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本編
05 カボチャと距離を縮めました
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「結局お前、どうするん」
翌日、サークルの時に心配した様子の桃山が俺に尋ねてきた。
「どうする、って」
「かりんちゃんのこと。諦めんの?」
「諦める? まさか!」
俺はスマホのカメラロールを起動して、スクショしてあったとあるものを読み上げた。
「宝条灯、26歳。10月31日生まれ蠍座AB型。皆さんへの一言、“ぜひお越しください”のみ!」
「え、何何何怖い怖い怖い」
「常連の間で密かにファンクラブが存在するが、そのクラブも彼女の存在を認知してないため、恋人は現在いない模様」
「ちょっ、ちょちょちょ」
「身長推定183cm、シフトに入ってる時間は──」
「止まれ!」
桃山にデコを強打され、言葉を止める。容赦なさすぎだ、超痛い。桃山が何やら信じられないものを見るような目で俺を見ていたので、俺は慌てて言葉を足した。
「この間の俺は、敵を知らなすぎた」
「……お、おう」
「だから、今度は徹底的に調べ上げてから挑もうと思ってだな」
「ちなみにそのデータはどこから」
「店のホームページと常連らしいクラスの女子から」
証明するために、さっき読み上げたものを桃山に見せる。スクショしたのは、店のホームページとその女子とのLINEでのやりとりだ。桃山はそれを全て見尽くしたあと、呆れた顔で俺を見た。
「まぁそれはわかったけど、くっそ気持ち悪いなお前」
「片思いの男なんてみんな気持ち悪いだろ」
気持ち悪いと言われても、それしか考えが及ばなかったのだから仕方が無い。
「三角関係上等だよ。まずは同じ土俵に立ってやる」
打ちのめされても、ただじゃ起きない。俺の挑戦は始まったばかりなのだ。桃山は苦笑を浮かべながら、「頑張れよ」と言った。昨日の俺の落ち込み具合を見ていたこいつには、俺の決意は伝わってくれただろう。
「先輩っ! 今日も一緒に帰りましょう!」
すると、向こうの方で他の子と喋っていた華鈴が、こちらに気づいて駆け寄ってきた。俺の気持ちなどつゆ知らず、こんなことを言ってきやがる。
「とか言って、カボチャ頭見に行きたいだけだろ」
「あは。ばれてしまいましたか!」
ばれてしまいましたかじゃねーよ。半分くらい「違いますよ」って答えを期待した俺の気持ちを返せ。桃山は笑いを堪えて俺を見た。それを睨みつけ、やり場のない気持ちを抑えつつ、ため息混じりで了承した。華鈴は嬉しそうに目を輝かせている。それが俺に向けた物だったらどんなにいいか、と思った。
* * *
カボチャ頭がお菓子を配ってる様子を、遠巻きに眺める。それを、たったそれだけのことを、何十分やったのだろう。それでも華鈴は飽きる様子もなく、近くの植え込みからカボチャ頭を見つめていた。
「……先輩。人生の先輩としてお聞きしたいことがございまして」
「はい」
「私、恋をしたのはあの方が初めてで。恋をしたら次に何をするべきなのでしょうか?」
それを俺に聞くか。それを俺に聞いちゃうのか。睨みつけようかと思ったけど、華鈴があまりにもキラキラした目で俺を見ているもんだから、そんな邪険に出来なかった。
「……まぁ、オーソドックスに連絡先交換すんじゃね」
「どうやってでしょう!?」
「普通に、こっちの番号とかメアドとかLINEIDとかをあいつに教えるか、教えてくださいって頼むか……」
その点、俺は華鈴の連絡先を入手するのは容易かったな。サークル入部の流れで、それとなく聞けちゃって。必要なのは、冷静さを装うことだけだった。何の共通点もない赤の他人にそれをするには、相当の勇気と、切り捨てられる覚悟が必要だ。華鈴はこれを初恋だと言っているし、さっきからあいつを見ているだけだ。そんなこと、出来るわけが、
「じゃあ私、行ってきます!」
「ちょ、え!?」
ない、と結論づける前に、あいつは動き出していた。そうだ、あいつ世間知らずだった! あいつに一般常識を当てはめちゃいけない。なにせ、カボチャ頭に恋をするくらいだから。俺がいろいろ考えていた間に何やらメモに自分の情報を書いたらしくて、ずんずんと前に歩いて行ってしまう。止めるのも間に合わず、華鈴はカボチャ頭に話しかけた。
「カボチャさん!」
カボチャ頭は華鈴の声に振り向いて、しばし華鈴のことを見ていた。
「今日もお疲れ様です! あの、これ、私の連絡先です。あなたともっと仲良くなりたくて、お渡ししたいと思いました」
「……」
カボチャ頭は何も言わない。ただ、華鈴のことをじっと見ている。
「受け取ってください! えい!」
華鈴は奴が配ってるお菓子カゴの中にそのメモを投げ入れ、ダッシュでこちらに戻ってきた。本当にやりやがった。
「先輩! やりましたよ!」
「見てたよバカ」
華鈴はしてやったりという顔で俺を見た。が、そのうち何かに気がついたらしく、「あっ!」と大きな声をあげた。何事かと思って首を傾げる。
「ぜひ連絡くださいって言うの、忘れてしまいました……」
なんだ、そんな事。そんな事、と思ったけど、俺だって華鈴に連絡先を教えた時、「なんか聞きたいこととかあったらいつでも連絡して」と言うだけだったのに声が震えた。おんなじなんだと思ったら、余計に胸が苦しくなった。
「来ないといいな」
「先輩、酷いです! 冗談でもそんなこと言わないでください!」
今のは本気だ。もちろん、本気でカボチャが華鈴に連絡なんかしないことを望んでいる。お菓子をもらうふりして近づいて、あの連絡先を取り返してやりたい。華鈴の勇気の手前、そんなことは言えないまま、時間だけが過ぎた。
翌日、サークルの時に心配した様子の桃山が俺に尋ねてきた。
「どうする、って」
「かりんちゃんのこと。諦めんの?」
「諦める? まさか!」
俺はスマホのカメラロールを起動して、スクショしてあったとあるものを読み上げた。
「宝条灯、26歳。10月31日生まれ蠍座AB型。皆さんへの一言、“ぜひお越しください”のみ!」
「え、何何何怖い怖い怖い」
「常連の間で密かにファンクラブが存在するが、そのクラブも彼女の存在を認知してないため、恋人は現在いない模様」
「ちょっ、ちょちょちょ」
「身長推定183cm、シフトに入ってる時間は──」
「止まれ!」
桃山にデコを強打され、言葉を止める。容赦なさすぎだ、超痛い。桃山が何やら信じられないものを見るような目で俺を見ていたので、俺は慌てて言葉を足した。
「この間の俺は、敵を知らなすぎた」
「……お、おう」
「だから、今度は徹底的に調べ上げてから挑もうと思ってだな」
「ちなみにそのデータはどこから」
「店のホームページと常連らしいクラスの女子から」
証明するために、さっき読み上げたものを桃山に見せる。スクショしたのは、店のホームページとその女子とのLINEでのやりとりだ。桃山はそれを全て見尽くしたあと、呆れた顔で俺を見た。
「まぁそれはわかったけど、くっそ気持ち悪いなお前」
「片思いの男なんてみんな気持ち悪いだろ」
気持ち悪いと言われても、それしか考えが及ばなかったのだから仕方が無い。
「三角関係上等だよ。まずは同じ土俵に立ってやる」
打ちのめされても、ただじゃ起きない。俺の挑戦は始まったばかりなのだ。桃山は苦笑を浮かべながら、「頑張れよ」と言った。昨日の俺の落ち込み具合を見ていたこいつには、俺の決意は伝わってくれただろう。
「先輩っ! 今日も一緒に帰りましょう!」
すると、向こうの方で他の子と喋っていた華鈴が、こちらに気づいて駆け寄ってきた。俺の気持ちなどつゆ知らず、こんなことを言ってきやがる。
「とか言って、カボチャ頭見に行きたいだけだろ」
「あは。ばれてしまいましたか!」
ばれてしまいましたかじゃねーよ。半分くらい「違いますよ」って答えを期待した俺の気持ちを返せ。桃山は笑いを堪えて俺を見た。それを睨みつけ、やり場のない気持ちを抑えつつ、ため息混じりで了承した。華鈴は嬉しそうに目を輝かせている。それが俺に向けた物だったらどんなにいいか、と思った。
* * *
カボチャ頭がお菓子を配ってる様子を、遠巻きに眺める。それを、たったそれだけのことを、何十分やったのだろう。それでも華鈴は飽きる様子もなく、近くの植え込みからカボチャ頭を見つめていた。
「……先輩。人生の先輩としてお聞きしたいことがございまして」
「はい」
「私、恋をしたのはあの方が初めてで。恋をしたら次に何をするべきなのでしょうか?」
それを俺に聞くか。それを俺に聞いちゃうのか。睨みつけようかと思ったけど、華鈴があまりにもキラキラした目で俺を見ているもんだから、そんな邪険に出来なかった。
「……まぁ、オーソドックスに連絡先交換すんじゃね」
「どうやってでしょう!?」
「普通に、こっちの番号とかメアドとかLINEIDとかをあいつに教えるか、教えてくださいって頼むか……」
その点、俺は華鈴の連絡先を入手するのは容易かったな。サークル入部の流れで、それとなく聞けちゃって。必要なのは、冷静さを装うことだけだった。何の共通点もない赤の他人にそれをするには、相当の勇気と、切り捨てられる覚悟が必要だ。華鈴はこれを初恋だと言っているし、さっきからあいつを見ているだけだ。そんなこと、出来るわけが、
「じゃあ私、行ってきます!」
「ちょ、え!?」
ない、と結論づける前に、あいつは動き出していた。そうだ、あいつ世間知らずだった! あいつに一般常識を当てはめちゃいけない。なにせ、カボチャ頭に恋をするくらいだから。俺がいろいろ考えていた間に何やらメモに自分の情報を書いたらしくて、ずんずんと前に歩いて行ってしまう。止めるのも間に合わず、華鈴はカボチャ頭に話しかけた。
「カボチャさん!」
カボチャ頭は華鈴の声に振り向いて、しばし華鈴のことを見ていた。
「今日もお疲れ様です! あの、これ、私の連絡先です。あなたともっと仲良くなりたくて、お渡ししたいと思いました」
「……」
カボチャ頭は何も言わない。ただ、華鈴のことをじっと見ている。
「受け取ってください! えい!」
華鈴は奴が配ってるお菓子カゴの中にそのメモを投げ入れ、ダッシュでこちらに戻ってきた。本当にやりやがった。
「先輩! やりましたよ!」
「見てたよバカ」
華鈴はしてやったりという顔で俺を見た。が、そのうち何かに気がついたらしく、「あっ!」と大きな声をあげた。何事かと思って首を傾げる。
「ぜひ連絡くださいって言うの、忘れてしまいました……」
なんだ、そんな事。そんな事、と思ったけど、俺だって華鈴に連絡先を教えた時、「なんか聞きたいこととかあったらいつでも連絡して」と言うだけだったのに声が震えた。おんなじなんだと思ったら、余計に胸が苦しくなった。
「来ないといいな」
「先輩、酷いです! 冗談でもそんなこと言わないでください!」
今のは本気だ。もちろん、本気でカボチャが華鈴に連絡なんかしないことを望んでいる。お菓子をもらうふりして近づいて、あの連絡先を取り返してやりたい。華鈴の勇気の手前、そんなことは言えないまま、時間だけが過ぎた。
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