カボチャ頭と三角形

天乃 彗

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本編

09 結構メンタル削られました

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 ここまで常識を覆されると、俺の常識が間違っていたのかと不安になる。……いやいや! でもここは完全にあっちが間違っている! 

「いやいやいや! 初デートにカボチャ被って来るって! どういう神経してんのあの人!」

 思わず桃山の肩を揺さぶるが、そんなことを桃山に聞いたところで答えが出るわけがない。桃山は苦笑いを浮かべながら二人の様子を観察した。

「つっこみどころは、満更でもない顔してるかりんちゃんにもあると思うぞー、俺は」
「そうなんだよ! なんであいつあんな普通な顔してんだよ! 逃げろよ! 変人だよあれは!」

 普通、デートで好きな人があんな意味不明な格好をして来たら引くと思うんだが。いや、華鈴が好きなのはあのカボチャ頭なんだから、好きな人=カボチャ頭が来るのは当たり前のことなのか? いや、にしてもさ! 

「……? おい、ハギ。カボチャ、なんかスマホで文字打ってるけど」
「あ? 本当だ。よく見えねぇ……。が、ここで俺の双眼鏡が火を吹く!」
「双眼鏡は火を吹かん」

 なんとなくで用意した双眼鏡だが、用意しておいてよかった。こんなことに役立つとは。
カボチャ頭は、スマホに打ち込んだ文字を華鈴に向けた。そこをすかさず双眼鏡で見る。

『すまん。遅れた』

──口で言えそんなこと!! 

 俺から双眼鏡を奪い取り、同じくその文面を見た桃山は、眉をしかめて首を傾げた。きっと俺と同じことを考えている。
 そう言えば、カボチャ頭が仕事中に会いに行ったときも、一言も声は出さなかったっけ。ただ単純に被り物のせいで声が出しづらいから喋らないだけなのか、それとも宝条さんなりの『キャラ作り』なのか。それはわからないけれど、『カボチャ頭』の時は喋らないのがデフォらしい。なんとも滑稽な絵面。

「いっ、いいんです! 私が早く来すぎてしまっただけですから! カボチャさんはお気になさらずっ!」

 そんなお決まりの台詞を吐いた華鈴の顔は、やっぱりほのかに赤くて、すごく嬉しそうだった。デートに少し遅れて来ることも、カボチャ頭で来られることさえも、マイナス要素にはなりえないのか。なら、俺はどうすればいいのだろう。

『これからどうしたい?』

 また、カボチャ頭が華鈴に向けて尋ねた。華鈴がふるふると首を振り、持っていた手荷物を掲げた。

「私、お弁当作って来たんです! お口に合うかは分かりませんが……。あの、天気もいいことですし、何処かでご飯を食べてから、公園をゆっくり散歩したいです」

 華鈴の手作り弁当。それを聞いて思わず喉が鳴る。ああくそ、羨ましい。すると、カボチャ頭はまた何かを打ち込んで、華鈴に見せる。

『それだけでいいのか?』

 確かに、ハタチ超えた大人二人のプランとしては、安っぽい。いや、だからと言って高級レストランとかに行かれてもかなり困るけど。主に俺が。

「はい! カボチャさんが普段見ている風景を見るの、とっても楽しみにしていたんです! それで十分すぎるくらい、楽しめます!」

──うわ。

 ズキッと胸が痛んだのがわかった。
 俺も同じことを思っていた。同じ景色を見たいと願うのは、一緒にいるだけで楽しく思うのは、相手が華鈴だからで。でも、華鈴がそう思う相手は、俺じゃない。
 カボチャ頭はコクリと頷いた。あの中身は今、どんな顔をしているのだろうか。あんな嬉しいことを、あんないい笑顔で言われて。もしかしたら俺が見たことないような、嬉しそうな顔をしているかも。カボチャ頭はジーンズの後ろのポケットにスマホをしまうと、華鈴の腕をとって歩き始めた。華鈴はぎょっとしていたけど、何も言わず、赤い顔でされるがまま歩き出す。

「あ、おい。行っちゃうぞ。追わなくていいのか?」
「追う、けど……」

 追わなきゃいけないことなんてわかってる。でもなんだか動き出すことが出来なくて、桃山の言葉に返事をしながら、俺はただただその背中を眺めていた。

「あと5分だけ待って……」

 思ったより、さっきのが効いた。こんなことで諦め切れるわけはないけど、あれを笑って構えるほど大人ではなかった。だから、あと5分したら、立ち直る。

「……携帯に連絡入れっから」
「ぶゎっ!」

 桃山はそう言いながら、俺の顔面に何かを投げつけた。それがタオルだとわかって顔を上げた時には、桃山は二人を追って走り出していた。

「……泣いてやんの」

 そこでようやく、自分の頬に流れる液体を認識したのだった。


 * * *
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