猫系男子注意報

天乃 彗

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狐系教師警報

03

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 結果として、タマの骨には見事にヒビが入っていた。先生の応急処置のおかげか、手術するまでにはいたらなかったけれど、タマの右手はギプスでぐるぐる巻きになることと相成った。全治2~3週間とのことで、ガッツリ文化祭にぶつかる。

「でも、手術とかにならなくてよかったね。狐塚先生のおかげかな」

 帰り道、あたしが何気無く言うと、タマはふんっと鼻を鳴らした。

「オレ様はあいつ、なんか好かねー」
「恩人に向かって、何その言い草……」

 やれやれである。でも、タマが手放しで好いた人間なんて、今までいなかったんじゃ。こいつ、警戒心強いし。

「かっこよかったなぁ、狐塚先生。なんだろう、大人の余裕? まだ若いだろうに、タマとは大違い!」

 大人っぽかったけど、きっとまだ二十代よね。思い出して、にやけてしまう。余裕たっぷりな笑みに、手で狐を作るお茶目さ。あれでときめかない女子はいないだろう。

「……ニヤニヤしやがって、バカか」
「なによ、妬いてんの?」
「なっ……ちげーよ、調子のんな!」

 からかい半分で聞いてみたら、珍しく可愛い反応が返って来た。小学生みたいで少し笑ってしまう。聞いてみるもんだな。タマは不機嫌そうな顔をしながら、チッと舌打ちをした。

「おめーは騙されてんだよ! あの男に」
「はぁ? 狐塚先生に? 何でよ?」
「あんなやつ、ぜってー裏があるに決まってんだよ」
「なにを根拠に……」
「勘だ!」

 自信満々に言ってのけるタマに、思わずため息。あたしがちょっと浮かれてるからって、ハチャメチャすぎるんじゃない? 

「あーハイハイそうですねー」
「てめぇ、信じてねぇな!?」
「信じる要素が見当たらないから」

 スタスタとタマの前を歩くと、また舌打ちをされた。そして、手をグッと掴まれる。

「ていうか、この手じゃなんも出来ねぇな。菜月、泊まってけ」
「えぇー……勝手すぎる」
「決定事項だろ」

 タマの中ではもう決定していたらしい。右手が使えないタマはワガママ5倍増しだろうな、と目眩がした。


 * * *


 さて、タマの5倍増しのワガママにも諦めがついてきた頃、文化祭が始まった。

「いやぁぁあ!!」

 あたしの断末魔が、教室に響く。あたしは女子数名に取り押さえられる。

「彼氏の失態は彼女が責任とりなさーい」
「いやぁぁあ! だからってこんなの!」

 さっきから、何をしているのかっていうと。あたしは、迫り来る猫耳カチューシャから逃げている。もう一度言う。猫耳カチューシャから逃げている。うちのクラスの模擬店は、喫茶店だ。でも、案を出す段階でお化け屋敷ってのも人気で、一騎打ちになった。そこで折衷案として出されたのが、「妖怪喫茶」。その時は、なかなか面白そうだなって思った。
 話が進むにつれ、係も決めなきゃいけなくなって、接客係──つまりは、妖怪役ね──を決めるとき、タマは満場一致で化け猫役に決まった。そんなことまで猫かよと半ば呆れ顔で聞いてた。あたしは裏方だったから無関係だったのだ。だが、タマが右手を負傷してる今、接客は難しい。と、なると、化け猫役がいなくなってしまうとのことで──なぜかあたしに、白羽の矢が立ったのである。

「何で天敵の格好しなきゃならないの!」
「いいじゃん、意外に似合うかもよ?」
「似合うわけあるかぁ!」

 もだもだしてるうちに、あたしの頭に猫耳カチューシャが取り付けられる。手には、肉球がついた猫の手型の手袋。腰回りには、尻尾のようなもふもふが付けられた。顔には猫の鼻とヒゲまで書かれて──ああ、あたし終わった。

「寒気がするっ……!」
「似合う似合う、かわいいよ」
「猫の格好が似合っても嬉しくない!」
「タマは喜んでるみたいだけど?」
「え?」

 友達の言葉に、タマを見やる。タマは、目をギラギラと輝かせて、生唾をゴクリと飲み込んだ。あれ、見たことあるぞ。あれは、野良猫を見つけて、飛びかかる前のタマの様子そのもの。

「でかした!」
「褒め言葉それかっ! そして飛びついてくるなぁ!」

 普段猫にするように飛びかかられる。こんな風にデレられても嬉しくないっての! すり寄ってくるタマをかわしていると、顔以外着ぐるみ姿のシバケンがトコトコとやって来た。

「あ、シバケン。シバケンは、何の妖怪だっけ?」
「人面犬」
「ただの着ぐるみ着た人間……」
「悲しくなるから言わないでくれ」

 シバケンは苦笑いを浮かべて、自分の格好をまじまじと眺める。クオリティは高くない。わかりづらいからって、首から「人面犬」ってプレートを下げてるあたり、とっても。

「逢坂。そのうちユウちゃんたちが来るって言ってたよ」
「ほんと? この格好で会いたくないなぁ……」

 そう言いながら、自分の頭の猫耳を触ろうとする。でも、肉球手袋をしてるからうまく触れない。

「似合ってると思うよ」
「シバケンまで……それ悪口だからね」

 ギロリと睨みつけると、シバケンは苦笑いをした。ごめんごめん、と言われたところで、タマが「おい」と口を挟んだ。

「わっ!? 何よ?」
「菜月。取れた」
「何が……って、包帯!?」

 タマの腕の包帯の端が、だらしなく宙で揺らめいている。

「留め具は?」
「どっかいった」
「もう! 暴れるからでしょ!?」

 時計を見やる。もうすぐ始まっちゃうしなぁ。タマのことだから、一人でどうにかしろと言ってもしないだろうし。あんな小さい留め具を今から探すのも、準備でバタバタしてるみんなに申し訳ない。……そうだ、医務室になら、包帯の留め具くらい、あるよね? タマはあの先生嫌いって言ってたから、一人で行きたがらないだろうし……うーん。

「しょうがないな。今からあたし、医務室で留め具もらって来るから、あんたは待ってなさい」

 そう言って、シバケンとタマに少し抜けることを伝えて、あたしは足早に医務室へと向かう。途中で、脱いでから行けばよかったと後悔したけど、さすがは文化祭。こんなに変な格好をしてても、あたしより変な格好をしてる人がたくさんいる。だから、あたしは浮くことなんてなく、人ごみに溶け込んだ。

「あれっ、ナツねぇ!?」

 聞き慣れた声がして、振り返る。視界のすみで、白いうさ耳カチューシャが揺れた。

「ユウ」
「ナツねぇ、その格好ギャグ?」
「う、うるさい!」

 だから会いたくなかったのよ! あたしは、赤くなる頬を押さえながら、ユウに向き直る。

「ナツねぇの喫茶店って逆方向じゃないの? どこ行くの?」
「あぁ、ちょっと医務室に用があって」
「ふーん?」

 聞いておいて興味がなさそうにユウは言った。いつものことなので気にはしない。ユウがいるってことは、マトさんもいるはずよね? と、辺りを探してみるけど、その姿は見つからない。

「そういえば、マトさんは?」
「にーになら、テニスサークルに顔出してから合流するって」
「あぁ、例の……」

 マトさんがOBの、例のサークルか。あの話を聞いてからあのサークルには近づかないようにしているから知り合いはいない。まぁ、そのうち合流出来るだろう、と思った。

「じゃあ、あたし行くから。先に教室行ってて」
「はぁい」

 そんなやりとりをしてから、ユウと別れてまた早足で歩き出す。医務室は館が違うから、急がなければ。クラスTやサークルのパーカー、コスプレとかユニフォーム。カラフルな人の群れを通り抜けていく。さすがは文化祭。人々の顔はいつもより浮かれているように見える。こんな格好をしているあたしが言えた義理ではないが。
 建物の外にもいくつもテントが張られて、いろんなお店が並んでいる。あ、アイス天ぷらだって……おいしそう。後で行かなきゃ。通り過ぎるお店に目星を付けながら歩いていくと、医務室にはすぐについた。もしかしてイベントの日ってやってないんじゃないの、と少し不安に思ったけど、そんなことはないみたいだ。明かりがついている。コンコン、と二回ノックをしてから、そおっと扉をスライドさせた。

「失礼します……」

 何となく萎縮してしまって、小さな声で中に呼びかける。すると、いつか見た事務員の女の人の姿はなく、奥の方からぱたぱたと足音をさせて狐塚先生がやってきた。
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