おとぎ日和

天乃 彗

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赤ずきん

01 狼くんの頼み事

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「頼むっ……このとーり! 一回だけ、俺の頼みを聞いてくれー!」

 ほのぼのとしたランチタイムであるはずの昼休み。机に額がついてしまうのでは、という勢いで頭を下げながら手を合わせてきた男友達を、大場綾子は驚いた表情で眺めていた。まったく、訳が分からない。
 男友達──大上慎太郎から今朝、「昼休み俺の教室来て」とメールが来た。今日は友人と一緒に食べる日ではなかったから、特に何も考えずに「いいよ」と返した。昼休みになって、自分の席で座っている慎太郎を見つけ、その前の席の椅子に腰掛けた。その瞬間、彼がいきなり冒頭のセリフを吐いたのである。

「……いや、いきなり何? とにかく、頭上げて。変に注目されてるから」

 綾子がそう言うと、慎太郎はゆっくりと頭を上げた。その表情は、深刻そのものである。普段見せないその様子に、綾子も釣られて眉間に皺を寄せる。

「……今日呼んだのも、この話をするため?」
「……ああ」

 いつもは生意気なくらい口が悪いのに、やけに歯切れが悪い。もしかして本当に深刻な問題なんじゃ──綾子は、お弁当をつつこうとしていた手を止めて、慎太郎に向き直った。

「頼みって何? 私に出来ることなら聞くけど」
「……笑うなよ?」
「は? 笑うなって、何を」
「今から言う頼みを、だよ!」

 慎太郎はイライラした様子で机をコツコツと叩いた。それが喧しかったので、綾子は「わかったわかった」と返事をした。
 しかし、自分から言っといてなかなか本題に入らない。今度は綾子の方がイライラしそうだった。早くしなさいよ、という意味をこめて机を指で叩く。
 しばらく目を泳がせながら口籠もっていた慎太郎だったが、やがて、絞りだすような小さな声で言った。騒がしい教室で、聞き取るのが難しいくらい小さな声だった。

「……2‐4の江頭茜を、今日の放課後ここに来るように仕向けてほしい」

 綾子は目をぱちくりさせながら慎太郎を見た。慎太郎は顔を真っ赤にしながら、後悔してるように唇を噛んでいる。綾子は初めて見る彼の表情に、目を輝かせた。

──おや? おやおやおや? 

「……っ、やっぱり笑ってんじゃねーかくそババア!」
「やっ……ごめ、意外だったから」

 どうやらにやけてしまっていたらしい。あわてて口元を隠しながら、慎太郎の想い人を思い浮べる。
 江頭茜──身長はとても小さく、天真爛漫な少女だ。色素の薄い短めの髪の毛は、天然パーマなのかくりくりしていて、彼女の柔らかい雰囲気にぴったりだ。いつも赤いヘアピンを前髪に付けているのを覚えている。身長やらしゃべり口調やらは年相応には見えないが、そこが可愛らしいと思った。まさに森にいそうな女の子、そういう印象を持っていた。
 対する慎太郎は、身長は大きく、性格もつんけんしている。まぁ、話すとただ口下手で口が悪いだけなのだが。つり目で目付きが悪く、口元から覗く犬歯は鋭い、かなりの怖面である。赤毛でボサボサの髪の毛も相まって、見た目はかなり怖い。初対面で彼に近づこうとする人はなかなかいないだろう。

「あんたが茜ちゃんをねぇ……」

 どうしてもにやついてしまうので、隠さないことにした。慎太郎は開き直ったように頬杖をついた。からかわれるのが気に入らないのか、不貞腐れたように唇を尖らせている。

「……そうだよ! わりぃかよ! 好きだよ! 一年の時からずっとな!」
「あ、同じクラスだったんだ?」
「そうだよ!」

 どこが好きなのかとか、何がきっかけかとか、もっといろいろ聞きたいことはあったが、怖い顔で睨まれたので止めておいた。とりあえず、最初に浮かんだ疑問だけ聞いてみる。

「……で、何で私に?」

 茜とは認識はあるが、そこまで仲良しというわけではない。慎太郎とはなんだかんだつるんでいるが。

「……お前、江頭と委員会一緒だろ? 委員会の仕事、とか言って呼び出しやすいかな、と……」
「うわっあざとー……」
「うるせーよ!」

 わざとらしく口を塞ぐ。そこまで考えてるのなら、自分でやればいいのに、と思ったが、言わないでおく。無駄にプライドが高い慎太郎が、プライドを捨てて自分に頭を下げたのだ。きっと、彼なりに考えた最善策なのだろう。せっかくだし、友人のささやかな恋を応援しようではないか。綾子はにっこりと慎太郎に笑いかけた。

「報酬は購買のパンでいいよ」
「……有料!?」
「当たり前でしょ? あと、頼んだからには結果報告してよね」
「……わかったよ」

 渋い顔で慎太郎は言った。呼び出すだけでパンが手に入るのなら安いものである。

「放課後に、ここに来るように言えばいいんでしょ? 昼休みまでに伝えておくわ」
「……サンキュー」

 自信なさげにそう言う慎太郎の足を蹴る。不意討ちでかわすことが出来ず、慎太郎は綾子を睨む。緊張を解いてやろうとしたのだが、強すぎたらしい。綾子は苦笑を浮かべた。

「じゃあちゃっちゃと食べて伝えてくるかねー。いただきます」
「おう……」

 慎太郎は、やはり心配そうな顔で俯いていた。

──大丈夫か、こいつ……。

 出かかった言葉を、ご飯と一緒に飲み込んだ。


 * * *
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