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本編
10 桃山くんは考えました
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俺──桃山了は今、ちょっとした選択に迫られていた。
5分と言っていたのに、ハギが戻ってこない。しばらく前に二人の居場所は報告したが、既読になっても返事は来なかった。あいつ、何やってんだ。
困ったな。友人としてあいつのことを迎えに行くべきか、あの二人のデートの様子を観察して、ハギに報告すべきか、どちらにしよう。こうしている間にも、二人は昼食を取る場所を決めて、荷物を解いているところだった。二人掛けのベンチに隣り合って座り、その膝に弁当箱を置いている。
カボチャ頭をストーキングするくらいだったから、ハギはちょっとやそっとじゃへこたれないと思っていた。だからさっき、ハギの涙を見て少し驚いた。泣くほど堪えていたのなら、やっぱりそばにいてやった方が良かったかもしれない。でも、二人を見失ってしまうのも怖い。この公園、地味に広いし。
うまい隠れ場所がなくて、かりんちゃんの声が届きにくい。それに、双眼鏡はハギが持っているから、カボチャ頭がかざしたスマホの画面も見えないから、何をかりんちゃんに言ってるのかもわからなかった。だからなんとなく雰囲気で二人の会話を察するしかないんだけど。今はどうやら、かりんちゃんが作った料理の説明をしているようだった。
しばらく迷っていたけど、俺の二択の選択は、今、ここに残る方に傾きつつある。その理由は、箸を片手に、じっと弁当を見つめるカボチャ頭──。
「……どう食べるんだ、あれ」
すごく興味があった。友人の緊急事態より知的好奇心が勝ってしまったことに少しだけ罪悪感を感じつつ、俺はカボチャ頭を凝視する。流石に脱ぐのか? あのままじゃ食べられないもんな? それとも、ジャックオランタンはお化けだから、食べ物なんか食べないって路線で攻めるのか? でもそれは流石に無理があるか。
やっぱ流石に脱ぐだろ。でも、どのタイミングで? 今? それとも一旦席を外すのか。
──どう出る……?
依然として、カボチャ頭は弁当とにらめっこをしていた。かりんちゃんはすこし緊張した面持ちでそれを眺めている。
すると。
「!!」
俺は見た。かりんちゃんに顔を背けながら、カボチャの被り物を少し上に持ち上げ、首あたりから弁当を食らうカボチャ頭を。某非公認キャラクター的に言うと、首から『ジョイント』したのである。
そしてすぐ正面に向き直り、もぐもぐと咀嚼する。それを飲み込むと、不安そうな顔をしているかりんちゃんに向けてグッと親指を立てた。かりんちゃんの表情がぱあっと明るくなる。二口目、三口目もそうやって食べた。どうやらそのスタンスで完食するつもりらしい。すげー大変だと思うんだけど。だったら、脱いだ方が断然早い。
カボチャ頭は、何を考えているのだろう。かりんちゃんを気にしているのは紛れもない事実だとして、そこまでして、彼がカボチャ頭にこだわる理由は何なのか。かりんちゃんの前では絶対に『宝条灯』を見せない──それに何の意味があるのだろう。いろんな意味で、姿を見せた方が手っ取り早い。煩わしくスマホで会話する必要もなくなるし。あんなにいいツラしてるんだから、カボチャの被り物なんてさっさと脱げばいいのに。
「桃山っ」
不意に後ろから声をかけられ、びくりと肩を震わせた。意識が完全に二人に向いていたから、背後の気配には全く気がつかなかった。振り返ると、すこし息を切らしたハギが立っている。
「なんだよハギかよ……びびった」
そして、目線を下に下げると、ハギは何やら大きい買い物袋を提げている。
「遅いと思ったら、何買って来たん──」
いや。尋ねる前に、中身が透けて見えた。おいおい、こいつ……。
「お前が言わんとしていることは分かるぞ。だから聞かない」
顔に出ていたのだろう。俺は思わず口元を手で隠す。多分、相当悩んでから買って来たんだろうなってのが、ハギの顔から分かった。
「じゃあ、言わん」
言わないけど……思うくらいならいいだろう。恋は盲目って言うし。そんな盲目な奴らを、眺めているのは楽しい。だからつい、笑いがこみ上げて来てしまう。普段かりんちゃんのことをバカだとかふわふわとか言ってるけど、こいつも相当。
──バカだよなぁ……。
必死で笑いを堪えながらそう思った、ストーキング中の昼下がりだった。
* * *
5分と言っていたのに、ハギが戻ってこない。しばらく前に二人の居場所は報告したが、既読になっても返事は来なかった。あいつ、何やってんだ。
困ったな。友人としてあいつのことを迎えに行くべきか、あの二人のデートの様子を観察して、ハギに報告すべきか、どちらにしよう。こうしている間にも、二人は昼食を取る場所を決めて、荷物を解いているところだった。二人掛けのベンチに隣り合って座り、その膝に弁当箱を置いている。
カボチャ頭をストーキングするくらいだったから、ハギはちょっとやそっとじゃへこたれないと思っていた。だからさっき、ハギの涙を見て少し驚いた。泣くほど堪えていたのなら、やっぱりそばにいてやった方が良かったかもしれない。でも、二人を見失ってしまうのも怖い。この公園、地味に広いし。
うまい隠れ場所がなくて、かりんちゃんの声が届きにくい。それに、双眼鏡はハギが持っているから、カボチャ頭がかざしたスマホの画面も見えないから、何をかりんちゃんに言ってるのかもわからなかった。だからなんとなく雰囲気で二人の会話を察するしかないんだけど。今はどうやら、かりんちゃんが作った料理の説明をしているようだった。
しばらく迷っていたけど、俺の二択の選択は、今、ここに残る方に傾きつつある。その理由は、箸を片手に、じっと弁当を見つめるカボチャ頭──。
「……どう食べるんだ、あれ」
すごく興味があった。友人の緊急事態より知的好奇心が勝ってしまったことに少しだけ罪悪感を感じつつ、俺はカボチャ頭を凝視する。流石に脱ぐのか? あのままじゃ食べられないもんな? それとも、ジャックオランタンはお化けだから、食べ物なんか食べないって路線で攻めるのか? でもそれは流石に無理があるか。
やっぱ流石に脱ぐだろ。でも、どのタイミングで? 今? それとも一旦席を外すのか。
──どう出る……?
依然として、カボチャ頭は弁当とにらめっこをしていた。かりんちゃんはすこし緊張した面持ちでそれを眺めている。
すると。
「!!」
俺は見た。かりんちゃんに顔を背けながら、カボチャの被り物を少し上に持ち上げ、首あたりから弁当を食らうカボチャ頭を。某非公認キャラクター的に言うと、首から『ジョイント』したのである。
そしてすぐ正面に向き直り、もぐもぐと咀嚼する。それを飲み込むと、不安そうな顔をしているかりんちゃんに向けてグッと親指を立てた。かりんちゃんの表情がぱあっと明るくなる。二口目、三口目もそうやって食べた。どうやらそのスタンスで完食するつもりらしい。すげー大変だと思うんだけど。だったら、脱いだ方が断然早い。
カボチャ頭は、何を考えているのだろう。かりんちゃんを気にしているのは紛れもない事実だとして、そこまでして、彼がカボチャ頭にこだわる理由は何なのか。かりんちゃんの前では絶対に『宝条灯』を見せない──それに何の意味があるのだろう。いろんな意味で、姿を見せた方が手っ取り早い。煩わしくスマホで会話する必要もなくなるし。あんなにいいツラしてるんだから、カボチャの被り物なんてさっさと脱げばいいのに。
「桃山っ」
不意に後ろから声をかけられ、びくりと肩を震わせた。意識が完全に二人に向いていたから、背後の気配には全く気がつかなかった。振り返ると、すこし息を切らしたハギが立っている。
「なんだよハギかよ……びびった」
そして、目線を下に下げると、ハギは何やら大きい買い物袋を提げている。
「遅いと思ったら、何買って来たん──」
いや。尋ねる前に、中身が透けて見えた。おいおい、こいつ……。
「お前が言わんとしていることは分かるぞ。だから聞かない」
顔に出ていたのだろう。俺は思わず口元を手で隠す。多分、相当悩んでから買って来たんだろうなってのが、ハギの顔から分かった。
「じゃあ、言わん」
言わないけど……思うくらいならいいだろう。恋は盲目って言うし。そんな盲目な奴らを、眺めているのは楽しい。だからつい、笑いがこみ上げて来てしまう。普段かりんちゃんのことをバカだとかふわふわとか言ってるけど、こいつも相当。
──バカだよなぁ……。
必死で笑いを堪えながらそう思った、ストーキング中の昼下がりだった。
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