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狐系教師警報
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「失礼します……」
恐る恐る入ってみると、病院のカウンターみたいなのが入り口すぐにあって、白衣の女の人がにこりとあたしに微笑んだ。
「こんにちは。どうしたの?」
「あ……あたしじゃなくて、こいつが怪我して」
ちらりと目配せをすると、タマはむすっとした顔のままその人を睨みつけた。この人見知り猫! その人は、「あら!」と腕の怪我をみて声を上げた。
「じゃあ、ちょっと学籍番号と怪我の内容をここに書いてくれる?」
名簿のようなものを差し出され、あたしは慣れた手つきでタマの名前と学籍番号、怪我の内容を記入した。何故書けるのかというと、普段から授業の出席とかであたしが書かされているからだ。どちらにせよ、タマは利き腕が右腕だから今は書けないけど。
「あの、書きました」
「じゃあ、こちらにどうぞ」
にこやかに女の人に案内された。あの人が診るわけじゃないんだな。あの人は事務員さんか何かなのかな。なんて考えながら、嫌そうなタマを引っ張って奥へと入る。するとそこで待ち構えていたのは──。
「……かっこいい」
そんな言葉が思わず漏れるほど、整った顔立ちをした、白衣の先生だった。
「……ふふ、ありがとう」
あまり低すぎず高すぎない、聞いてて心地のいい声音で、その先生は言った。穏やかに微笑まれて、またキュンとする。かっこいい、と言うよりかは、綺麗。顔なんかすごい小さくて、まつ毛もすごく長くて。鼻筋がすっと通ってて、本当に、整ってる。なんだろう、少女漫画に出てきそう、って言えばいいのかな。学園のアイドルとか、そんな立ち位置で出てきそう。
「私は狐塚。ここの医務室の養護職員だよ」
「きつね……?」
「うん。ほら」
先生──狐塚先生は、ニコリと微笑みながら首から下げていた名札をあたしに見せてくれた。確かにそこには、『狐塚』の文字が。……あ、下の名前も書いてある。『狐塚雅』……。下の名前はマサとかマサシ、と読むのだろうか。先生は長い前髪を真ん中で分けていて、後ろの髪も一つにまとめている。あたし、今まで長髪の男の人ってすごく抵抗あったんだけど、こんな風に綺麗な顔つきな人ならありだなぁ、なんて思ってしまう。
「オイコラ、何見てやがるんだよ」
「な、別に、そんなんじゃ、」
「怪我をしてるのは、どの子かな」
「あっ……こいつです、こいつ」
思わず見とれてしまっていたけど、ここへ来た目的はそれだ。タマの怪我を診てもらうため。タマが不機嫌そうに言ったので思い出した。あたしは後ろにいたタマを先生の前に押しやる。
「……わぁ、これは酷いね。見せてもらうよ」
「いってぇ! コラ、もっと丁寧に扱いやがれ!」
「こら! おとなしくしなさいよ!」
病院にいる子どもみたいだ、と思う。これじゃあたし、お母さんみたいじゃないか。
「ふ……君は子どもみたいだね」
「ホラ! 言われてるじゃん!」
「うるせー! いてえもんはいてえんだよ!」
狐塚先生が困ったように笑みを浮かべながらタマの腕を触診する。どこを触っても痛い痛いと騒ぐタマに、先生はひと呼吸置いてから言った。
「これ、折れてるかもね」
「ええっ……!?」
声を漏らしたのはあたしだ。タマはむすっとした顔のまま先生を睨みつけている。
「どうしてこんな怪我をしたんだい?」
「ええと、ほぼ天井と同じくらいの脚立から落ちて」
「なるほどねぇ……」
先生は、顎に手を添えて考えるようなそぶりを見せたあと、あたしに向き直った。
「ここには、レントゲンとかの機器はないから、病院で検査してもらうことになるけど」
「ええっ……!? そ、そんな大事ですか!?」
「結構ね」
狐塚先生は、困ったように眉尻を下げた。アンニュイな顔もかっこいい……じゃなかった。
「こちらで車とかは手配するから……どうする? 君も付き添う?」
「は、はい! 一応、心配なんで!」
「一応は余計だろうが! オレ様が心配でしかたねえ癖に」
「あんたは黙ってて!」
すぐ調子に乗る! まあ、調子に乗る余裕があるだけまだましなんだろうけど……。すると、机の上にあった電話で、先生は電話をし始めた。仕事が速い。おそらく病院に電話しているのだろう。受話器を置いてこちらに向き直った先生は、タマに向かって「とりあえず応急処置しようね」と言って笑った。タマは優しく微笑まれた分、悪態をつくことも出来なかったのだろう。ばつが悪そうに目を逸らした。
「……君たちは恋人同士なの?」
「そだよ、こいつはオレ様の女だよ」
「なっ……あんたは!」
節操ない言い方をする。こいつのこういうとこ、本当に言葉も出ないくらいあきれる。先生から見えないようにつねってやろうかと思ったら、先生がタマの腕を治療しながら、静かに言った。
「レディに向かって、オレの女、なんて言い方はよくないよ」
「……っち」
タマが舌打ちをした。やだ、先生、紳士すぎる。先生の紳士的対応に、タマは何も言い返せなかったみたいだ。今までこんなタイプの人、いなかったからすごい新鮮。ぽけーっと二人の様子をうかがっていると、処置が終わった先生がにこりとこちらに微笑みかけた。
「ね?」
「あ? え? は、はい!」
話を振られるとは思っていなかった。驚いて変な声になってしまうと、先生はいたずらが成功した子どもみたいに笑った。そんな顔も出来るんだ、って思う。ギャップ萌えってやつですかこれは。そうですか。
そして、あたしがその笑顔に見とれてしまったのに気づいたからか、クスリとまた笑って、指で何かを形作った。……中指と薬指を親指にくっつけて、人差し指と小指はピンと立てて。一回、二回、中指と薬指、親指とを離してみせた。
──狐? 狐塚だから? うそ、何それかわいすぎる……!
かわいいこともしてしまうのか、と目眩さえ覚える。この先生、あざとい!
「き、狐、ですか?」
「うん、私のトレードマーク。よく気づいてくれたね」
そう言いながら先生は、こちらに向かって歩いてきて、あたしのおでこに狐くんをコツン、と当てた。否、狐くんが、あたしにキスをした。
「なっ……?」
「かわいいね、君は」
「あ!?」
先生は、明らかにあたしに向かって言った。こんなかっこいい人に「かわいい」だなんて言われて、浮かれない人なんているだろうか。いや、いないでしょう。しかし、当然ながらタマはご立腹である。先生に対しても、「かわいい」なんて言われて浮かれているあたしに対しても。ギロリとあたしと先生を睨みつけた所で、先生がスッと移動した。タマの子どもじみた牽制なんて全く気にしていないようで、大人の余裕たっぷりに「車、そろそろだよ」と言ってのけたのだった。
* * *
恐る恐る入ってみると、病院のカウンターみたいなのが入り口すぐにあって、白衣の女の人がにこりとあたしに微笑んだ。
「こんにちは。どうしたの?」
「あ……あたしじゃなくて、こいつが怪我して」
ちらりと目配せをすると、タマはむすっとした顔のままその人を睨みつけた。この人見知り猫! その人は、「あら!」と腕の怪我をみて声を上げた。
「じゃあ、ちょっと学籍番号と怪我の内容をここに書いてくれる?」
名簿のようなものを差し出され、あたしは慣れた手つきでタマの名前と学籍番号、怪我の内容を記入した。何故書けるのかというと、普段から授業の出席とかであたしが書かされているからだ。どちらにせよ、タマは利き腕が右腕だから今は書けないけど。
「あの、書きました」
「じゃあ、こちらにどうぞ」
にこやかに女の人に案内された。あの人が診るわけじゃないんだな。あの人は事務員さんか何かなのかな。なんて考えながら、嫌そうなタマを引っ張って奥へと入る。するとそこで待ち構えていたのは──。
「……かっこいい」
そんな言葉が思わず漏れるほど、整った顔立ちをした、白衣の先生だった。
「……ふふ、ありがとう」
あまり低すぎず高すぎない、聞いてて心地のいい声音で、その先生は言った。穏やかに微笑まれて、またキュンとする。かっこいい、と言うよりかは、綺麗。顔なんかすごい小さくて、まつ毛もすごく長くて。鼻筋がすっと通ってて、本当に、整ってる。なんだろう、少女漫画に出てきそう、って言えばいいのかな。学園のアイドルとか、そんな立ち位置で出てきそう。
「私は狐塚。ここの医務室の養護職員だよ」
「きつね……?」
「うん。ほら」
先生──狐塚先生は、ニコリと微笑みながら首から下げていた名札をあたしに見せてくれた。確かにそこには、『狐塚』の文字が。……あ、下の名前も書いてある。『狐塚雅』……。下の名前はマサとかマサシ、と読むのだろうか。先生は長い前髪を真ん中で分けていて、後ろの髪も一つにまとめている。あたし、今まで長髪の男の人ってすごく抵抗あったんだけど、こんな風に綺麗な顔つきな人ならありだなぁ、なんて思ってしまう。
「オイコラ、何見てやがるんだよ」
「な、別に、そんなんじゃ、」
「怪我をしてるのは、どの子かな」
「あっ……こいつです、こいつ」
思わず見とれてしまっていたけど、ここへ来た目的はそれだ。タマの怪我を診てもらうため。タマが不機嫌そうに言ったので思い出した。あたしは後ろにいたタマを先生の前に押しやる。
「……わぁ、これは酷いね。見せてもらうよ」
「いってぇ! コラ、もっと丁寧に扱いやがれ!」
「こら! おとなしくしなさいよ!」
病院にいる子どもみたいだ、と思う。これじゃあたし、お母さんみたいじゃないか。
「ふ……君は子どもみたいだね」
「ホラ! 言われてるじゃん!」
「うるせー! いてえもんはいてえんだよ!」
狐塚先生が困ったように笑みを浮かべながらタマの腕を触診する。どこを触っても痛い痛いと騒ぐタマに、先生はひと呼吸置いてから言った。
「これ、折れてるかもね」
「ええっ……!?」
声を漏らしたのはあたしだ。タマはむすっとした顔のまま先生を睨みつけている。
「どうしてこんな怪我をしたんだい?」
「ええと、ほぼ天井と同じくらいの脚立から落ちて」
「なるほどねぇ……」
先生は、顎に手を添えて考えるようなそぶりを見せたあと、あたしに向き直った。
「ここには、レントゲンとかの機器はないから、病院で検査してもらうことになるけど」
「ええっ……!? そ、そんな大事ですか!?」
「結構ね」
狐塚先生は、困ったように眉尻を下げた。アンニュイな顔もかっこいい……じゃなかった。
「こちらで車とかは手配するから……どうする? 君も付き添う?」
「は、はい! 一応、心配なんで!」
「一応は余計だろうが! オレ様が心配でしかたねえ癖に」
「あんたは黙ってて!」
すぐ調子に乗る! まあ、調子に乗る余裕があるだけまだましなんだろうけど……。すると、机の上にあった電話で、先生は電話をし始めた。仕事が速い。おそらく病院に電話しているのだろう。受話器を置いてこちらに向き直った先生は、タマに向かって「とりあえず応急処置しようね」と言って笑った。タマは優しく微笑まれた分、悪態をつくことも出来なかったのだろう。ばつが悪そうに目を逸らした。
「……君たちは恋人同士なの?」
「そだよ、こいつはオレ様の女だよ」
「なっ……あんたは!」
節操ない言い方をする。こいつのこういうとこ、本当に言葉も出ないくらいあきれる。先生から見えないようにつねってやろうかと思ったら、先生がタマの腕を治療しながら、静かに言った。
「レディに向かって、オレの女、なんて言い方はよくないよ」
「……っち」
タマが舌打ちをした。やだ、先生、紳士すぎる。先生の紳士的対応に、タマは何も言い返せなかったみたいだ。今までこんなタイプの人、いなかったからすごい新鮮。ぽけーっと二人の様子をうかがっていると、処置が終わった先生がにこりとこちらに微笑みかけた。
「ね?」
「あ? え? は、はい!」
話を振られるとは思っていなかった。驚いて変な声になってしまうと、先生はいたずらが成功した子どもみたいに笑った。そんな顔も出来るんだ、って思う。ギャップ萌えってやつですかこれは。そうですか。
そして、あたしがその笑顔に見とれてしまったのに気づいたからか、クスリとまた笑って、指で何かを形作った。……中指と薬指を親指にくっつけて、人差し指と小指はピンと立てて。一回、二回、中指と薬指、親指とを離してみせた。
──狐? 狐塚だから? うそ、何それかわいすぎる……!
かわいいこともしてしまうのか、と目眩さえ覚える。この先生、あざとい!
「き、狐、ですか?」
「うん、私のトレードマーク。よく気づいてくれたね」
そう言いながら先生は、こちらに向かって歩いてきて、あたしのおでこに狐くんをコツン、と当てた。否、狐くんが、あたしにキスをした。
「なっ……?」
「かわいいね、君は」
「あ!?」
先生は、明らかにあたしに向かって言った。こんなかっこいい人に「かわいい」だなんて言われて、浮かれない人なんているだろうか。いや、いないでしょう。しかし、当然ながらタマはご立腹である。先生に対しても、「かわいい」なんて言われて浮かれているあたしに対しても。ギロリとあたしと先生を睨みつけた所で、先生がスッと移動した。タマの子どもじみた牽制なんて全く気にしていないようで、大人の余裕たっぷりに「車、そろそろだよ」と言ってのけたのだった。
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