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狐系教師警報
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狐系教師警報、発令中。
華麗に化かされたのは、果たして誰──?
* * *
「ばっかじゃないのっ!?」
あたしが怒鳴ると、タマはむすっとして唇を尖らせた。そんな顔しても、バカはバカなのでほだされまい。死ぬほど心配したのに、本当、信じられない! あたしがこんな風に怒っているのには、理由がある。遡ること、数分前。
実はもうすぐ大学の文化祭がある。大学の文化祭っていうのは基本的に、出し物はサークルだとか部活だとかの団体でやるから、クラスでは行わない……んだけど、うちのクラスは何故かノリがよく、文化祭実行委員の子達を筆頭にみんなすごいやる気で、クラスで喫茶店をやることが決定した。もちろん、サークルや部活と掛け持ちになってしまう子もいるから、そこは帰宅部組が頑張る方向で話が進んだ。そして悲しきかな、あたしとタマは帰宅部なのである。今日も、文化祭の準備に勤しんでいたんだけど。
「タマー、お前高いところ得意だろ? 窓んとこに飾り付けすんのやってくんねー?」
「おー」
クラスの男子がタマに頼んでいるのを、あたしは看板を作りながら聞いていた。確かにあいつ、高いところ好きなのよね。馬鹿と煙はなんとやら、って言うからかな。そんなことを考えていると、他の男子がでかい脚立をえっさえっさと運んできて、窓際に立てた。天井まで届きそうなそれは、見てるだけでふらついてしまいそう。高いところは得意でも苦手でもないけど、あれはちょっとビビる。タマは頼られて嬉しいのか、ひょいひょいと脚立を登って、窓側の天井に暗幕をつけはじめた。その瞬間、さっきまで陽の光が差し込んでいて明るかった教室が、急に暗くなった。女子の小さな悲鳴とともに、「おい誰か電気電気!」と慌てた声が聞こえた。あたしは別に暗いのは平気だ。ただ、このままだと作業はしにくいから、早く電気つけてほしいなぁとは思った。
「おーい逢坂、どこ? これもお願い」
「あー、シバケン? どこ?」
シバケンの声がした。シバケンはサッカー部との掛け持ちなんだけど、やたらとこっちにも顔を出してくれて助かっている。もともと、統率力のある彼のおかげでこんなに人が集まっているんだし。ありがたや。シバケンらしき影は、少し遠くをウロウロとしている。
「シバケン、こっちこっち」
「あー、そっちか。今行っ……く!?」
「きゃあ!?」
視界の悪いシバケンが何かに躓いた。そのせいでバランスを崩したシバケンは、なすすべなく前に倒れこんだ。前に居たのはあたしなわけで、あたしも巻き添えを食らって倒れこんだんだけど。
「うわぁぁ!! 逢坂、ごめん!!」
「いや、だいじょぶ、どこも打ってないし」
その瞬間、ようやく部屋の電気がついて、辺りの様子が照らされる。ざわつく室内と、鼻先数センチ先にシバケンの顔。倒れこんだんだし、それは当たり前なんだけど。
「ちょ……シバケン、暗闇に紛れて何やってんだよ~」
「誤解誤解誤解!! 転んだだけだって!」
「そうよ! さっき、シバケンがうっかり転んで……事故よ事故!」
慌てて距離をとったあたしとシバケンだったけど、その刹那──
「おいっ! タマ!!」
誰かの悲痛な叫び声とともに、ガシャーン! と脚立が倒れる音が聞こえた。床で倒れて呻いてるのはもちろんタマで、あたしとシバケンへの冷やかしなんてすぐに止んだ。さっと血の気が引く。あたしは慌ててタマの元に駆け寄った。タマは横向きで倒れたまま、顔を歪めて右腕を抑えていた。
「ちょっ……タマ!?」
「……っつぅ……」
「頭は!? 打った!?」
「打ってねぇ……けど、受身失敗して腕、やった……」
「立てる!? 医務室……っ」
「逢坂、落ち着いて。とりあえず頭は打ってないみたいだから」
半泣きになったあたしを落ち着かせようと、シバケンがあたしのそばに駆け寄る。すると、タマが床に倒れたままの状態で、シバケンをキッと睨みつけた。
「来んなコラァ! 元はといえばてめーのせいでっ……!」
「え、俺!?」
「……そうよ、なんでシバケンが関係……」
訳がわからずタマを見ると、タマは痛みで歪んだ顔を嫌悪感でさらに歪めながらこう言った。
「てめぇが暗闇に紛れてちゃっかり菜月に手ェ出そうとすっからバランス崩したんだろっ……このムッツリワン公がぁ……!」
「「……は?」」
シバケンと声が重なった。暗闇……うん、さっきの状態よね? 紛れて……まぁ、暗かったせいで誰が誰だかもわからなかったけど。手を出す……誰が? 誰に? さっきの状態を思い出す。転んだせいで、あたしにシバケンが覆いかぶさる状態にはなったけど。
──って、それか!
あたしと同時に、考えが至ったのだろう。あたしが声を出すより先に、シバケンが慌てて否定する。
「だから! さっきのは事故だって!」
「るっせー! とか言ってラッキーとか思ったんだろこのムッツリが! 死ね!」
「そっ、そんなわけないだろ!?」
ええと、つまり。タマは、勝手に勘違いをして、勝手にバランスを崩して、勝手に落っこちたことを、シバケンのせいにした上で、心配してくれたシバケンをムッツリ呼ばわりしてるわけよね? 怪我のことは置いておいて、冷静に考えたら、怒りがふつふつ湧いてきた。
──本当に、本当に……!
「ばっかじゃないのっ!?」
そして、冒頭に戻るわけです。
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 大体、てめぇがチャラチャラしてんのがわりーだろ!?」
「あたしのどこがチャラチャラしてるってのよ!? あんたどこに目ェつけてんのよ!? 本当信じらんない!」
「あ、のー……」
ようやく立ち上がったタマと、ぎゃあぎゃあ言い合っていると、申し訳なさそうにシバケンが口を挟んだ。噛みつかんばかりの勢いでシバケンを見ると、シバケンは眉尻を下げながら、タマの右腕を指差した。
「そろそろマジで医務室行かないと、やばいんじゃ……」
そう言われて、タマの右腕を見る。タマが左手で抑えていたところは、真っ赤になって腫れ上がり、素人目から見ても明らかに無事ではない。
「たっ……大変じゃないの! 早く言いなさいよ、馬鹿!」
「またバカっつったなてめぇ……!」
急いでタマの襟首を掴む。そのまま教室を出て、クラスの子達に向かって叫んだ。
「ごめんね! このバカ医務室連れてくから! 今日は作業手伝えないかも!」
「てめっ、首締まっ……ぐっ」
問答無用だ。心配かけた罰。医務室なんて初めて行くけど、確かこっちだったはず。入学当初のオリエンテーションの記憶を手繰り寄せて、医務室へと向かった。
扉が閉まっている。とりあえず、ノックをしてみる。すると、部屋の中から「はーい」と声がした。あたしは一呼吸置いてから、扉をスライドして開けた。
華麗に化かされたのは、果たして誰──?
* * *
「ばっかじゃないのっ!?」
あたしが怒鳴ると、タマはむすっとして唇を尖らせた。そんな顔しても、バカはバカなのでほだされまい。死ぬほど心配したのに、本当、信じられない! あたしがこんな風に怒っているのには、理由がある。遡ること、数分前。
実はもうすぐ大学の文化祭がある。大学の文化祭っていうのは基本的に、出し物はサークルだとか部活だとかの団体でやるから、クラスでは行わない……んだけど、うちのクラスは何故かノリがよく、文化祭実行委員の子達を筆頭にみんなすごいやる気で、クラスで喫茶店をやることが決定した。もちろん、サークルや部活と掛け持ちになってしまう子もいるから、そこは帰宅部組が頑張る方向で話が進んだ。そして悲しきかな、あたしとタマは帰宅部なのである。今日も、文化祭の準備に勤しんでいたんだけど。
「タマー、お前高いところ得意だろ? 窓んとこに飾り付けすんのやってくんねー?」
「おー」
クラスの男子がタマに頼んでいるのを、あたしは看板を作りながら聞いていた。確かにあいつ、高いところ好きなのよね。馬鹿と煙はなんとやら、って言うからかな。そんなことを考えていると、他の男子がでかい脚立をえっさえっさと運んできて、窓際に立てた。天井まで届きそうなそれは、見てるだけでふらついてしまいそう。高いところは得意でも苦手でもないけど、あれはちょっとビビる。タマは頼られて嬉しいのか、ひょいひょいと脚立を登って、窓側の天井に暗幕をつけはじめた。その瞬間、さっきまで陽の光が差し込んでいて明るかった教室が、急に暗くなった。女子の小さな悲鳴とともに、「おい誰か電気電気!」と慌てた声が聞こえた。あたしは別に暗いのは平気だ。ただ、このままだと作業はしにくいから、早く電気つけてほしいなぁとは思った。
「おーい逢坂、どこ? これもお願い」
「あー、シバケン? どこ?」
シバケンの声がした。シバケンはサッカー部との掛け持ちなんだけど、やたらとこっちにも顔を出してくれて助かっている。もともと、統率力のある彼のおかげでこんなに人が集まっているんだし。ありがたや。シバケンらしき影は、少し遠くをウロウロとしている。
「シバケン、こっちこっち」
「あー、そっちか。今行っ……く!?」
「きゃあ!?」
視界の悪いシバケンが何かに躓いた。そのせいでバランスを崩したシバケンは、なすすべなく前に倒れこんだ。前に居たのはあたしなわけで、あたしも巻き添えを食らって倒れこんだんだけど。
「うわぁぁ!! 逢坂、ごめん!!」
「いや、だいじょぶ、どこも打ってないし」
その瞬間、ようやく部屋の電気がついて、辺りの様子が照らされる。ざわつく室内と、鼻先数センチ先にシバケンの顔。倒れこんだんだし、それは当たり前なんだけど。
「ちょ……シバケン、暗闇に紛れて何やってんだよ~」
「誤解誤解誤解!! 転んだだけだって!」
「そうよ! さっき、シバケンがうっかり転んで……事故よ事故!」
慌てて距離をとったあたしとシバケンだったけど、その刹那──
「おいっ! タマ!!」
誰かの悲痛な叫び声とともに、ガシャーン! と脚立が倒れる音が聞こえた。床で倒れて呻いてるのはもちろんタマで、あたしとシバケンへの冷やかしなんてすぐに止んだ。さっと血の気が引く。あたしは慌ててタマの元に駆け寄った。タマは横向きで倒れたまま、顔を歪めて右腕を抑えていた。
「ちょっ……タマ!?」
「……っつぅ……」
「頭は!? 打った!?」
「打ってねぇ……けど、受身失敗して腕、やった……」
「立てる!? 医務室……っ」
「逢坂、落ち着いて。とりあえず頭は打ってないみたいだから」
半泣きになったあたしを落ち着かせようと、シバケンがあたしのそばに駆け寄る。すると、タマが床に倒れたままの状態で、シバケンをキッと睨みつけた。
「来んなコラァ! 元はといえばてめーのせいでっ……!」
「え、俺!?」
「……そうよ、なんでシバケンが関係……」
訳がわからずタマを見ると、タマは痛みで歪んだ顔を嫌悪感でさらに歪めながらこう言った。
「てめぇが暗闇に紛れてちゃっかり菜月に手ェ出そうとすっからバランス崩したんだろっ……このムッツリワン公がぁ……!」
「「……は?」」
シバケンと声が重なった。暗闇……うん、さっきの状態よね? 紛れて……まぁ、暗かったせいで誰が誰だかもわからなかったけど。手を出す……誰が? 誰に? さっきの状態を思い出す。転んだせいで、あたしにシバケンが覆いかぶさる状態にはなったけど。
──って、それか!
あたしと同時に、考えが至ったのだろう。あたしが声を出すより先に、シバケンが慌てて否定する。
「だから! さっきのは事故だって!」
「るっせー! とか言ってラッキーとか思ったんだろこのムッツリが! 死ね!」
「そっ、そんなわけないだろ!?」
ええと、つまり。タマは、勝手に勘違いをして、勝手にバランスを崩して、勝手に落っこちたことを、シバケンのせいにした上で、心配してくれたシバケンをムッツリ呼ばわりしてるわけよね? 怪我のことは置いておいて、冷静に考えたら、怒りがふつふつ湧いてきた。
──本当に、本当に……!
「ばっかじゃないのっ!?」
そして、冒頭に戻るわけです。
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 大体、てめぇがチャラチャラしてんのがわりーだろ!?」
「あたしのどこがチャラチャラしてるってのよ!? あんたどこに目ェつけてんのよ!? 本当信じらんない!」
「あ、のー……」
ようやく立ち上がったタマと、ぎゃあぎゃあ言い合っていると、申し訳なさそうにシバケンが口を挟んだ。噛みつかんばかりの勢いでシバケンを見ると、シバケンは眉尻を下げながら、タマの右腕を指差した。
「そろそろマジで医務室行かないと、やばいんじゃ……」
そう言われて、タマの右腕を見る。タマが左手で抑えていたところは、真っ赤になって腫れ上がり、素人目から見ても明らかに無事ではない。
「たっ……大変じゃないの! 早く言いなさいよ、馬鹿!」
「またバカっつったなてめぇ……!」
急いでタマの襟首を掴む。そのまま教室を出て、クラスの子達に向かって叫んだ。
「ごめんね! このバカ医務室連れてくから! 今日は作業手伝えないかも!」
「てめっ、首締まっ……ぐっ」
問答無用だ。心配かけた罰。医務室なんて初めて行くけど、確かこっちだったはず。入学当初のオリエンテーションの記憶を手繰り寄せて、医務室へと向かった。
扉が閉まっている。とりあえず、ノックをしてみる。すると、部屋の中から「はーい」と声がした。あたしは一呼吸置いてから、扉をスライドして開けた。
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