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本編
12 勢いで言っちゃいました
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何してんだろうな、とは思うよ。あんなに敵視していたコレを自ら被ってんだからさ。そのままずんずんとベンチに近づいて行くと、気配に気づいた華鈴が顔を上げた。
「あ、あれ? カボチャさん、お早いですね──きゃ!?」
座っていた華鈴の腕を掴んで引っ張り上げた。引き寄せられた華鈴はよろけながらも立ち上がる。頭の中は、とにかくあいつから離れなきゃってそればっかりで、華鈴に気遣っている余裕はなかった。掴んだ腕はそのままに、グイグイ華鈴のことを引っ張っていく。
振り返ると、置き去りにされた弁当箱が目に入った。でも、荷物なんか知るか。とにかく、あいつから離れなきゃなんだ。あいつとの時間を、少しでも減らさないと、華鈴はどんどん──。
「い、痛いです、カボチャさん……」
華鈴の声にハッとした。我に返って振り返ると、不思議そうな、少し怯えたような──それでいて頬を赤くした華鈴が俺のことを見上げている。それを見たら何も言えなくて、ただじっと華鈴を見ていると、もう一度確かめるように華鈴が「カボチャさん……?」と囁いた。
──そんな目。『俺』にするな。
「俺だよ、アホ!」
ムカついて、何が何だか分からなくて、被り物を脱ぎ捨てた。すると、被り物と俺の顔を交互に見た華鈴が目を白黒させた。
「え……先ぱ……? え? どうして……」
華鈴が動揺してるのがわかる。現れると思っていなかった俺がこんな形で登場したんだ、驚くのは無理もないかもしれないけど。華鈴の目が、『俺』を見る目に変わった。それがどうしようもなく悲しくて、ムカついて。ぶつけちゃいけないってわかってるのに、華鈴にこの苛立ちが向かった。
「俺なんかに色目使っちゃってさ。なんだよ、自分の好きな奴もわかんねーの? こんな被り物一つで」
「……それは」
「お前の気持ちも、その程度のものってことなんじゃねぇの?」
こんなこと、言えば言うほどバカらしいのに。こぼれ出したら止まらない。華鈴がぐっと眉根を寄せたのがわかった。ぎゅっと唇を引き結び、睨みつけるように俺を見る。
「……なんで、こんなことするんですか? こんな意地悪……。先輩、私のこと応援してくれてたじゃないですか……っ」
泣きそうな顔で。泣きたいのはこっちだっていうのに。
応援なんてはなっからしてねぇよ。このふわふわ頭は、何もわかってない。それにもイラついて、どうしようもなくて。でも何よりも腹立たしいのは、『あの人』の仮面を被ってしか、こいつを連れ出せなかった自分だ。『あの人』に向けた華鈴の視線に、ドキドキしてしまった自分だ──。
「なんでなんて、聞いてんじゃねぇよ!」
思わず張り上げた声に、華鈴の肩がビクリと震えた。
「そんなの、お前のこと好きだからに決まってんだろ!」
あぁ──言ってしまった。勢いでこんなこと言うなんて、かっこ悪いにもほどがある。
「……す……?」
「好きだよ! お前があのカボチャ頭を好きだとか言い出すずっと前から! ずっとだ!」
華鈴が、ぱくぱくと口を動かしながら視線を泳がせた。
「俺も、あれ被ってお菓子あげれば良かったのかよ!? あいつみたいに! なぁ!」
肩を掴んで揺さぶる。華鈴はなおもこっちを見てはくれない。
「だったら……っ! あいつみたいにお菓子やるから、お前の心、俺によこせよ!」
俺とあのカボチャ頭との違いがそこだと言うなら、お菓子なんかいくらでもくれてやるから。お菓子なんかいらないから。
──だから、こっちを向いてくれよ。
「……離して、ください……」
小鳥がさえずるよりも小さな声で、華鈴が言った。目線は合わせてくれないままで。
「荷物……置いてきちゃったし……、カボチャさんが、心配、します……」
「……あ……」
「……離して」
小さいけど、きっぱりとした拒絶だった。それでようやく、手に込めた力を緩めた。振り払うように華鈴の身体が離れて、一度も目線がこちらを向かないまま、華鈴は駆けて行ってしまった。
情けない。かっこ悪い。どうしようもない。
立ち尽くしたまま、地面に投げ捨てたカボチャ頭の被り物を見やる。ハロウィン仕様のその被り物は、俺をあざ笑っているようにも見えた。
「あ、あれ? カボチャさん、お早いですね──きゃ!?」
座っていた華鈴の腕を掴んで引っ張り上げた。引き寄せられた華鈴はよろけながらも立ち上がる。頭の中は、とにかくあいつから離れなきゃってそればっかりで、華鈴に気遣っている余裕はなかった。掴んだ腕はそのままに、グイグイ華鈴のことを引っ張っていく。
振り返ると、置き去りにされた弁当箱が目に入った。でも、荷物なんか知るか。とにかく、あいつから離れなきゃなんだ。あいつとの時間を、少しでも減らさないと、華鈴はどんどん──。
「い、痛いです、カボチャさん……」
華鈴の声にハッとした。我に返って振り返ると、不思議そうな、少し怯えたような──それでいて頬を赤くした華鈴が俺のことを見上げている。それを見たら何も言えなくて、ただじっと華鈴を見ていると、もう一度確かめるように華鈴が「カボチャさん……?」と囁いた。
──そんな目。『俺』にするな。
「俺だよ、アホ!」
ムカついて、何が何だか分からなくて、被り物を脱ぎ捨てた。すると、被り物と俺の顔を交互に見た華鈴が目を白黒させた。
「え……先ぱ……? え? どうして……」
華鈴が動揺してるのがわかる。現れると思っていなかった俺がこんな形で登場したんだ、驚くのは無理もないかもしれないけど。華鈴の目が、『俺』を見る目に変わった。それがどうしようもなく悲しくて、ムカついて。ぶつけちゃいけないってわかってるのに、華鈴にこの苛立ちが向かった。
「俺なんかに色目使っちゃってさ。なんだよ、自分の好きな奴もわかんねーの? こんな被り物一つで」
「……それは」
「お前の気持ちも、その程度のものってことなんじゃねぇの?」
こんなこと、言えば言うほどバカらしいのに。こぼれ出したら止まらない。華鈴がぐっと眉根を寄せたのがわかった。ぎゅっと唇を引き結び、睨みつけるように俺を見る。
「……なんで、こんなことするんですか? こんな意地悪……。先輩、私のこと応援してくれてたじゃないですか……っ」
泣きそうな顔で。泣きたいのはこっちだっていうのに。
応援なんてはなっからしてねぇよ。このふわふわ頭は、何もわかってない。それにもイラついて、どうしようもなくて。でも何よりも腹立たしいのは、『あの人』の仮面を被ってしか、こいつを連れ出せなかった自分だ。『あの人』に向けた華鈴の視線に、ドキドキしてしまった自分だ──。
「なんでなんて、聞いてんじゃねぇよ!」
思わず張り上げた声に、華鈴の肩がビクリと震えた。
「そんなの、お前のこと好きだからに決まってんだろ!」
あぁ──言ってしまった。勢いでこんなこと言うなんて、かっこ悪いにもほどがある。
「……す……?」
「好きだよ! お前があのカボチャ頭を好きだとか言い出すずっと前から! ずっとだ!」
華鈴が、ぱくぱくと口を動かしながら視線を泳がせた。
「俺も、あれ被ってお菓子あげれば良かったのかよ!? あいつみたいに! なぁ!」
肩を掴んで揺さぶる。華鈴はなおもこっちを見てはくれない。
「だったら……っ! あいつみたいにお菓子やるから、お前の心、俺によこせよ!」
俺とあのカボチャ頭との違いがそこだと言うなら、お菓子なんかいくらでもくれてやるから。お菓子なんかいらないから。
──だから、こっちを向いてくれよ。
「……離して、ください……」
小鳥がさえずるよりも小さな声で、華鈴が言った。目線は合わせてくれないままで。
「荷物……置いてきちゃったし……、カボチャさんが、心配、します……」
「……あ……」
「……離して」
小さいけど、きっぱりとした拒絶だった。それでようやく、手に込めた力を緩めた。振り払うように華鈴の身体が離れて、一度も目線がこちらを向かないまま、華鈴は駆けて行ってしまった。
情けない。かっこ悪い。どうしようもない。
立ち尽くしたまま、地面に投げ捨てたカボチャ頭の被り物を見やる。ハロウィン仕様のその被り物は、俺をあざ笑っているようにも見えた。
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