おとぎ日和

天乃 彗

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桃太郎 番外編②

平行線をたどる日々《祐樹目線》

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 イライラする。何にって、自分に。

「あー! 祐樹だ!」

 俺は後ろから聞こえた声にため息を吐く。じろりと後ろを振り返ると、案の定アホ面の桃が立っていた。

「んだよ」
「うわっ、愛想悪ーい」

 桃は頬を膨らませながら横に並ぶ。……来んなよ! 俺は桃から顔を背ける。
 ムカつく。情けない。腹が立つ。“好きかもしれない”と思ってから、まともに顔も見れないなんて。

「どこ行くの?」
「見りゃ分かんだろ、部活だよ」
「へぇ。あたしはねー、今から帰り!」
「見りゃ分かるわ」

 本当に、こいつはちゃんと脳みそで考えてから言葉を発しているんだろうか? 心配になる。

「まったくもー。祐樹は少し一真を見習いなさいよ! にこやかに、さ!」

──一真。

 桃からその名前を聞いて、イライラした。こいつは何気なく言った一言でも、だ。
 一真を見習えって何だよ。この間から、一真一真って。一真のが優しいだのなんだの。ムカつく。

「……俺と一真を比べんな」
「え?」

 聞こえてなかったようで、桃はきょとんとした顔で俺を見上げた。だから下から見るんじゃねぇよ、と言いたくても言えない。

「ねーね、笑ってみてよ!」
「何で楽しくもねーのに笑わなきゃいけねーんだよ、バーカ」
「けちー」

 俺は相変わらず意味の分からない発言をする桃にため息を吐く。笑わないからけちってどういう……。

「ま、祐樹が笑ったらきもいかも」
「ぶっ飛ばす」
「暴力はんたーい」

 そう言いながら舌を出す桃。あぁ、俺末期だ。まともに見れない。ギロリと桃を睨み付けると、桃はケラケラと笑った。

「あはは、やっぱ祐樹はそれだわ!」
「あ?」
「そのままの祐樹が好きってこと!」
「なっ……」

 桃は固まる俺をよそに、「じゃあまたね!」と校門へ駆けていった。

「……あのバカ!」

 ちくしょう。イライラする。
 あいつの一言に振り回されるのも。ちっとも先に進めない、自分にも。




(C)確かに恋だった
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