコクリと頷き返した。

 会社、休んでばかりだ。どうして普通に生きることが出来ないのだろう。車の外の流れる景色と往来する人を見て、何とも言えない苦しい気持ちがこみ上げた。主任は、優れているから普通の道から飛び出ているのだろう。僕は劣っているから普通の道に入れない。その違いに、涙がジワリと目に溜まった。見られないように、こぼれないように顔を窓に向けた。
喉が焼けるような気持ちを、飲み下した。

 主任は営業部をやめた。自分が経営権を持つ者であると周知し、会社の専務取締役の役職に就いた。高橋さんは、関西支部に転勤になった。やめさせるより社に置いた方がいい、と優さんの判断。写真は回収してくれた。今回の暴行を表に出さない代わりに、データーをすべて渡すこと、拡散などの行為を一切禁じることで取引したらしい。書面上で意思確認をしたと見せてくれた。大学の時の四人とも全員話をしたようだ。現在の勤め先は全員が優さんの関係するところで、データーの回収経緯も高橋さんとの関係もすべて判明した。高橋さんの従弟が四人の中に居たらしい。
四人には社会的な制裁をきっちり受けてもらう、と優さんが言っていた。いつか見た、顔は笑っているのに目元が本気の顔だった。

 毎日の優さんの報告に、物語を聞いているような非現実感だった。僕が、主任の家で静養をしている数日で物事が動いていた。主任は、いや、専務はほとんどをマンションの書斎で仕事をしている。時々数時間外出して、早めに戻る。マンションには、杉本さんやスーツの男性が出入りするようになった。皆、丁寧に僕に頭を下げてくれる人たち。この人たちは、優さんの資産運用をしている会社の人らしい。杉本さんも、この会社の人だった。優さんは自分を恵まれていると言ったけれど、本当にそうなのだと分かった。

 「バタバタしてごめんね」
夕食後のコーヒータイム。僕はホットココア。
「お疲れ様です。忙しそうですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。自分の立場で自分の仕事をしようと決めたから」
ソファーで横並びに座りながら、僕の頭を撫でる。優しい手が気持ちいい。
「秋人、どうする? ケガが良くなったら会社戻る?」
「どうしたらいいのか、分かりません。でも、働くことは必要かなって思います」
「生きて行くために?」
「はい」
ずっとここで甘えていくわけに行かない。
「秋人、俺のことは、まだ好き?」
「……はい。僕みたいなのが身の程知らずで、すみません」
助けてもらってばかりで、何もできずに傍にいる出来損ないで、それなのに好きな気持ちは消えてくれない。申し訳なくて、下を向く。
「あの、優さんに他に恋人や結婚する相手が出来るなら、僕はすぐに消えます。迷惑かけないようにします。気持ちが落ち着くまで、もう少しだけ一緒に居ても許していただけますか?」
覚悟を決めて、伝える。撫でていた手が止まる。
「秋人。俺の気持ち分かっている? 俺は秋人を愛している。生涯を共にしたい。俺の前から秋人が消えるなんて、ありえない。そんなこと考えるなら、俺の傍から少しも離れないように、閉じ込める」
優しい優さんのセリフとは思えずに、驚いて横の優さんを見る。いつもの笑みは消えて、真剣な顔で僕を見ている。
「秋人は、俺の恩人だよ。俺、自分の立場を隠して、面白がって営業にいて、きっと気が付かないうちに優越感に浸って周りを見下していた。そうして高橋を追いつめた。人には自分の立場や力量にあった生き方があるんだ。自分にやるべきことがあるんだろうね。そこに向き合わなかった自分の幼さに気づくことが出来た。これは秋人のおかげだ。俺は自分の立場を受け入れて、自分の力で出来ることを精一杯することにした。そう思えたのは、秋人のおかげ。苦しみながら精一杯生きている秋人が大切で大好きだ」
「それは、きっと優さんが人として優れているだけです。僕に関係ないと思います。僕は汚い、ただの出来損ないです」
優さんの目線が強くて、背中を丸めて下を向く。消え入りたい。
「秋人、好きだ」
そっと、抱きしめられて、触れるだけのキスが二回。久しぶりのキス。心臓がトクリと鳴り頬が熱を持つ。優さんの整った顔を見つめる。
「秋人、俺と養子縁組してくれない?」
「え?」
「俺の戸籍に秋人を入れたい。伴侶になりたい。性的な事が怖ければ一生しなくていい。ただ、傍で一緒に生きたい」
僕を抱き締めて、優しい言葉が降ってくる。涙がこぼれる。僕は両親と死に別れ、友達に裏切られ、会社では出来損ないで、生きることを諦めたくなっていた。人生に、疲れていた。だけど、僕の好きな人が僕と一生を共にすると言ってくれる。
堪えきれずに嗚咽が漏れた。これまでの色々な感情が爆発するように、声をあげて泣いた。僕を抱き留めてくれる優さんに、全てを委ねようと決めた。

 「僕を、優さんのパートナーにしてください。優さんと一緒なら、ずっと幸せです」
泣きつかれたころ、そっと伝えた。

 翌日、二人で優さんの実家に行った。ご両親に同性愛者だとバレてから、優さんは家を出ているそうだ。その後はメール連絡程度しかしていないと。大きなお宅に、家政婦さんがいるご家庭に緊張した。
優さんのご両親は優しかった。すでに受け入れているんだ、と。でも、優さんが人生を孤独に生きるのではないか、と心配していたらしい。世の中は、同性愛のいいパートナーに出会えない率の方が高いらしい。ご両親は色々調べていた。優さんを理解する努力をしていたのが分かった。
僕を見て、僕といる優さんを見て、安心したと言ってもらえた。僕は挨拶の一言しか喋れず、終始緊張していただけなのに。
ただ、会社経営やら社会的立場から、表向きは義兄弟としてほしい、と言われた。伴侶と公開すると株価影響や取引先など、日本ではまだ厳しい目で見られると。異母兄弟であるとして、ご両親の籍に義弟として入ることで血縁者になる提案もされた。優さんは、考えると言っていた。僕にはついていけない話だった。
絶対に否定されると思っていたのに、受け入れられて話が先に進む現実を、ドキドキしながら見つめていた。
最後に、二人で時々顔を見せなさい、と声をかけてもらえたことが嬉しかった。優さんを見ると、今日一番の満面の笑みで「ありがとう」と伝えていた。優さんのお母さんが泣いていた。
すごく綺麗な光景だった。
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