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愛する人と生きる
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怒涛のような日々。周囲が一気に動いて、ちょっとついていけない。殴られたあとが完治するまでは会社にも行けないから家の中で過ごした。優さんの仕事の書類整理やパソコン入力作業を手伝う。出入りするスーツの男性たちは、優しく仕事を教えてくれる。単純作業だけなのに、頬を染めて優さんが「ありがとう。助かるし、やる気が出る」と言ってくれる。僕の方が嬉しくて、心臓がモゾモゾするくすぐったさ。もっと優さんの役に立ちたいな。でも、優さんに依存しすぎたらダメだ。少し自立していないと。
「秋人、少しチャージさせて」
最近の優さんはバリバリ仕事をして、夕食後に僕に少し甘える。コレに胸がキュンとする。僕の膝枕で、大きな優さんが猫のようになる。たまらなく可愛い。柔らかな髪や逞しい背中を撫でていると、全身の力を抜く。重いけれど僕は男だし短時間なら耐えられる。十分もせずに、起き上がって僕の上に覆いかぶさるようにしてキスをする。愛おしくてそっと優さんに腕を回す。自然と頬が緩む。
「良い顔だ。秋人が笑っていると安心する」
「優さんと居ると幸せだからです」
「可愛いな」
もう一度、深いキス。口の中に舌が入る。気持ちいい。背筋をゾクリと這い上がる何か。夢中になっているうちに、そっと僕の陰茎をズボン越しに優さんが触る。はっとした。固くなっている僕のモノを、知られてしまった。悪いことがバレたような妙な緊張。心臓が冷えた血液を送り出す。一気に熱が引く。上からのぞくようにしていた優さんを、見る。
「ごめん」
申し訳なさそうに僕の横に座りなおす。どうしていいのか分からず、下を向いて小さく震える。優さんじゃないか。怖い人じゃない。高橋先輩でも大学のあいつらでもない。優さんなのに。どうして身体が震える? 混乱で、気が付いたら涙が流れていた。
「ごめん。秋人、大丈夫?」
「大丈夫、です。すみません」
堪えきれない気持ちが溢れる。
「俺が悪い。性的な事はいいなんて綺麗ごと言って、こんなことして。本当にごめん」
違う。そんな悲しそうな顔をしてほしくない。過剰に反応してしまう僕がいけないんだ。ごめんなさい。言葉にならず涙を流す。そっと優しく僕を撫でてくれる。
しばらくソファーから動けなかった。
「あの、すみません。優さんを、満足もさせてあげられなくて……」
下を向いたまま、申し訳なさに謝罪する。変な汗が出る。
「満足しているよ。俺が変な欲が出ただけ。怖がらせるつもりはなかった」
「優さんです。怖くない、です。僕のどこかがおかしいんです。優さんだって思っても、身体が、言うこと聞いてくれないんです」
「うん。それがPTSDという状態じゃないかな」
PTSD? ニュースで聞いたような言葉に顔を上げる。
「秋人は大学の時の強いストレスから、気づかないうちにずっとPTSDの状態にあったと思う。精神科医の知り合いにも相談した。精神安定剤の内服も勧められたけれど、こればかりは秋人の意思が大切だから。あとは認知療法で、起きたことを自分で受け入れていくカウンセリングも勧められた。だけど色々な出来事を、また人に話すことは苦しいだろう? 性交は、本当は辛い行為じゃないんだ。相手を慈しむためにある。大切だって全身を使って伝え合うんだ。それが、いつか理解してもらえたらいい。性欲の欲は、本当は尊い欲だと思うよ。俺はいつまでも、一生待つ覚悟をしているよ。安心して」
「僕は、性的な事は苦痛と恐怖しかわかりません。愛されることなんて、慈しむセックスなんて、知りません」
「少しずつ、愛されること経験してみる?」
「はい」
「ゆっくり、ね。焦らずに、怖かったり、嫌なら、すぐにやめよう」
お風呂に一緒に入っている。高橋先輩の事件の後、事務的に洗ってもらっていた時と違う。裸で抱きしめ合って、キスして。温かいから身体が震えない。優さんの顔を見て、目を合わせると心臓が高鳴る。優さんの、この顔。これは色っぽい、という表情だ。直接触れあう肌で優さんの優しさと安心を感じる。優さんの鼓動も、息使いも、伝わってくる。優しい大きな存在に、身体を預ける。すごく、気持ちいい。身体の向きをそっと変えてくれて、優さんの膝の上に乗って背中を預ける格好。背中に優さんの固いモノが触れている。でも、怖くない。恥ずかしくて、ふふっと笑う。
「なに?」
「固いです」
「そりゃ、好きな人とのラブラブ風呂だからね」
ぷはっと噴き出して笑った。
「言い方に歳を感じます」
「失礼な。まだ二十代だ」
優さんが手で湯面をパシャリとはたく。僕の顔に湯がかかる。
「やったなぁ」
優さんの膝から降りて、湯の掛け合いになる。何しているのか分からなくなり、久しぶりに声をあげて笑った。のぼせそうで、暑い暑いと支え合いながら出る。おかしくて笑いながらお互いを拭く。まだ立ち上がっている優さんのモノが魅力的に見えて、そっと触る。
「こら。イタズラ小僧」
「さっきの、どこに興奮したんですか?」
「だから、ラブラブ風呂に、だよ」
またしても噴き出して笑った。全然怖くない。優さんの肌、筋肉、固い身体。生命力に満ちた魅力的な男性だ。ドキドキして、目の前の湯気の立つ肌に頬を寄せる。心臓の拍動。そっと抱きしめられる。ちゅうっと肌に吸い付いてみる。これは僕のだ。ムズムズする気持ちのままに、レロと舐めてみる。美味しい。温かい気持ち。優さんが僕を抱き締めてキス。
「可愛いイタズラ小僧だ」
ふふっと笑う顔に、胸がドキリとする。カッコいい。
その日から毎日お風呂に一緒に入る。三日目で、お互いのを擦り合って、出し合った。こんなに気持ちいい射精は初めてだった。性器の大きさに、逞しい身体にドキドキが止まらない。胸が高鳴るけれど、嫌な気持ちはしない。優さんの言っていた、性欲は尊い欲なんだってことが分かってきた。甘えてふざけ合うのも楽しい。優さんに触るたびに、愛おしさと独占欲とが織り交ざる。
もう顔の青あざも消えた。高橋先輩の事件から二週間。優さんと触れ合うのも、一緒のお風呂も怖くない。特別な時間になっている。
「どう? 嫌な気分にならない?」
湯船の中、膝に乗せられて抱きしめられて聞かれる。毎日、裸で触れ合っていて嫌な気持ちは全然しない。怖くない。それどころか、こういう行為にドキドキしてくる。じゃれ合うみたいな、心をさらけ出しているような気持ち。優さんを僕のすぐ近くに感じる時間。優さんの肌はいつまでも触っていたい。
「大丈夫です。優さんとの、この時間は満たされる時間です」
「じゃ、もう少し先に進んでいい?」
「はい。できたら、その、いけるところまで」
恥ずかしくて、下を向いて伝える。「かわいい」と頭にキスが降りてくる。抱きしめられて一緒にお風呂から出る。バスタオルにくるまれてベッドルームに運ばれる。
「優さん、力持ちですね」
「秋人が軽いんだよ。もっと太るべきだ」
あはは、と笑いながらキスをする。僕の上半身を手のひら全体で撫でまわされる。ふと、優さんの親指が胸の突起を、円を描くように触る。腰のあたりがモゾモゾする。急に爪でカリっと引っ掻く。小さく喉で声が上がる。腰に来る。必死にやり過ごそうとしても、摘まれて芯を確かめるようにグリグリされると、たまらなくて背筋が反る。腰が揺れる!
「秋人、綺麗だ」
降り注ぐ優しい声に、閉じていた目を開ける。僕を見る、優しい顔。心臓がトクトク鳴り響く。怖くないことが嬉しくて涙が滲む。そっと目元にキス。優さんはどこまでも温かい。包み込むように僕のモノを口に含まれる。自然とそれを見つめていた。僕は、何回も殴られながらやらされた行為。優さんは貴重な宝石を舐めまわすように、僕のモノに吸い寄せられているみたい。綺麗な行為だ。気持ちよさに声を漏らしながら、光輝いているような優さんから目を離せない。時々僕を見る目が、優しく微笑む。それだけで、顔が沸騰したように熱くなる。でも、イキそうになるのを堪える。僕が飲まされた時の苦しさを知っているから。
「何か、気になる?」
一度、僕のから口を離して優さんが問う。荒く息を整えながら正直に答える。
「僕は、口で、するとき、殴られて苦しかった。飲めって言われて、吐き戻した。あの気持ち悪さを、優さんに、味わってほしくない」
言ってみて、涙がこぼれた。
「気持ち悪いかな? 俺の、舐めてみる?」
ドキリとした。優さんの、綺麗にそそり立つ大きなモノ。先端がテロリと光り、美しい。ごくりと唾液を飲み込む。舐めて、いいのかな?
「まず、触ってごらん。気持ち悪い?」
ドキドキしながら、そっと包み込む。目が離せない。熱が、拍動が伝わってくる。
「綺麗です。優さん、すごい……」
引き寄せられるように、頬ずりする。生暖かくて、湿った皮膚が、匂いが心臓をくすぐる。コレ、舐めていいんだ。ドキドキしながら、先端をぺろりと舐める。苦みのある味。夢中になってレロレロ嘗め回した。
ぐいっと体を起こされて、我に返る。
「ほら、綺麗なものに吸い寄せられるでしょ。愛している人のは、全てが尊く思えるんだよ。気持ち悪い事なんてない。秋人の全てが欲しくなるし、全てを愛したいと思うんだ。苦しくもなければ、強制されることでもない。お互いに尽くして、お互いに捧げ合えばいい」
そうか。捧げればいいのか。ストンと心に入る言葉。僕が知らなかったこと。優しい言葉に、涙が溢れる。
「僕は全てを優さんに捧げます。愛しています」
涙がほろりと流れた。そうか。セックスってこういうモノなのか。心を占める大好きという気持ち。優さんに支配されたい、支配し尽くしたい願望。欲望も心も全て捧げたい。身体を拓く行為じゃない。心を明け渡す行為だ。優さんの言っていたことがやっと分かった。
これが愛だ。尊いモノを知った感動で、涙が止まらない。
「綺麗だね」
涙を舐めとる優さんの澄んだ声。
「世界で一番綺麗なのは優さんです」
そうだ。これ以上の美しいモノを僕は知らない。
「じゃ、俺たちは両思いだ。お互いが世界一綺麗だと思いあえる」
優しくキスをしながら僕の後ろを触る優さん。それに僕は微笑みで返事をする。きっと大丈夫です。優さんが微笑みで返事をするのが嬉しかった。
知らなかった。こんなに奥まで入り込む存在。僕の身体が塗り替えられる。怖くて、気持ちいい。前を触らないで達する苦しいような快感。苦しいけれど、心が辛くない。全てを許せる快感。気持ちよさが限界で、「僕の全てを明け渡します。捧げます。これ以上は、何もできません!」悲鳴を上げて訴えていた。「まだ欲しい」と欲望を打ち付ける優さんが愛おしかった。全身の、内壁の全てを使って応える。
優さんの好きにしていいよ。
全身の痙攣が止まらず、意識が白い闇に落ちた。
「大丈夫?」
優しい声に、目を開ける。全身が痛い。顔をしかめて優さんを見る。
「気持ちよすぎた。加減できなくて、ごめんね」
心配そうな顔がぼんやりしている。
「今日明日は寝ていよう」
うん。それがいいですよ、声に出せていたか分からない。幸せの眠りに頬が緩んだ。
翌日から、ぐっと優さんとの距離が近く感じた。性的な事で、ずっと感じていた申し訳なさが消え去った。満たされて、幸せだ。セックスって特別な繋がりだと分かった。優さんの気持ちも優しさも、言葉にしなくても伝わってくる。恋人が性的な事をする意味が分かった。もう、怖くない。
エピローグ
会社に出勤した。優さんは「もう行かなくていい」と言うけれど、優さんに依存しきらないように必要だと思う。総務課は変わらない静かさ。優さんも会社に出勤する。営業部ではなく専務室。僕は優さんの親族らしい、と一目置かれるようになっていた。同期からの目線も変わった。からかわれなくなったし、見下されない。優さんの恩恵に申し訳なくなるけれど、胃が痛くならずに過ごせて安心している。落ち着いて仕事ができる事がありがたかった。一日が穏やかで幸せだ。
僕は普通の道のギリギリにいると思っていたけれど、今は僕の前に道が見える。優さんと一緒に歩く穏やかな道が。
優さんと一緒なら、僕は前を向いて歩んでいける。
生きていて良かった。心からそう思う。
「秋人、少しチャージさせて」
最近の優さんはバリバリ仕事をして、夕食後に僕に少し甘える。コレに胸がキュンとする。僕の膝枕で、大きな優さんが猫のようになる。たまらなく可愛い。柔らかな髪や逞しい背中を撫でていると、全身の力を抜く。重いけれど僕は男だし短時間なら耐えられる。十分もせずに、起き上がって僕の上に覆いかぶさるようにしてキスをする。愛おしくてそっと優さんに腕を回す。自然と頬が緩む。
「良い顔だ。秋人が笑っていると安心する」
「優さんと居ると幸せだからです」
「可愛いな」
もう一度、深いキス。口の中に舌が入る。気持ちいい。背筋をゾクリと這い上がる何か。夢中になっているうちに、そっと僕の陰茎をズボン越しに優さんが触る。はっとした。固くなっている僕のモノを、知られてしまった。悪いことがバレたような妙な緊張。心臓が冷えた血液を送り出す。一気に熱が引く。上からのぞくようにしていた優さんを、見る。
「ごめん」
申し訳なさそうに僕の横に座りなおす。どうしていいのか分からず、下を向いて小さく震える。優さんじゃないか。怖い人じゃない。高橋先輩でも大学のあいつらでもない。優さんなのに。どうして身体が震える? 混乱で、気が付いたら涙が流れていた。
「ごめん。秋人、大丈夫?」
「大丈夫、です。すみません」
堪えきれない気持ちが溢れる。
「俺が悪い。性的な事はいいなんて綺麗ごと言って、こんなことして。本当にごめん」
違う。そんな悲しそうな顔をしてほしくない。過剰に反応してしまう僕がいけないんだ。ごめんなさい。言葉にならず涙を流す。そっと優しく僕を撫でてくれる。
しばらくソファーから動けなかった。
「あの、すみません。優さんを、満足もさせてあげられなくて……」
下を向いたまま、申し訳なさに謝罪する。変な汗が出る。
「満足しているよ。俺が変な欲が出ただけ。怖がらせるつもりはなかった」
「優さんです。怖くない、です。僕のどこかがおかしいんです。優さんだって思っても、身体が、言うこと聞いてくれないんです」
「うん。それがPTSDという状態じゃないかな」
PTSD? ニュースで聞いたような言葉に顔を上げる。
「秋人は大学の時の強いストレスから、気づかないうちにずっとPTSDの状態にあったと思う。精神科医の知り合いにも相談した。精神安定剤の内服も勧められたけれど、こればかりは秋人の意思が大切だから。あとは認知療法で、起きたことを自分で受け入れていくカウンセリングも勧められた。だけど色々な出来事を、また人に話すことは苦しいだろう? 性交は、本当は辛い行為じゃないんだ。相手を慈しむためにある。大切だって全身を使って伝え合うんだ。それが、いつか理解してもらえたらいい。性欲の欲は、本当は尊い欲だと思うよ。俺はいつまでも、一生待つ覚悟をしているよ。安心して」
「僕は、性的な事は苦痛と恐怖しかわかりません。愛されることなんて、慈しむセックスなんて、知りません」
「少しずつ、愛されること経験してみる?」
「はい」
「ゆっくり、ね。焦らずに、怖かったり、嫌なら、すぐにやめよう」
お風呂に一緒に入っている。高橋先輩の事件の後、事務的に洗ってもらっていた時と違う。裸で抱きしめ合って、キスして。温かいから身体が震えない。優さんの顔を見て、目を合わせると心臓が高鳴る。優さんの、この顔。これは色っぽい、という表情だ。直接触れあう肌で優さんの優しさと安心を感じる。優さんの鼓動も、息使いも、伝わってくる。優しい大きな存在に、身体を預ける。すごく、気持ちいい。身体の向きをそっと変えてくれて、優さんの膝の上に乗って背中を預ける格好。背中に優さんの固いモノが触れている。でも、怖くない。恥ずかしくて、ふふっと笑う。
「なに?」
「固いです」
「そりゃ、好きな人とのラブラブ風呂だからね」
ぷはっと噴き出して笑った。
「言い方に歳を感じます」
「失礼な。まだ二十代だ」
優さんが手で湯面をパシャリとはたく。僕の顔に湯がかかる。
「やったなぁ」
優さんの膝から降りて、湯の掛け合いになる。何しているのか分からなくなり、久しぶりに声をあげて笑った。のぼせそうで、暑い暑いと支え合いながら出る。おかしくて笑いながらお互いを拭く。まだ立ち上がっている優さんのモノが魅力的に見えて、そっと触る。
「こら。イタズラ小僧」
「さっきの、どこに興奮したんですか?」
「だから、ラブラブ風呂に、だよ」
またしても噴き出して笑った。全然怖くない。優さんの肌、筋肉、固い身体。生命力に満ちた魅力的な男性だ。ドキドキして、目の前の湯気の立つ肌に頬を寄せる。心臓の拍動。そっと抱きしめられる。ちゅうっと肌に吸い付いてみる。これは僕のだ。ムズムズする気持ちのままに、レロと舐めてみる。美味しい。温かい気持ち。優さんが僕を抱き締めてキス。
「可愛いイタズラ小僧だ」
ふふっと笑う顔に、胸がドキリとする。カッコいい。
その日から毎日お風呂に一緒に入る。三日目で、お互いのを擦り合って、出し合った。こんなに気持ちいい射精は初めてだった。性器の大きさに、逞しい身体にドキドキが止まらない。胸が高鳴るけれど、嫌な気持ちはしない。優さんの言っていた、性欲は尊い欲なんだってことが分かってきた。甘えてふざけ合うのも楽しい。優さんに触るたびに、愛おしさと独占欲とが織り交ざる。
もう顔の青あざも消えた。高橋先輩の事件から二週間。優さんと触れ合うのも、一緒のお風呂も怖くない。特別な時間になっている。
「どう? 嫌な気分にならない?」
湯船の中、膝に乗せられて抱きしめられて聞かれる。毎日、裸で触れ合っていて嫌な気持ちは全然しない。怖くない。それどころか、こういう行為にドキドキしてくる。じゃれ合うみたいな、心をさらけ出しているような気持ち。優さんを僕のすぐ近くに感じる時間。優さんの肌はいつまでも触っていたい。
「大丈夫です。優さんとの、この時間は満たされる時間です」
「じゃ、もう少し先に進んでいい?」
「はい。できたら、その、いけるところまで」
恥ずかしくて、下を向いて伝える。「かわいい」と頭にキスが降りてくる。抱きしめられて一緒にお風呂から出る。バスタオルにくるまれてベッドルームに運ばれる。
「優さん、力持ちですね」
「秋人が軽いんだよ。もっと太るべきだ」
あはは、と笑いながらキスをする。僕の上半身を手のひら全体で撫でまわされる。ふと、優さんの親指が胸の突起を、円を描くように触る。腰のあたりがモゾモゾする。急に爪でカリっと引っ掻く。小さく喉で声が上がる。腰に来る。必死にやり過ごそうとしても、摘まれて芯を確かめるようにグリグリされると、たまらなくて背筋が反る。腰が揺れる!
「秋人、綺麗だ」
降り注ぐ優しい声に、閉じていた目を開ける。僕を見る、優しい顔。心臓がトクトク鳴り響く。怖くないことが嬉しくて涙が滲む。そっと目元にキス。優さんはどこまでも温かい。包み込むように僕のモノを口に含まれる。自然とそれを見つめていた。僕は、何回も殴られながらやらされた行為。優さんは貴重な宝石を舐めまわすように、僕のモノに吸い寄せられているみたい。綺麗な行為だ。気持ちよさに声を漏らしながら、光輝いているような優さんから目を離せない。時々僕を見る目が、優しく微笑む。それだけで、顔が沸騰したように熱くなる。でも、イキそうになるのを堪える。僕が飲まされた時の苦しさを知っているから。
「何か、気になる?」
一度、僕のから口を離して優さんが問う。荒く息を整えながら正直に答える。
「僕は、口で、するとき、殴られて苦しかった。飲めって言われて、吐き戻した。あの気持ち悪さを、優さんに、味わってほしくない」
言ってみて、涙がこぼれた。
「気持ち悪いかな? 俺の、舐めてみる?」
ドキリとした。優さんの、綺麗にそそり立つ大きなモノ。先端がテロリと光り、美しい。ごくりと唾液を飲み込む。舐めて、いいのかな?
「まず、触ってごらん。気持ち悪い?」
ドキドキしながら、そっと包み込む。目が離せない。熱が、拍動が伝わってくる。
「綺麗です。優さん、すごい……」
引き寄せられるように、頬ずりする。生暖かくて、湿った皮膚が、匂いが心臓をくすぐる。コレ、舐めていいんだ。ドキドキしながら、先端をぺろりと舐める。苦みのある味。夢中になってレロレロ嘗め回した。
ぐいっと体を起こされて、我に返る。
「ほら、綺麗なものに吸い寄せられるでしょ。愛している人のは、全てが尊く思えるんだよ。気持ち悪い事なんてない。秋人の全てが欲しくなるし、全てを愛したいと思うんだ。苦しくもなければ、強制されることでもない。お互いに尽くして、お互いに捧げ合えばいい」
そうか。捧げればいいのか。ストンと心に入る言葉。僕が知らなかったこと。優しい言葉に、涙が溢れる。
「僕は全てを優さんに捧げます。愛しています」
涙がほろりと流れた。そうか。セックスってこういうモノなのか。心を占める大好きという気持ち。優さんに支配されたい、支配し尽くしたい願望。欲望も心も全て捧げたい。身体を拓く行為じゃない。心を明け渡す行為だ。優さんの言っていたことがやっと分かった。
これが愛だ。尊いモノを知った感動で、涙が止まらない。
「綺麗だね」
涙を舐めとる優さんの澄んだ声。
「世界で一番綺麗なのは優さんです」
そうだ。これ以上の美しいモノを僕は知らない。
「じゃ、俺たちは両思いだ。お互いが世界一綺麗だと思いあえる」
優しくキスをしながら僕の後ろを触る優さん。それに僕は微笑みで返事をする。きっと大丈夫です。優さんが微笑みで返事をするのが嬉しかった。
知らなかった。こんなに奥まで入り込む存在。僕の身体が塗り替えられる。怖くて、気持ちいい。前を触らないで達する苦しいような快感。苦しいけれど、心が辛くない。全てを許せる快感。気持ちよさが限界で、「僕の全てを明け渡します。捧げます。これ以上は、何もできません!」悲鳴を上げて訴えていた。「まだ欲しい」と欲望を打ち付ける優さんが愛おしかった。全身の、内壁の全てを使って応える。
優さんの好きにしていいよ。
全身の痙攣が止まらず、意識が白い闇に落ちた。
「大丈夫?」
優しい声に、目を開ける。全身が痛い。顔をしかめて優さんを見る。
「気持ちよすぎた。加減できなくて、ごめんね」
心配そうな顔がぼんやりしている。
「今日明日は寝ていよう」
うん。それがいいですよ、声に出せていたか分からない。幸せの眠りに頬が緩んだ。
翌日から、ぐっと優さんとの距離が近く感じた。性的な事で、ずっと感じていた申し訳なさが消え去った。満たされて、幸せだ。セックスって特別な繋がりだと分かった。優さんの気持ちも優しさも、言葉にしなくても伝わってくる。恋人が性的な事をする意味が分かった。もう、怖くない。
エピローグ
会社に出勤した。優さんは「もう行かなくていい」と言うけれど、優さんに依存しきらないように必要だと思う。総務課は変わらない静かさ。優さんも会社に出勤する。営業部ではなく専務室。僕は優さんの親族らしい、と一目置かれるようになっていた。同期からの目線も変わった。からかわれなくなったし、見下されない。優さんの恩恵に申し訳なくなるけれど、胃が痛くならずに過ごせて安心している。落ち着いて仕事ができる事がありがたかった。一日が穏やかで幸せだ。
僕は普通の道のギリギリにいると思っていたけれど、今は僕の前に道が見える。優さんと一緒に歩く穏やかな道が。
優さんと一緒なら、僕は前を向いて歩んでいける。
生きていて良かった。心からそう思う。
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