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本編
13 何故だか拉致られました
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俺は、振られたのだろう。その証拠……と言ってはなんだけど、あの日以来、華鈴からの連絡はピタリと来なくなった。サークルにも全く顔を出さなくなって、あの後カボチャ頭とどうなったのか、俺は知る術がない。
後悔先に立たずとはまさにこのことで、俺はもうずっと、あの日あんなことを言ってしまったことをいまだに悔やんでいる。情けなすぎるし、子供っぽすぎた。宝条さんとはまるで真逆の、余裕なさすぎの俺──振られるのも無理はないだろう。
あの日から何度目かの携帯チェック。華鈴からの連絡はもちろんない。かと言って、こちらから連絡する勇気も、俺は持ち合わせてはいなかった。
「だからって……来るか、ここ」
ははは、と独り言を言ってみるけど、それは虚しく消えた。
俺はふらりと授業をサボって、ドゥ・ムモンの前に来ていた。外からは宝条さんが働く姿が見える。今日も今日とて無表情でテキパキと働いている。やたら混んでいるなと思ったけど、あぁそうか。今日はハロウィン。華鈴とカボチャ頭が出会うきっかけとなったあの営業の甲斐あってか、とても賑やかではないか。
──ここらが潮時なのかもしれない。
望みが少しでもあるなら、どんな困難も厭わず思い続けるけど……望みのない、叶わない恋をいつまでも追いかけることほど不毛なことはない。人生諦めが肝心だとよく言うし。華鈴が顔を出さない今なら、すっぱりさっぱり、忘れることができるかも。
あの後どうなったんですか、なんて聞くだけ無駄だろう。両思いなのだ、いい方向に進んだに決まってんだ。だったら、俺があの人にかける言葉なんて、たった一つなのだろう。これは、俺なりの決着のつけ方だ。店の扉に手をかけ、中に入った。チャリンチャリンとベルが鳴って、レジにいた宝条さんと目が合う。
「……いらっしゃいませ」
宝条さんはニコリとも笑わずそう言った。この人はこれがデフォだからもう慣れた。俺はペコリと会釈をして、宝条さんと対峙する。
いろいろ言いたいことはある。聞きたいことだって山ほどある。でもそれは言ったところで負け犬の遠吠えでしかないし、聞いたところで今更どうしようもない。だから俺は、言わなければいけないことだけ、この人に伝える。
「宝条さん」
「……はい」
「華鈴を、よろしくお願いします」
そう言って、俺は深々と頭を下げた。勝負は終わったのだ。潔く負けを認めなければ。そしたら、華鈴の幸せを祝福してあげなきゃいけない──“サークルの先輩の萩原さん”として。
「おめでとうございます」
「……」
「じゃ、それだけ言いたかったんで──」
「Rお願いします」
早くここを去ろうと背を向けた時、よくわからない言葉が聞こえて思わず振り向いた。しかしどうやらそれは俺に向けた言葉ではなかったようで、遠くでスタッフの誰かが「はーい」と返事をした。Rってなんだ? 訳がわからないまま固まっていると、スタスタとカウンターを出た宝条さんが俺の腕を掴んだ。
「えっ、ちょ!?」
何事!? 俺、拉致られてる!?
動揺する俺を尻目に、俺の腕を引いたまま宝条さんは店を出る。無言のまま引きずられ、どこへ行くのかもわからない。混乱する頭の片隅で、何故だか少し冷静に、あぁそうか、Rって休憩のことかも、と考えた。
後悔先に立たずとはまさにこのことで、俺はもうずっと、あの日あんなことを言ってしまったことをいまだに悔やんでいる。情けなすぎるし、子供っぽすぎた。宝条さんとはまるで真逆の、余裕なさすぎの俺──振られるのも無理はないだろう。
あの日から何度目かの携帯チェック。華鈴からの連絡はもちろんない。かと言って、こちらから連絡する勇気も、俺は持ち合わせてはいなかった。
「だからって……来るか、ここ」
ははは、と独り言を言ってみるけど、それは虚しく消えた。
俺はふらりと授業をサボって、ドゥ・ムモンの前に来ていた。外からは宝条さんが働く姿が見える。今日も今日とて無表情でテキパキと働いている。やたら混んでいるなと思ったけど、あぁそうか。今日はハロウィン。華鈴とカボチャ頭が出会うきっかけとなったあの営業の甲斐あってか、とても賑やかではないか。
──ここらが潮時なのかもしれない。
望みが少しでもあるなら、どんな困難も厭わず思い続けるけど……望みのない、叶わない恋をいつまでも追いかけることほど不毛なことはない。人生諦めが肝心だとよく言うし。華鈴が顔を出さない今なら、すっぱりさっぱり、忘れることができるかも。
あの後どうなったんですか、なんて聞くだけ無駄だろう。両思いなのだ、いい方向に進んだに決まってんだ。だったら、俺があの人にかける言葉なんて、たった一つなのだろう。これは、俺なりの決着のつけ方だ。店の扉に手をかけ、中に入った。チャリンチャリンとベルが鳴って、レジにいた宝条さんと目が合う。
「……いらっしゃいませ」
宝条さんはニコリとも笑わずそう言った。この人はこれがデフォだからもう慣れた。俺はペコリと会釈をして、宝条さんと対峙する。
いろいろ言いたいことはある。聞きたいことだって山ほどある。でもそれは言ったところで負け犬の遠吠えでしかないし、聞いたところで今更どうしようもない。だから俺は、言わなければいけないことだけ、この人に伝える。
「宝条さん」
「……はい」
「華鈴を、よろしくお願いします」
そう言って、俺は深々と頭を下げた。勝負は終わったのだ。潔く負けを認めなければ。そしたら、華鈴の幸せを祝福してあげなきゃいけない──“サークルの先輩の萩原さん”として。
「おめでとうございます」
「……」
「じゃ、それだけ言いたかったんで──」
「Rお願いします」
早くここを去ろうと背を向けた時、よくわからない言葉が聞こえて思わず振り向いた。しかしどうやらそれは俺に向けた言葉ではなかったようで、遠くでスタッフの誰かが「はーい」と返事をした。Rってなんだ? 訳がわからないまま固まっていると、スタスタとカウンターを出た宝条さんが俺の腕を掴んだ。
「えっ、ちょ!?」
何事!? 俺、拉致られてる!?
動揺する俺を尻目に、俺の腕を引いたまま宝条さんは店を出る。無言のまま引きずられ、どこへ行くのかもわからない。混乱する頭の片隅で、何故だか少し冷静に、あぁそうか、Rって休憩のことかも、と考えた。
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